初動
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本日あと二話投稿します。
執務中のシャルルは背筋がゾッとして急に身震いをした。突然なにか得体のしれない悍ましい気配を感じたからだ。
「ハンス。ヴェネシーアとの同盟はどうなっている」
「はっ、彼の国の返答待ちですが、無事に同盟は結ばれるかと」
「いいか。なにがあっても必ず関係を強固にしろ。それとオートリアへの侵攻準備は」
「そちらは問題ありません。既に国境に配置し終えてあります」
「いいか。間違っても絶対にヴェネシーアに被害をかけるな。そんな事になれば我が国に厄災が訪れることになるからな」
「被害をと言われましても、オートリア兵がヴェネシーアに逃げ込んで掠奪する可能性もあるとは思いますが」
「そんなのはいい。私達が、だ。いいか、オートリア兵を追ってヴェネシーアに入ることは許さんからな。ちゃんと将軍たちに厳命しておけ」
「はっ、かしこまりました」
シャルルはなんとなくだが自身の身の危険を感じて釘を刺しておいた。その直感は褒めてもいい。
「それで陛下。ヴェネシーアは動くと思いますか」
「動かんだろう。既にアドリア海の海上はヴェネシーアが支配している。ハンガリーの沿岸部など手に入れたくないだろうさ」
「そうですな。常に火種を抱えている地域など危険なだけですからな」
わかっているなら聞くな。そう言いたげな面持ちで軽くシャルルはうなづいた。
そして立ち上がり、窓へ振り返ると空を眺めた。
「オートリア如きでモタモタしてられん。イベリア半島の情勢安定にも努めなければならない。やることは山積みだ。諸君らの奮闘を期待する」
険しい目で空を眺めてはいるが、内心では悠哉の顔が浮かび言いようのない不安を感じていた。
頼むからしくじってくれるなとシャルルは強く願っていた。
◇
俺と雪乃は野党退治の支度をしていた。今回同行するのはアリステラのみだ。本当は二人で行きたかったのだが、それを周りは許さなかったからだ。
本当にしつこかった。あきらめてはくれなかった。
「本当に馬車は必要ないのですか」
「要らん。今回は馬だけでいい。俺と雪乃は二人乗りするから一頭でいいぞ」
「私も同行するのですが」
「いや、しなくてもいい。寧ろ邪魔だ」
愕然とした表情で項垂れるアリステラ。そんな彼女をつい揶揄いたくなって先程から揶揄っていた。
「もう、かわいそうだよ。アリス泣きそうになってるから」
しまった。少々度が過ぎたようだ。
「こめん、アリステラ。つい揶揄いすぎてしまった。お詫びに何でも一つ言うことを聞こう」
「本当ですか。なら、ギュッと抱きしめてください」
そんなものでいいのかと思い。彼女をギュッと抱きしめると、周りから静かなブーイングが起こる。
アリステラは俺から離れると、何故か周りに勝ち誇っていた。
「争い。というか、競い合うレベルが低すぎないか」
そんな独り言をつぶやいた。
「冬の野営用にとっておきの秘策も用意したしな。このノワール様に隙はない。それとアリステラ、君はアルジョンと名乗りたまえ。いいか。これから俺達はノワール、ブラン、アルジョンだ」
「そしてアルジョン。これが貴女の衣装よ」
ブランから手渡された衣装は長いスリットの入った銀色のドレス。スリットで開かれたスカート部分の裏地からは鮮やかな赤色をのぞかせていた。
アリステラが実際に着てみて分かったが、かなりエロい。さらに帽子も形状こそブランとは違うが同じようにヴェールがついていて顔を隠していた。
「なんか、妙にエロいな。コンセプトはブランは清楚で、アルジョンはセクシーなのか」
「そうだよ。このドレスの銀色も、なんとなく銀色なのかと思わせるような上品な色にしたの。私のこだわりを満載だよ」
「雪乃様。こんなに素敵なものを、私の為にありがとうございます」
「うん。でも、雪乃じゃなくてブランだよ。気をつけてね」
スリット部分の主張しすぎないフリルもいいよな。ほんと、天才だよブランは。
だが、他の女性陣の羨ましそうな顔に、なんとなく胸が痛くなる。
「なあ、他の人のやつも出番が来たら作ってくれよ。マチルダなら金を意味するドレ。ソフィアは俺と同じ黒だから夜を意味するニュイにしよう」
「うん、わかったよ。気合を入れてつくるね!」
「ところで前々から思っていたのですが、ブラン様の場合ブランシェが正しいですよね」
博識のマチルダから指摘が入った。
「そうなのか。本当にそうなのか! なら、なんて俺は愚かな間違いを」
俺は膝から崩れ落ちた。あまりの衝撃に胸を強く抑える。
「なら、たった今からブランはブランシェだ。ノワール&ブランシェに名声を書き換えよう。そうだ、それしかない。ノワール&ブランの名を知ってるやつを残らず消せば問題ないな」
胸を抑えながら、絞り出すような声で言葉にする。
「問題だらけですから! 悠哉様は一体どれだけの人を殺めるつもりなのですか!」
アリステラのその悲痛な叫びにも、俺の心は一切揺るがない。
「大丈夫だよ。私達の名を聞いた者は殆どが亡くなってるから。新たにブランシェの名を広めればいいんだよ」
背中から優しく抱きしめてくれた雪乃の言葉に納得する。
「そうだな。雪乃の言う通りだ」
「私達は一体何を見せられているのでしょうか」
ソフィアがポツリと溢した。




