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タケル様と鬼退治  作者: Akila
留守護代行編
9/21

第9話 ちょっとだけタケル様モード

「お待たせ~」


 イッチー姫がズルズルと手を引きながら連れて来たのは、濃紺のはかまが似合うインテリ風メガネのイケメンだった。


「遅い! 日が暮れてしまうぞ」


 タケル様は仁王立ちでイッチー姫とイケメン綾ちゃんを睨む。


「はぁ~。何かと思えば… お久しぶりです。ヤマトのタケル様ではないですか。本日はどのような御用向きで?」


「はぁ? 何じゃ、話もしておらんのか!」


「だってぇ…」


 イッチー姫は罰が悪そうに手や足をモジモジイジイジしている。


コレ(イッチー姫)が何か御迷惑でも?」


「あぁ。迷惑も迷惑だ。来て欲しいと頼まれて来てみれば、留守護に話が通ってないとは! 今日はお前ん所の穢れが溜まって来たので祓って欲しいと依頼されてな、こうして()()()()来たんじゃが?」


 綾ちゃんはイッチー姫をひと睨みしてからため息を吐いた。


「それは申し訳ございません。しかし、我々で対処出来ますので御心配なく。御越し下さったのに申し訳ない」


 と、綾ちゃんは一礼してさっさと帰ろうとする。


「おい、待て!」


 タケル様が声をかけるが綾ちゃんは振り向きもしない。スタスタと遠ざかって行く。


 どうなってんの?


『縛』


 相当頭に来ていたのか、タケル様は予告なしに透明な鎖で綾ちゃんを縛ってしまった。


「な、何をされます? くっ、解いて下さい」


「ふん。小童こわっぱが生意気な。お前の態度は目に余る。本来の御勤めをせんで、何が留守護か。これからお前ん所の穢れを払うぞ。着いて参れ」


 タケル様がそう言うと、芋虫状態の綾ちゃんは少~しだけ宙に浮いてタケル様に引っ張られて行く。クネクネしながら何とか解こうとしているが全く歯が立っていないみたい。


「イッチー姫… あの方が綾ちゃんですか? ちょっと怖いですね」


「ふふふ。変な所見せちゃったわね。来てくれたのにごめんね」


「いえいえ。私はおまけみたいな物ですので。それより、綾ちゃんは戦わないのですか?」


「…」


 ん? 言えない? ん?


 言いたくなさそうだったので、私はそれ以上追求せずに、イッチー姫と共にタケル様の後を着いて行く。


「よし。ここじゃな」


 タケル様が見上げた拝殿には禍々しいほどの黒い霧がパンパンに詰め込まれていた。


「こ、これって! やばくないですか?」


「えへっ」


 って、ペロッとしても可愛くない! イッチー姫、これは… 詰め込み過ぎ!


「お前… 綾人あやと、ここまでよう何もせんなんだな」


「ふん、このぐらい。本来の姫が戻れば一振りで祓えます。あと十日程です、問題ありません」


 目を反らしてボソボソ言っている綾ちゃんを見て、タケル様は口を開けて呆れている。


「はぁぁぁ。市姫、こやつの頭は大丈夫か? これが大丈夫かそうでないか判断出来んのか? それとも留守護としての神力が心許こころもとないとか?」


「う~ん。綾ちゃんはね、私、今の私じゃなくて、本来の私が好き過ぎて… 今の私の言う事は、何て言うか~あんまり聞いてくれないの」


 と、寂しそうにイッチー姫はこぼす。


「本来とか… 綾人、我らは神無月の時期はどうしても小さくなってしまうのは仕方がないのじゃ。こやつも好きで若くと言うか分身になっている訳ではない。それに、力が制限されてもお前達人よりは神力は十二分にある。神なんじゃ。もっと自分の神を敬ったらどうなのじゃ」


「し、しかし… コレはあの方の分身であるにも関わらず、こんな格好なりでいつもチャラケてしまって… どう尊敬しろと?」


 …


 お、おい! タケル様! ここで黙ってはダメだよ。


「まぁ、今の時期しか我々も羽を伸ばせんからな。こやつは本来こう言う風にオシャレ? をしたいのじゃろ。それをさっせぬか?」


「はぁ??? コレがしたいと? あの姫が?」


 え~。本来の姫ってどんだけ? めっちゃ違う感じ? 優等生タイプとか?


