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交渉

本日五話投稿します2/5

 あれだけ泣いておいて、目を腫らした様子もない。やはりあれは嘘泣きだったのだろうか。それなら悪いと思った気持ちを返して欲しい。


「責任とって転生してくれるよね。なんでも叶えてあげるから欲しいものを言って」


 そのニコニコした様子が癪に障る。

 だいたい責任取るとも、転生するとも、俺は一言も言ってないだろうが。ばかなのか、この女神は。


「どんなスキルがいい? 格好いい魔法剣士にする? それとも一撃で都市を消し去る大魔道士?」


 あほか。んなもんいらねぇつうの。


「なんでも、っていったよな」

「ええ、なんでも」

「その言葉に二言はないな。それは対象外ですぅ。とか、それは無理ですってのは無しだからな」

「馬鹿にしないでよね。私に不可能はないの。それに約束を違えるようなことは絶対にしないわ」


 ほう、まんままと乗せられやがって。実に単純なやつで助かる。


「そうか。なら、おまえだ。おまえの全てを寄越せ」

「は? な、なに言ってんのよ! そんなの」

「言ったよな、なんでもって。まさかあれだけ豪語しておいて無理だって言わないよな」


 俺の言葉に表情を歪めて、女神は軽く爪を噛んだ。そして思考すること数秒。


「いいわ。ただし、条件があるわ。あなたが死んだら、私のものになりなさい。未来永劫」

「いいだろう。死んだらおまえのものになってやる」


 俺は軽く口角を上げた。


「オーケーよ。でも私だけでいいの。まさか、私に守ってもらおうなんて思ってないでしょうね」

「漢はステゴロ。その為の強靭な肉体と、理不尽な力に抗えるよう、全ての魔法を使えるようにしてくれ」

「なんか格好いい風に言ってるけど、ずいぶんと欲張りなことを言うのね。まぁいいけど」

「やかましいわ。慎ましい無垢なる望みだろうが」


 ったく、わかってねぇよな。

 魔法が使える世界で魔法を使わないなんて勿体無いだろうが。ましてや、魔法を端から使えないなんて論外だ。


「あっそ。それでどこから始めるの。というか、私を連れて行くのに行き当たりばったりなんてことはないよね。もちろん、どう生きるのか決まってるんだよね」


 その問いに思わず目が泳ぐ。

 まっすぐな視線を向けられているが、疚しくて目を合わせられない。


「ねえ、まさかノープランなの」

「馬鹿言うな。ノープランな訳あるか」

「ふーん。じゃあ、言ってみてよ」

「うっ、う、うらっ、裏の帝王になる。そう、裏社会を牛耳る悪の組織。ダークサイドでヒーローになって、毎日が欲望のままに酒池肉林だ!」


 もの凄く軽蔑した目を向けられた。

 だって、あれだろ。いきなり転生しろとか言われても困るだろうが。ましてや、知らない世界で先のことを聞かれても、そんなの答えられやしない。


「私以外の女をはべらすつもりなの」

「もちろん。この世の美人は全て俺のものだ」

「却下。却下よ」


 短く、冷たくそう言って、女神は俺に向けて手をかざすと、純白の輝きが全身を包んだ。

 なんだろう。なにかが浄化されたような気がして、とても爽やかな気持ちになった。


「なにをした?」

「私以外の女とは役に立たない契約をしたの」


 なに言ってんだ。役に立たない? 契約?

 それって、まさか。まさかだよな!


「おい、まさか俺をEDにしたのか! 

 男として、いや、男にそんなことして許されると思ってんのか!」

「私に操をたてなさい。私という最高の女神を望んでおきながら、他の女をはべらすなんて許されるわけがないでしょ」

「別におまえに愛なんてのぞんでねぇよ。便利キャラとして一緒にこいって言っただけだろうが!」

「はん、お生憎様。私は利用されるだけの都合の良い存在になんてならないわ」

「なにがお生憎様だよ。さっさと契約を解除しろよ!」

「無理。あなたが受け入れた時点で契約はなされたの。今更破棄することなんて出来ないの」

「今更ってなんだよ。それに、なんで俺が受け入れたことになってんだよ! 勝手に同意したことにすんなよな!」

「勝手にも何も。神との契約は互いに同意しなければ結ばれないの。あなたが受け入れたから契約されたの。恨むなら、心の中でそれもいいと思ってしまった自分を恨んでちょうだい」


 俺は両手、両膝をついて項垂れた。

 光は消え、世界が闇に呑まれ、俺がダークサイドに落ちた決定的瞬間だった。


「いつまで落ち込んだふりしてるのよ。さっさと方針を決めて。ちっとも先に進まないじゃない」

「うるせえ。少しは人の気持ちを慮れ」


 俺は床に座り直し、今後の方針を伝えて話し合う。


「なるほどね。異世界版◯の如くごっこね」

「違うわ。それじゃ路上で自転車持ち上げて喧嘩してるだけだろうが。もっとましな例えをだせよ」

「怒られるわよ、あなた。そんな酷い作品じゃないわ。もっと奥深くて男の生き様を描いた最高の作品よ」

「なっ、ていうか、なんで女神がそんなにゲームのこと詳しいんだよ。少しは神様らしくしやがれ」


 目の前の女神を信じられなくなってきた。

 大丈夫なのか。この先。

 嫌がらせでこいつを連れて行くって決めたのは正しかったのか。

 そこはかとなく不安だ……


「もう、いつまでも辛気臭い雰囲気を醸しださないで。ほら、決まったなら行くわよ」


 女神はそう言って俺の手を取ると異世界へ転移した。

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