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神様と歩む悪党街道  作者: そらまめ


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オスマン艦隊

 なんとなく俺一人だけが気まずさを感じながら皆で夕食をとっていると、とある海軍将校が食堂に入ってくるなりグレースに一礼をして彼女の耳元で何かを伝えていた。

 伝え終わると彼女から離れ、一礼して一歩下がり、その場で彼女から下される指示を待っていた。


「急いで戦闘準備しろ。済みしだい夜間の急襲を掛ける」


 その指示に対し、短くはっ、と答えて、海軍将校は食堂から出ていった。

 その長くはない彼女と将校のやり取りはまるで映画のワンシーンのようで、かっこいいと思いながらも、やはり彼女は偉大な女王なのだとあらためて感じた。


「ということだ。皆に申し訳ないが、私は席を外す」

「お母様が出られるのですか」

「海の上で先陣に立たぬ王など、この国には必要ない。お前も覚えておけ」


 颯爽と食堂から立ち去っていく彼女の後ろ姿は、高貴でいて孤高。荒々しさを一切感じさせない強さを強烈に心へ植え付ける。


「あの姿には憧れるな」


 その悠哉の言葉が彼女の耳に届いていたならば、彼女はきっと拳を握って小さく喜んでいただろう。



 内戦が激しくなったハンガリー王国に、東のオスマン帝国が攻め込んできた。次々と重要な拠点を占領し、破竹の勢いで進軍していた。さらに、補給の観点から海上からも支援すべく艦隊を派遣していた。

 ただ、オスマン帝国は知らなかった。

 この海域にアドリア海の偉大なる女王。その本人がいる事を。


 グレイシアは新型艦に乗り込むとそのままブリッジへ上がる。艦長及び将校達が儀礼にそって彼女を迎えた。


「状況は」

「我が艦隊十に対し、敵艦隊三十です。現在の敵艦隊の位置から推測するに明朝にはこの海域に姿を見せると考えられます」


 海図を指差しながら作戦将校が説明した。


「勿論、敵は我々には気付いているのだろう」

「それが敵は補給路の確保に急いでいるらしく、周囲の警戒や索敵がややお粗末になっております。おそらく、こちらに通常戦力しか配置されていないと思っているでしょう」


 グレイシアは海図に目をやりながら暫し思案した。そして、ある場所を指差す。


「中央にこの新型艦を先頭に四隻をダイヤ形に。両翼は各三隻を鏃形に組め。そして速やかに、静かに接敵し、一隻残らず海の藻屑とせよ」


 その号令により一斉に人や物が動きだした。


 ヴェネシーアが長年これ程までに強大にアドリア海に君臨できたのも、圧倒的に他国に勝る操舵技術とその艦隊運用。また、敵を薙ぎ払う絶大な威力を誇る魔導兵器があったからこそである。

 もっとも、それらを可能にする造船技術や魔導兵器技術があって初めて成り立つ訳なのだが。


 しかし、何故そんな強大な海軍力を擁して海洋制覇に乗り出さなかったのか。何故、アドリア海だけで満足しているのか。それには確たる理由が存在した。


 それは長年にも渡る覇権争いで国や民が疲弊するよりも、今の栄華と繁栄で十分と判断したからだ。


『過ぎたる欲は破滅を生む』


 この言葉を歴代の王は頑なに守り、それを実行してきた。



 鮮やかな赤を主体とし黄金に縁取られた軍服を身に纏い、グレイシアはブリッジの外に出て、高い場所から兵士達を見渡した。


「このアドリア海が誰のものか、敵に示してやれ。

 我らの海を犯すものに容赦はしないと、敵の胸に叩き込め。

 我らが進む海に。我らの征くて阻むものなど何もないと、愚か者どもに教えてやれ。


 行け! ヴェネシーアの威を敵に示せ!」


 皆一斉に腕を高く突き上げ、鬨の声をあげて、決意と覚悟を、敬愛する偉大なる女王に捧げる。


 その皆の姿に満足し、彼女は軽く一度うなづくとブリッジの中に戻った。


「行動を開始せよ!」


 ヴェネシーア艦隊はその船足を加速させる。

 オスマン艦隊の縦に緩み切った隊列に中央はそのまま直進。左翼は敵の中腹を喰い破るように左から回り込む。そして、右翼は大きく右から回り込み敵艦隊の背後を狙った。


 まず、ヴェネシーアの遠距離広範囲爆烈魔導兵器から戦闘開始を告げるように魔法が放たれた。

 オスマン艦隊の先頭上空に巨大な魔法陣が展開されると、そこから爆烈魔法が炸裂した。


「魔法の命中を確認。敵艦隊凡そ十隻を撃破しました」


 此方まで届く衝撃波と熱風で鑑が揺れる中、その報告にグレイシアは口角をあげた。


「中央は十一時方向に直進。右翼は左翼の敵艦隊横断後に背後から突撃。

 行け! 左翼は存分に敵艦隊の横腹を喰い破れ!」


 奇襲とはいえど、ヴェネシーア艦隊のワンサイドゲームだった。

 敵に突撃する艦は前方に防御シールドを展開しながら、一方的に近距離魔導兵器で四方八方を焼き払い、ほぼ無傷で突き進んだ。左翼の横断後、右翼が背後から突撃した後には、オスマン艦隊は全艦炎に包まれていた。


「一度の交差で終わるとは、敵は不甲斐ない。これでは新型艦のテストにもならん。まったく、見せ場なしで終わってしまったな」


 ブリッジの席の背もたれに背を預けると、グレイシアはそう嘆いた。

 しかし、その表情からは安心したようにもとれる。

 皆、敬愛する女王陛下の裏腹な言葉をそのまま受け止めたりはしない。


「はっ、この完勝も偏に陛下の徳ゆえにございましょう」

「馬鹿を申すな。私に徳があるなら義息子の心を狙ったりはせんよ」

「いえ。欲しいものは必ず手にする。これも王の覇業の一つかと」


 そんなグレイシアと艦長の会話で周りの将校達から笑いが起きる。


「さあ皆の者、帰るぞ。義息子が首を長くして待ってるからな」


 彼女は冗談めいた言葉で帰還を命じる。

 まるで舞台役者が大袈裟に演技をするように。


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