想定外
明日からは毎日二話投稿します
宿屋の部屋が最上階に変わった。
それは何を意味するのかというと、この宿屋の最上級スイートルームにランクアップしたということだ。
ことの発端はアリステラだ。彼女の為にベッドルームが二つある部屋にしたいと頼んだところ、オーナーから、それなら最上階のスイートルームの永年使用権を購入しないかと持ち掛けられたことからだ。
一泊金貨三枚の部屋を金貨五百枚で、サービスは今までと同じ変わらずに永年利用できるというお得プランだった。
もちろん、そのお誘いに不満はないし、カジノで金貨五千枚以上を荒稼ぎした俺達にとっては安いものだ。
だが、本当にお得なのだろうか。そんな美味しい話があるのだろうか。騙されているのではないかと頭の片隅で疑問に思ってもいた。
「まあいいか。たいした金額じゃないしな」
「そうね。お金なんて湧いてくるしね」
人を疑うことのない、お気楽二人組の俺と雪乃は即決でその申し出を受けた。
しかし、悲劇は突然やってくる。音もなくやってくる。
オーナーが金を持って逃げたのだ。
だがまだ慌てる時ではない。
俺が部屋をウロウロしている間に、雪乃が迅速な対応をして見事にこの危機を解決したのだった。
「大袈裟。大袈裟だよ、悠哉くん。宿屋を買っただけじゃない」
そう。雪乃はこの宿を即金で買ったのだ。
しかも、借金の肩に権利を持つ商会から、金貨千枚近くを払って。
なんて出来た彼女だろうか。
潰れて失業してしまうかもしれない従業員達をも迅速に救ってみせた。本当に素晴らしい女性だ。
「くすぐったいよ」
「あ、ごめん。つい触ってしまった」
「あの、悠哉様。雪乃様を褒めるのか。それともセクハラするのか、どちらかにしていただけませんか。あまりにも雪乃様が不憫です」
そうは言っても仕方がないじゃないか。
夜の薄い布地の寝巻き姿で俺の膝の上に居るんだ。しかも薄っすらと透けて見えるような気もするんだぞ。
それに、それにだ!
我が半身が雪乃の太ももに挟まれているんだぞ!
こんな幸せなことがあるか?
こんなに胸がときめくことがあるか?
「もう、恥ずかしいよ。悠哉くん」
あ、今、俺の心臓撃ち抜かれたかも……
「もう、すればいいじゃないですか! 我慢しないでやればいいじゃないですか!」
キレた。アリステラが初めてキレた。
「だよね。普通はそう思うよね」
「ヘタレなんですか。こんな素敵な婚約者が居て、手を出さないなんて男の風上にも置けませんね」
あ、口にしてはいけないことを言いましたね、あなた。
「おい、お前が側にいるところで、俺と雪乃が気持ち良くなってていいのか。しかも、それをお前はずっと側で耳にするんだぞ。もしかしたら目にしてしまうかもしれない。いや、お前に見せつけてやる。あん、それでもお前は耐えられるのか」
アリステラはその言葉に絶句していた。
おそらく己の軽はずみな失言を悔いたのであろう。
「もう、恥ずかしいよ」
恥ずかしがる雪乃のモジモジした動きでさらに気持ちが良くなる。やばい、発射するかも……
「私は耐えます。いえ、耐えてみせます!」
「もう、アリスまで。やめてよ、恥ずかしいよ」
あ、その動きは反則だ……
俺は限界に達し、果てて脱力したまま、雪乃にもたれた。
「アリス、綺麗な布を」
「え、あ、はい。今すぐお待ちします」
アリステラは布を持って俺の半身を拭こうとしたが、初めて目にしたのか凝視したまま固まってしまいそのまま倒れた。そして……
「あ、アリス、しっかりして! というか、間違って噛まないでね、噛んじゃ駄目だよ!」
俺はあまりの恥ずかしさから寝たふりをするも、一向に収まらない。
俺は雪乃にキスをして、そのまま彼女と初めての素敵な夜を過ごした。
「獣です。もう耐えられません。これは何日続くのでしょうか」
私は布団を頭から被り、甘い危険な誘惑に耐え続けた。それこそ、食事もまともにとらずに。
◇
「おはよう、アリステラ」
「おはようございます。悠哉様、雪乃様」
「ええ、おはよう。アリス」
「ん、どうした。なんか顔色も悪いし、やつれてるぞ」
悠哉様達は妙にすっきりとしいて、お肌もなんとく艶々。なにより一目見ただけでもわかる漲った活力。ここまで雰囲気が変わると若干引く。というか、やるせない気持ちになる。そして私の中で何かがキレた。
私がやつれてる? 顔色が悪い?
そりゃあそうでしょう。
三日三晩四六時中、悠哉様たちの激しい営みに、どれだけの心労と人格破壊されそうになったのか。わかりますか、お二人は。そんな私の気持ちを!
「少し寝不足、かもしれません」
「アリス、今日一日休みなさい。なんなら屋敷の方でゆっくりしてもいいのよ」
ああ、そうきましたか。
ええ、私が邪魔なんですね。
そりゃあ、あの淫靡な世界で、私一人孤独に耐えることを考えれば気分的には屋敷にいた方がずっと精神的に楽ですけどね。
「そうだな。これでリフレッシュしてこい。たまには外で遊んだり、のんびり散歩するのも必要だしな」
そう言って悠哉様は私に金貨五枚くれた。
「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」
踵を返し、部屋を出ようとしたところ、雪乃様が突然耳元でささやいた。
「一人であんな声を出したらいけないわ」
瞬間的に顔が熱くなり、自分でも顔が赤くなっていると自覚した私は逃げるようにその場から離れた。
だって、だって、私だって!
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