すれ違い
もしかしたら、あと一話投稿します。
ロマーニャから東へ、山間部を抜けて海沿いを北上する。海沿いをくるっと回ってしばらく南下すると目的地に到着する。
今更なのだが、雪乃曰く。この世界は国名を除けば地理や地名はほぼほぼ一緒だ。若干都市名が違う程度だという。しかし、高卒。それも世界地理に興味もない俺がそれが正しいのか知る術はない。
クロアチア。前の世界でサッカーが強い国としか知らなかった俺に、クロアチアの貴婦人と呼ばれる有名なリゾート地だよ。なんて、満面の笑顔で言われても、ふーん、そうですか。にしか、ならない。
そんなどうでもいい事を思いながら一人、焚き火の前で見張り番をしながら、先端が尖った鉄の棒を木に向かって投げていた。
「中々刺さんないよな。雪乃とか絶対ズルしてんだろ」
十本程投げて、投げたものを拾いにいく。
それをずっと繰り返していた。ひとえに、かっこよくなりたいから、だ。
「苦戦してるね」
鉄の棒を拾っていると背後から雪乃に声を掛けられた。
「まぁな。で、寂しくなって起きてきたのか」
意趣返しで少し揶揄った。
「まぁね。そんな君に良いことを教えてあげよう」
「え、まじで」
いや、こんな場合は大抵がろくでもないことだと経験してきた。
「要らない」
俺はテクテクと歩いて焚き火の前に戻ると投擲練習を再開した。
「ちょっと聞いてよ。ほんとに良いことなんだよ」
雪乃は俺の肩を強く揺すった。これでは狙いが定まらない。
「邪魔をしないでくれ。これ以上差をつけられたくはないんだ」
「だから、教えてあげるって言ってるの!」
「ん、あの一瞬で敵を倒す投擲術をか」
「そう。それを教えてあげる」
なんだ、急にデレやがって。あれだけ勿体ぶってたくせによ。
「いい。なんか嫌な予感がする」
「なんでよ! あんなに覚えたがってたじゃない」
疑いの眼差しで雪乃を見つめる。
「なにが望みだ。出来なくて俺が悔しがる様を上から見下ろして眺めたいのか。それとも、あなたには無理なんですぅ、とか言って、口を手で抑えてプーと笑いたいのか。どっちだ!」
「どっちもしないよ! なんでそんなにひねくれてるの。悠哉くんに、なにがあったの。ねえ、なにがあったらそんな風に変わるの!」
おまえ、胸に手を当ててよく考えてみろ。と、心の中でつぶやく。
「俺にはなんにも教えないくせに。それに俺の言うことも聞かないじゃないか。いっつもいっつも、雪乃が勝手に決めて一方的に従えって。そんなのおかしいだろ」
俺はプイッと横に顔を向けた。
大体勝手に不能にするわ。離れればリンクが切れて死ぬだとか。そのくせ、アリステラやマチルダに俺を口説いてもいいですよ、みたいな雰囲気でしらっと応援しやがって、俺の気持ちなんて考えたこともないだろ!
雪乃を横目で見ると、かなり動揺した様を見せていた。左手を口に軽く当てて、その左手の手首を右手で掴んで、小刻みに体が揺れていた。
そして、青い顔をして踵を返し、走って馬車の中に戻っていった。
「ふん。たまには反省しろ。クソ女神」
◇
あれから、雪乃とは最低限の会話しかしていない。ちゃんと挨拶もするし、笑顔もみせる。普通に話すが、最低限度に留めている。
だいたい俺の愛を軽く見過ぎなんだ。
雪乃以外の恋人は要らないし、雪乃以外の人に傍にいて欲しいとは一ミリも思わない。
正直、アリステラやマチルダの好意には気付いていたし。それに応える気がないから気付かないふりをしていた。
それに雪乃がこの世界で自分達の子は残さない。女神の血が、この世界に残ってはいけない。悪影響だと悲しげな表情で打ち明けてくれた。
だから、最初は肉体関係を結ぶのにも躊躇った。
出来ることはないから安心してと言われても、万が一があるかもと思った。もうそうなったら雪乃がとても悲しむと。
だから俺は雪乃以外とは絶対に肉体関係にはならない。たとえ、それが雪乃が認めた相手でも。その相手からどんなに愛を向けられたとしても。俺は絶対に雪乃以外とは恋人にも夫婦にもならない。
「どうせ、バカンス先でもなんか企んでるんだろうな。ほんと、勘弁なんだけど」
御者台から、少し空を見上げてポツリと愚痴を溢した。
「しかし、すぐに馬車の操作を覚えるなんて、俺は天才だな、あっははは」
そんな風に高笑いしていると前方に五体のオークを発見する。馬車を停め、華麗に前方宙返りを決めて駆けだした。
無駄に側転などをしながら次々とぶちのめす。
「オーク如きが俺様の行く手を遮るんじゃねぇ」
腰に手を当てて無駄に格好をつけていると、ふと、ある事に気付く。倒したのはいいが、これでは通行の邪魔じゃないかと。
「次からは叩き飛ばす方向にも気を配ろう。片付けも面倒だからな」
オークを脇に投げ捨ててから御者台まで転移して、また旅を再開させた。
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