魔道具
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この世界では電気や石油の代わりに魔石を使用した道具が存在する。その魔石は鉱山から採掘したり、魔物やダンジョンから得られたりもする。
そしてこのヴェネシーアは世界最大の貿易都市として様々な国の知識や文化、高度な技術を用いた道具や兵器などが数多く流れ込んでくる。故に、魔石を用いた魔道具においてヴェネシーアは高い技術を要していた。
そんな国の軍艦の演習を眺めていた。
「軍艦が帆船なんて遅れてるな。魔道具でスクリューなり、ジェット水流なり出来ないのか」
あ、出たよ。異世界ラノベあるある。なんて自分で思いながら、自分で出来もしない感想を口にした。
「なんですか、それは」
今日はソフィアと二人きりで出掛けていて、そんな彼女が質問してきた。
「スクリューてのはこんな感じの物が回転して推進力に変える。ジェット水流は片方から水を吸い込んで、もう一方から水を噴射して推進力を得るんだ」
木の棒で地面に絵を描きながら、ざっくりと説明した。
「そんなもので船が動くものなのですか」
「俺も詳しくは知らないが、俺の居た世界ではそうだったぞ」
あごに軽く手を当てて考えこむ横顔に、桜を思い出す。本当に瓜二つだ。
「でしたら、これを魔道具で動かせれば飛躍的に向上しますね」
「ん、魔道具には詳しいのか」
「いえ、嗜み程度です。けれど、これを実現出来たならば風を気にせずに自由に航海できます」
さすがは海洋都市のお姫様。自国の利には目敏い。
そんな真剣な表情にも失礼だとは思うが、俺は桜との思い出を重ねてしまう。
やっぱりまだ好きなのかな
「悠哉様、どうかしましたか」
「いや、ソフィアは俺のことが好きか」
ソフィアの頬が赤く染まるのを見て、桜のことを思い出して変な事を口走ってしまったと後悔する。
「いや、なんでもない。今の質問は忘れてくれ」
「好きです。私は悠哉様のことを愛しています」
その言葉を聞いて、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしてうつむいた。ソフィアの、その真摯な眼差しに目を合わせることが出来なかったからだ。
「ごめん」
蚊の鳴くような声でそうつぶやくのが精一杯だった。
「悠哉様が謝られる事ではありません。たとえこの気持ちが報われなくても。私はこの想いを、自身で否定したくはないのです。だからどうか、お気になさらないでください」
心とは裏腹に、俺はソフィアを抱き寄せて、強く抱きしめた。
いや、心からそうしたいと思ったのかもしれない。
しばらくの間、彼女を抱きしめた後、そっと離れた。
そして、どうしてそうしてしまったのか分からないが、彼女と手を繋ぎながら海沿いの道をただゆっくりと歩幅を彼女に合わせて歩いた。
◇
その次の日からソフィアに頼まれて二人でスクリューの魔道具製作に取り組んだ。
まずは小型の試作機の製作に取り掛かった訳だが、スクリューを回転させる機構の段階からつまづいた。そういった機構に詳しい職人に詳細は明かさずに相談しながら一つ一つ課題に取り組む。
そんな俺とソフィアの姿を雪乃はただ微笑ましいといった表情で見守ってくれていた。
「こうしてると学生時代を思い出す」
「どんな学生だったのですか」
「不真面目な生徒だった。授業をサボってばかりで遊んでばかりいたな」
そんな過去の自分に少しだけ恥じていると、ソフィアは愉快そうに笑顔を浮かべた。
「駄目な生徒だったのですね」
そう言って彼女はクスクスと笑った。
そんな無駄話をしながらも真剣に魔道具作りに取り組んだ。時には軸が折れて壊れたり、部品が飛び散って怪我をしそうになったりとしながら製作を続けた。
そんな俺達の姿をみて、アリステラやマチルダが呼びもしないのに手伝いと称して様子を伺いにきた。そしてその度に雪乃に邪魔をするなと怒られていた。
気付けば、はや半年が経とうとしていた。
「どうにか試作機が出来たな」
「はい。これを軍艦の模型に組み込ませるだけですね」
目の前にある木造全長二メートルほどの軍艦模型にスクリューの魔道具を組み込んでいく。
かなり精巧な造りに驚きもしたが、このくらいの精度が無ければ試験に適さないとソフィアが教えてくれた。
二日掛りで模型に組み込んで試作機は完成した。
そのテストは極秘に行われ、雪乃をはじめとした皆と、グレースとその重臣達に見守られながらスタートした。
軍艦模型を海路に浮かべて、俺とソフィアは互いに目配せをしながら、コクンとうなづいた。
軍艦模型の後部デッキに取り付けてあるスイッチを二人同時に手を重ねて押した。
ブーンと音がしてスクリューが回転を始めると、軍艦模型はゆっくりとそのスピードを上げながら海路を進んでいく。それを見て、俺とソフィアは抱き合って喜んだ。
また、それに呼応するように周囲から歓声があがる。今まさに技術革新の一歩を踏み出した瞬間だった。
「やったな、ソフィア!」
「はい!」
俺はソフィアを高く抱いて大喜びした。
この世界に来て、初めて努力して何かを成し得た瞬間だった。それがとても嬉しかった。




