娯楽
船大工の職人さんから連絡があり、アンヌを連れて作業場にお邪魔した。
「お、ユウヤあんちゃん、できたぜ」
そこには頼んでおいた。ボウリングの木製のピンとボール。それにレーン。
それらを手に持って確かめてみる。
「うん。いい感じだ。さすがだぜ、おやっさん」
「ふっ、俺様にかかればこんなもんよ。で、嬢ちゃん。子供用のボールはどんな感じだ」
アンヌはボールを持って振っていた手を止めて答えた。
「うん。前より良くなったよ」
「そっかぁ。おっちゃんも頑張った甲斐があった」
アンヌの笑顔に絆される強面の職人の笑顔にやや俺の頬がひきつる。
「よし。これを運んで組み立てますか」
分割されたレーンやボール、ピンなどを荷馬車に積んで島長に用意してもらっていた建物に移動した。
額に汗し、レーンなどを組み立て設置していると雪乃達がやってきた。
「お疲れ様」
「おう、雪乃。もう少しで完成するからちょっと待っててくれ」
あらかじめ用意していたレーンを取り付ける台座にレーンとその脇にあるガータ用のレーンを溝に嵌め込んでいくがこれがまた難しい。段差が出来ないようにきっちり嵌め込むのに苦戦していた。
「これは一体なんだ」
「ボウリング。島の人が雨とかの日に娯楽があまりないって言ってたからな。島長に相談してここに設置する許可をもらったんだ」
赤と黒。それと子供用のピンクと青のボールを交互に持ってグレースが訊いてきたので答える。
ようやくレーンを取り付けて後ろに回り、ボールやピンの飛び散り防止用の厚めのコルクを貼ったボックス。その後ろの板を倒してピンをセットした。
「よし、これでオッケー。完成したぜ、おやっさん。これがボーリングだ!」
おっちゃんとハイタッチして完成を喜ぶ。
今回は一レーンしか設置してないが、今後は五レーンまで増やすことになっている。
「では、さっそく遊ぶか」
船大工の若い衆が島長を呼んできてくれたみたいで、この場にいる皆んなにルールの説明をした。
試技ということで全員で順番に一ゲームづつ遊んでもらう。そして俺はピン係をした。
「雪乃、あんまり強く投げるなよ!」
知識だけある雪乃にお手本として最初に投げてもらうことにした。
「うん、いくよっ!」
赤のボールを美しいフォームで雪乃は投げた。相変わらず何をやらせても卒がない。しっかりストライクを取る。
「やったぁ!」
「ナイス!」
バックボードに落ちたボールを横の返却レーンに乗せて返して、またピンを並べた。
その後、夢中になって皆が投げて遊んでいると、すっかり日が落ちていた。
おやっさんや島長。それに船大工の若い衆もとても気に入ったようで、なるべく早く他のレーンを作ると張り切っていた。皆んなのそんな笑顔をみて、喜んでもらえて良かったと安心した。
「これ、タダで教えて良かったのか」
そんなグレースに笑って答える。
「当たり前だろ。こんなので儲ける気なんてないし、島の皆んなが楽しんでくれたらそれでいい」
「ユウヤらしいな」
そう言ってグレースが俺の尻を撫でたので、ピシッと手を叩いてやった。
「ケチ」
「セクハラすんな。訴えるぞ」
そんな彼女を尻目に、俺は雪乃と腕を組んで帰り道を歩いた。
「ヴェネシーアに帰ったら造ろうよ」
「ああ、それもいいな。でも、またトニーさんが忙しくなっちゃうな」
「だね。そろそろストレスで禿げたりして」
「それはまずいな。トニーさんにも長期休暇を取ってもらおう」
そろそろバカンスも終わりが近づいてきた。
そんなことを思いながら、俺は星空の下、星を眺めながら雪乃とのんびり帰った。
◇
ヴェネシーア女王から送られてきた書簡と金貨を眺めて困惑していた。
「これは当然のように此方が申し出を受けると考えて送ってきてるよな」
「左様ですね、陛下。しかし、断る理由がありません。我が国にとってもハンガリー王国がオスマン帝国に吸収されるのは困りますからな」
確かにそうなのだ。我が国としてもオスマン帝国と直に隣接する事は好ましくない。それにオスマン帝国のさらに東の国の動きも気になる。
「今回は貸しということにして、その申し出を受けよう。それでどれくらいの規模で援助するか、だな」
「武器と食料。それらをこの程度であれば問題なくすぐに送れます。ただ、ハンガリー王国からは援軍も送ってほしいと暗に此方に申しています」
「援軍は却下だ。そもそも同盟国でもない」
「はい。では武器と食料を支援するよう手配いたします」
「うむ。それで頼む」
しかし、私とユウヤ殿の関係を傘にきて依頼ばかりされるのも少しだけ癪に触る。此方も何かしてみるか。
「そういえばジブラルタルでの治安が悪くなってるそうだな」
「はい。我が国の重要な軍港でもありますので、マフィアに暗躍されても困ります。何より、そのマフィアから金が総督に流れているのが一番問題です」
「総督は確か、家の歴史だけが取り柄のシャウザー家の当主だったな。潰れてくれても問題ないな」
「潰れても、とは。まさか、ユウヤ殿に依頼するのですか」
「そのまさかだ。マフィアと総督、どちらも叩いてもらう。それと、ヴェネシーアとの海軍共同演習もジブラルタルで行ってもらう。他国への牽制にはうってつけだ」
「成程。グレイシア女王陛下への返礼がわりですな」
「偶にはそれくらいしても許されるだろ」
こうして私は彼に依頼する事にした。
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