血の七日間二日目
明日も二話から三話投稿します。
朝早く、白い外套のフードを深く被った女が息を切らしながら部屋に入ってきた。
「ノワール、見事な手並みじゃ!」
寝惚け眼でソファに座る俺に飛びつくように抱きついてきた。
「何度も言わせるな。年増には興味ない、離れろ」
無理やり引き剥がしていると、同じような格好で同じように息を切らした女が入ってきた。
「お母様、少しは落ち着いてください!」
「そうだぞ。それに抱き付かれるなら、そっちの方がいい」
俺は娘を指差して、はっきり振ってやった。
しかし、女王に対する嫌がらせのつまりだったのに、娘は顔を赤らめてうつむいた。しかも、女王は女王で馬鹿げたことを言い出した。
「むむむ、なら娘をくれてやろう。なぁに、ノワール殿なら側室の一人や二人増えても構わんだろう」
「あほか! そしたら誰が国を継ぐんだよ!」
朝からどっと頭が重くなる。いや、痛くなる。
しかも、隣の雪乃からもの凄い冷気を感じる。
「そういえば、はぐらかされたけど桜って誰?」
おい、忘れてたことを思い出させやがって!
「なんだ、その桜というのは」
お前まで。馬鹿かよ! そこは黙って流してろよ!
「うるせえ、それで何のようだ」
「おおう、そうだったそうだった。あの裏切者の屋敷からオートリア公国と交わした書状が見つかってな。お陰で此方も彼の国への対処がし易くなった。感謝するぞ、ノワール殿」
「ほう、それは良かったな。取り敢えず、これから俺達は朝食だから帰れ」
どうやらこの親子は押しが強いらしい。
何度も帰れと言っているのに、一緒に朝食をとると言って聞かない。根負けした俺は渋々、彼女達を朝食に同席させることにした。
◇
雪乃がいつになくしつこい。
昨夜はカジノなどを経営している裏組織と、それに与する商会を壊滅させて疲れている筈なのに、やたら元気でしつこい。そんな彼女に観念した俺は素直に口を開いた。
「別に隠してる訳でもないし、隠したい訳でもない。話してもしょうがない事だしな」
俺が話し始めると、アリステラやマチルダまでもこちらに注目した。
「桜ってのは、初めて付き合った彼女の名だ。あのお姫様があまりにもそっくりだったから、驚いてその名を口にしただけだ」
「初恋の人?」
「まあ、初恋といえば初恋なのかな」
「いつ?」
「いつって。そんな事まで聞くのかよ。どうでもいいだろ、そんなこと」
なんなんだ。けど、初めて嫉妬してるよな。これ、絶対に嫉妬だよな。
ほほう。これはこれで有りかもしれない。
「ふーん。あの婚約者とは違うよね。それに、あの婚約者の事はそんなに好きじゃなかったよね」
「なんでそんなこと知ってんだ。ストーカーか」
「違うよ! 死ぬ際の記憶が見えたんだからしょうがないじゃない」
そりゃあそうか。でもそれ、桜となんか関係あるか。
「まあいい。でもそれって関係ないよね」
「あるよ! だって、桜って口にした時、とても愛おしそうな感情だったもん」
雪乃の声が段々小さくなっていた。それに、少しうつむいてもいた。
「まあ、互いに嫌いになって別れた訳じゃないからな。実際、前の世界では一番好きな女性だったしな。けど、それだけの話だろ。今更どうこう出来ない訳だし」
俺は戯けて肩をすくめてみせた。
「じゃあ、あの娘のことは好きじゃないの」
「なに言ってんだよ。この際だからはっきり言っておくけど、アリステラもマチルダもよく聞いておけよ。俺は、雪乃以外とは結婚しないし、雪乃以外と誰とも肉体関係を持たない。けれど、別に雪乃以外からの誰かの好意を一々否定しないし、受け入れる気もないだけだ。だからといって、好意を向けられた相手に嫌な事はしないし、逆に此方もそれなりの誠意を持って接しようとは思ってる。大体、人として俺は、アリステラやマチルダの事を尊敬も感謝もしている。寧ろ好意的にさえ思ってる」
ちゃんと伝わるように、気持ちを込めて、ゆっくりと話した。
なのに、アリステラやマチルダの反応が思っていたのとは違っていた。
「良かった、です」
「ええ、拒否されるとばかり思っていましたから」
あれ、人の話をちゃんと聞いてましたか。
なんか、勘違いしてませんか。
俺は目頭を抑えて、ため息をついた。
◇
その日の深夜。計画通り、一番影響力のあるお貴族様の屋敷へ向かった。そして、雪乃達は最大手の奴隷商を襲撃する手筈になっていた。
目当ての屋敷は宮殿のすぐ側にあった。そばとはいっても宮殿の敷地は広大だし、歩けば二、三十分はかかると思う。
いつものように門を強引に破壊し、敷地の中へ足を踏み入れる。
すぐに警備の私兵が飛び出してくるが、具現化した炎と氷の剣を持つ俺に隙はない。一人一人を一刀で斬り伏せ、屋敷の中に押し入る。
少し進んだ先で全方位から襲われるが、具現化した剣を伸ばし、そのままくるっと体を回して相手の体を上下に断つ。
「馬鹿か。具現化させた剣が伸びないと思ったか」
ちなみに槍にも形状を変えられるが、あいつと被るので敢えてしない。
そんな事を思いながら進んでいると、今夜のお貴族様は気概があるらしく、大勢の騎士を伴い待ち構えていた。
「賊如きが調子に乗りおって。我が剣で成敗してくれるわ!」
中年過ぎのガタイの良いお貴族様はそう叫ぶと、周りにいた騎士たちが一斉に襲い掛かってきた。
「まずはお前じゃないんかい」
少しがっかりしたものの。本日最大の見せ場だと思い、無駄に過剰に華麗に美しく、映えよく戦うことにした。
正面の一人を姿勢を低くしてすれ違い様に炎の剣で横に払い、くるっと体を斜めに回して隣の騎士を氷の剣で斬り払う。後は無駄に前や後ろ、右に左へと、自在に宙を跳んで騎士を次々と斬り伏せた。
あれだけ勇ましかったお貴族様は、逆に俺の勇姿に慄き、腰を抜かして尻をついていた。
「カツアゲだ。金も、命も全て、差し出しな」
そう言って、お貴族様の首を刎ねた。
血を払うように両手の剣を振るい剣を消す。
そして、屋敷の中を物色するが金目の物がほとんど残っていなかった。おそらく、妻子に持たせたのだろう。回収し損ねた俺はやや肩を落としながら屋敷を出た。
「はぁ、あの年増に俺の金が……」
そう嘆きながら、女王配下の騎士達とすれ違う。
気落ちした俺はさっさと宿屋へ転移した。
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