「まぁまぁ、タケル様。それより今はこっちの穢れをどうにかしましょうよ」


 私は話が長くなりそうなので、間に入って何とか話を戻そうと試みた。


「え? お前は誰だ? まさか、参拝客… ではないよな?」


 芋虫でも偉そうなインテリメガネが私を怪訝けげんな目で見て来る。まさか今気づいたの? つ、つらい。


「あぁ、こやつは我の留守護だ。建美と言う。建造が足をやられてな… 代理じゃ」


「あはは、こんにちは。留守護代理の建美で~す。よろしくお願いします」


 一気に自分のコスが恥ずかしくなって来た… エプロンの裾を握りながらヘラりと作り笑いをする。ふぇ~ん。


「この子が? まさか! これが正装ではないですよね?」


「そ、その、まさかで~す。すみません…」


 私は精一杯明るく振舞うが、尻すぼみになってしまう。


「はっ。それならますます我々で十分ですよ。御尽力には及びません」


「ほぉ。まだ言うか… よし、一丁見せてやろう。留守護の本来の御勤めを。市姫、綾人に結界を。では、建美参ろうか?」


「えっ! この流れでやるんですか? ま~、いいですけどぉ」


「シャキッとせんか。大丈夫じゃ。お前なら出来る。今回は市姫の為に我もちょっと本気を出そう」


 て、今まで本気じゃなかったんかい! 本当に大丈夫? ちょっとぉ。


「市姫。綾人が終わったら加勢せい。まずは『界』だ。そうじゃな、本来の二倍程広げてくれ。それから拝殿の結界を解け、最後はお主の得意な『唄』を頼むぞ。第三節がいいじゃろう」


「わかったわ。じゃぁ、穢れは丸っと頼んじゃっていいのね?」


 イッチー姫は早速拝殿付近に結界を張っていく。


 ???


「では参る。建美、我を呼べ」


「は、はい! おいでませ、タケル様」


『解』


 イッチー姫の言の葉で拝殿の結界が解かれた。


『よし、建美。今日は我に任せろ。こんな大きな獲物は久々じゃて。お手本じゃ、よう見ておれ』


「はい?」


 拝殿の黒い霧がウニョウニョと四方八方に伸びては縮み、色々な塊がくっつこうと足掻いているように見える。


 うげ~。気持ち悪。


 ウニウニする黒い霧を真正面からまずはひと叩き。


『とりゃー』


 バシャ~っと二手に霧散した黒い霧がそれぞれでまとまろうと左右でウニョウニョと集まっていく。


 べべ~ん。


 それと同時に、私達の後方で宙に浮かぶイッチー姫が琵琶を弾きながら唄い始めた。


『た~だ ひた~す~らに~い~ わ~た~し~のほとり~で~え~え~』


 イッチー姫の儚い細い声が結界内に響き渡る。あぁ、感情が持って行かれそうだ。か、悲しい。


『こりゃ、建美。同調してどうする! バカもん。こっちに集中せい!』


「す、すみません」


 べべ~ん。イッチー姫が唄う度、霧の動きが少し鈍くなる。


 へ~。すご~。


『霧が鬼に成る前に叩くぞ!』


 まずは左側のウニウニを狙うみたい。私の身体は勝手に左に向かって走って行く。


締縄しめなわ


 走りながらタケル様が唱えると、私の手から紙垂しで付きの透明な縄が伸びて霧をグルグル巻きにした。


小槌こづち


 すると、あっという間にゲートボールのスティックの先が、杭のような大きな形に変化する。


 うわ~。


 クルクルと小槌のスティックを回しながら軽々と振りかぶる。


 ドスン!!!


 真上から叩き込まれた霧は霧散せず一瞬で消えてなくなった。


『次じゃ』


 また直ぐに私の手から締縄がスルスルと右の霧に伸びる。


 バンッ!


『ちっ』


 しかし、締縄は弾き飛ばされ手から消えてしまった。


 あれ?


 縄があった先、ウニウニ霧を見てみると、ぼや~っとだけど鬼の形をしていた。イッチー姫の琵琶がべべべべべんと激しく弾く。


 まずい、合体して大鬼になっちゃった???


『第十六ノ土ノ章 固塀』


 地面に両手をつき唱えると、動きが鈍った鬼に向かって地面が割れ、モグラのトンネルみたいに伸びて行き一気に壁を作る。筒状に張り巡らされた土塀は、ぴったりと鬼を閉じ込めた。


『よし』


 タケル様はそう言うと、大きくジャンプして土壁がない鬼の頭上へ両手をかざす。


『第一ノ土ノ章 雨礫』


 ズババババン!!!


 ひょうが降り注ぐように、無数の小さな光がすごいスピードで鬼に向かっていく。


 う、うわー。容赦ないなぁ。


 土埃が舞う中、べべ~ん、とイッチー姫の琵琶がフィニッシュを決めた。


 シュタッと降り立った私は呆気に取られ、キラキラと光りながら無くなっていく巨大な土壁を見ながらボーっと立ちすくむ。


 ふぁ~!!! アレ! 何アレ!


 タケル様、めっちゃ強っ!


『建美、良くやった』


 タケル様はそう言うと、すぅーっと私との同化を解いた。


「市姫もようやった」


「さっすがぁ! ターくん」


 私は腰が抜けた? のか、足がガクガクしてその場にへたり込んでしまった。


「鍛錬が足らん! でもまぁ、今日のはしょうがないか。建美、明日は立てんやも知れん」


「な、何で?」


「我の神力を乗せ過ぎた… 何て言うんじゃ? ほれ、ほれ、アレじゃ… そう! キャパオーバーじゃ! 恐らく全身筋肉痛じゃろうな」


「そんなぁ」

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