新たな生活
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かつてはアドリア海の孤島などと呼ばれたヴェネシーア本島も魔法を用いた建築により大陸と繋ぐ一本の長い橋が掛けられている。その橋も貿易都市に相応しく、大型の荷馬車が二台はすれ違うことの出来る幅となってはいるが、船で運んだ方が早く大量に物を送れるため、実際は人の行き来をメインに利用されていた。
そんなヴェネシーア本島にある宮殿で俺とグレースは意見の対立により激論を交わしていた。
「なぜ勝手に屋敷など建てたのだ。離宮でよいではないか!」
「建ててねぇし。元からあった屋敷を住みやすいように改築しただけだろうが。それになんで俺が離宮で住まなきゃいけねぇんだよ!」
「私の義息子だろうが一緒に住むのが当然であろう!」
要は、離れて自由に暮らすからよろしく。そんな勝手は認めません。の、互いに意見を譲らない出口の見えない激論が繰り広げられていた。
そんな二人をやや遠目で見守る雪乃達は、心底どうでもいいといった表情をしていて、既にこの対立から中立の立場をとっていた。
「離宮なんて堅苦しくて嫌だね。そんなに強要するなら家出してやる!
「ほう、義母であり愛人の私の言うことが聞かないというのか!」
「しれっと愛人とか嘘つくんじゃねえよ。そうやって既成事実化するのはやめろ!」
最早、親子喧嘩というよりは夫婦喧嘩に近い様相を呈していた。
「ほんと仲良いよね」
「そうですね。感性が近いのでしょう」
雪乃とマチルダがお茶を飲みながらそんな感想を溢す。
「いいか。これでも気を遣ってやったんだぞ。本当は大陸の方に本拠地を構えたかったんだからな!」
「防衛の観点からならば海洋都市の方がよかろう」
強力な遠距離広域魔法が編み出された今となっては、もはやその観点は過去のものだった。
しかし、互いに熱くなった感情はそんな事を気にしない。寧ろ余計に感情が昂ぶり両者は睨みあう。
だが、そんな激しい口論も唐突に終わりを告げる。
「お母様は一人離れて暮らすのが嫌なのですよね。なら、一緒に暮らして宮殿に通えばいいだけではありませんか」
「そうだ。そうすれば良いんだよ」
椅子にふんぞり返り顔を横に向いて腕を組んでいる悠哉は特に考える事もなく口を滑らせる。
その言葉にグレースはニヤリと口角を上げた。
「実質的に悠哉くんは敗北したね」
「ええ、ソフィアの絶妙なタイミングでの介入。お見事です」
お茶を片手に、呑気に雪乃とアリステラが解説していた。
「そうだな。なにも離宮以外から宮殿に通ってはならないと決められている訳でもないからな」
そこで悠哉は己の失言に初めて気付く。
「待て。女王様がそんな事をしては」
「確か、男には二言はないのだったな」
そのとどめの言葉に悠哉は押し黙る。勝敗は此処で決した。
「どれ、それではそのように手続きをしなければな。いゃあ、義息子がわがままで本当に困る。けれど、私とは離れたくはない。なんて、かわいいわがままよな」
優雅に席を立ち、周りにいた家臣達に聞こえるように、わざと少し声を大きく話して立ち去っていく。その歩く姿は女王の威厳を見せつけていた。
一方、悠哉はテーブルにうつ伏して、誰にも悟られないように悔し涙を密かに流していた。
◇
口論に敗北し黄昏ていた俺ではあったが、スコットさんの息子のトニーさんと面会していた。
「ロマーニャと同じように運営の仕方を変えたお陰で、何もかもが以前の収益を上回っております」
「それは上々。孤児院の方はどうなっている」
「そちらは正教会からの圧力もあって難航しています。いっそのこと、子供向けの住み込み職業訓練施設にした方が摩擦は少ないかと」
そりゃあ、正教会としては孤児院は慈善事業の一環だしな。その利権に横槍は入れられたくはないか。
「そこで夫を失い、生活に不安のある女性たちを雇う訳だな。その方が女性の雇用も増えて逆にいいかもな。さすがはトニーさん。よく考えてる」
「いえいえ。ただ一つ問題があって、その職業訓練をする教師の確保が難しいのです」
まあ、引退した職人を集めるのも無理があるか。ましてや現役なんて余計に駄目だろうし。難しい問題だな。
「なら、全寮制の学院にするのはどうだ。学問や武術、魔法などを教える学院。0歳から五歳までの幼児向けの学院と、その年齢より上の学院に分けて運営するのはどうだ」
「上の学院は何歳までとお考えですか」
「成人となる15歳だな。その歳からは逆に自立してもらわないと困るだろ」
「そうですね。では初等学院と中等学院として設立します。場所は本島ではなく、大陸で宜しかったのですよね」
「そっちの方が確保しやすいだろ。それに広々とした場所で健やかに育ってもらいたい」
「ではそのように手配いたします」
これで孤児たちの問題も少しは解消されればいいと思う。
でもあれだよな。ロマーニャの時よりも莫大な利益が転がりこんできたよな。規模が此方の方が大きいのもあるけど。ほんと、ぼろ儲けし過ぎ。
「あ、教師の方は俺からグレースにも頼んでおくから。それと、金は出し渋るなよ。必要と思った時は思い切って使え。任せるから頼んだぞ」
カジノに娼館。少しピンクな酒場や奴隷商などの多額の儲けに、あの忌々しい敗北の記憶を忘れた俺は意気揚々と新しい屋敷に戻った。




