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転生

本日五話投稿します。3/5

 臭い。汚い。何もかもがあり得ない。

 この世界で一番の大国だという国の王都とやらを訪れた感想はその一言に尽きる。

 石畳の大きな通りはまだマシなのだが、少し奥に入った路地裏は糞尿まみれ。とてもじゃないが多くの人が暮らす大都市とは思えなかった。


「所詮こんなものよ。支配層以外は家畜程度の存在なんだから」


 白のヴェールが付いた白いキャペリンを優雅に被り、光沢のある白いワンピース姿の麗しき女性がため息をついた後、吐き捨てるようにそう口にした。


「まあ、何もしなくても勝手に増えると思ってんだろうな。けど、不衛生から引き起こされる流行病の前では支配層だろうが平民だろうが関係ないけどな」

「自分達は特別だと勘違いしてるのよ。神と自然の前では等しく愚かでか弱き存在なのにね。ところであなた、その服とても似合うわよ」


 黒一色の身なりの良さそうな服装。そんな俺の姿を見て麗しき女性は言葉とは裏腹に軽く笑う。


「ブラン、君が選んだ服だろ」

「ええ、そうね。ノワール。笑ってごめんなさい」


 麗しき女性は俺の腕を抱いて、そのまま甘えるように寄り添いもたれ掛かった。


「陽も傾きかけた。そろそろ宿に戻ろう」

「ええ、そうね。私も少し歩き疲れたわ」


 夕日を背に、二人は腕を組んだままゆっくりと歩き出した。


「ところでなんで顔を隠してるんだ」

「下々の者に顔を見せる必要がある?」

「はいはい。女神様は尊き存在ですからね。お安くないですよね」

「ちょっと。素に戻ってるわよ。誰かに見られたらどうすんのよ」

「安心しろ、誰も見てねぇよ」


 少し後ろを振り返り、路上に倒れている男達を見た。


「まさか先にカツアゲされるとはな」

「良いじゃない。ちょっとした情報も得られたし、今夜のご飯代くらいはもらえたし」

「だな。それでは宿に戻りましょうか。我が麗しき愛しのレディ」

「きちんとエスコートしてね、ダーリン」


 互いに顔を見合わせて同時に吹き出して笑う。

 こんなくだらないごっこ遊びも楽しいものだと。

 二人は充分に笑い合った後、夕陽を背に、長く伸びた影を追うようにまた歩き始めた。



 ◇


 王都で最高の宿屋。その中でも最上級の部屋。

広く豪華な室内はリビングルームとベッドルームの二部屋があり、トイレや広いお風呂も付いている。

 そんな豪華な部屋の調度品にやや気後れし、緊張のあまりソファに浅く座り、ピンと背筋が伸びていた。


「なにそんなに緊張してるのよ。まさか私と一緒だからって照れてる?」

「違うから。こんな高そうな物に囲まれて、もし壊したら大変だろ。そう思うと……」


 壊した時を想像して思わず身震いがした。


「庶民過ぎ。お金はたくさんあるんだから心配ないわよ。それよりもさっさとお風呂の用意して」


 そんなことを話しながら、彼女は宙に浮かぶモヤモヤとした空間から着替えやシャンプーなどを取り出してテーブルに並べていた。


「はい。これ悠哉くんの寝巻き」


 そう言って差し出されたものは黒い薄手のガウンだった。


「なんか成金くさいんですけど」

「文句言わない。あとで好みのものを作ってあげるから今は我慢して」


 そう言い残して彼女は湯が溜まったのかを確認しに行った。

 風呂に入るために上着などを脱いでシワにならないように丁寧に服をハンガーに掛けていると、お湯が溜まったと彼女に呼ばれた。


「雪乃の後に入るから先に入りなよ」

「え、大きいお風呂だし一緒でもいいよ」


 馬鹿なことを言う。出会ったばかりでそんな恥ずかしいこと出来るか。と、そう心の中でつぶやく。


「遠慮しておくよ。先に一人でゆっくり湯に浸かって疲れをとりな」

「そう。じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうね」


 少し息を吐いて、現状を整理する。

 俺の普段の呼び名は本名である悠哉。女神の普段の呼び名は雪乃に決めた。二人の設定としては異国のセレブで新婚の夫婦となっている。

 そして、コードネームはノワールとブラン。新進気鋭の大悪党。いずれ大陸全土を支配におく裏社会の帝王になる。という、広大な設定だ。


「大陸全土って。めんどうなのは御免なんだが」


 思いつきで口にしたことを早くも後悔していた。

 しかし、雪乃が居るとこの世界もイージーモードだ。お金はたくさんあるし、生活にも困らない。しかも第一印象とは違って、献身的に尽くすタイプのようで、申し訳なさから罪悪感を覚える。


「いちばんの問題は、あいつが美人すぎることだよな。胸は大き過ぎず、小さ過ぎずでベストサイズ。おまけに手足が長くてスタイル良し。文句のつけどころもない完璧な女。ほんと、まいるぜ」


 二度目の大きなため息を吐いた。


「あんなのに手を出したら、一生分の運を使い果たしてしまう気がするし、絶対ろくなことにならないような気がする」


 俺はやけに綺麗な天井を見上げた。


「天井にこんな美麗な細工って必要なのか?」


 俺には理解できない趣向に早々に諦めをつける。

 横にある鏡に映る自分を見て、さらに思考を放棄する。


「はぁ、17歳ってなんの冗談だよ」


 崩れ落ちるように深くソファに沈み込む。

 夜中にはイベントもあるし、とりあえず今は体を休めるのが先決か。

 そう考えた俺は、ゆっくりと瞼を閉じた。

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