かぐや姫VS光源氏 〜光り輝く者達の仁義無き戦い〜
時代背景とかガン無視です。最後までどうぞお楽しみ下さい!
昔々ある所に、とある美しい貴公子と姫がおりました。その光り輝く程の美しさから、貴公子は光源氏と、姫はかぐや姫と呼ばれておりました。
「姫、そろそろ私に顔を見せて下さっても宜しいのでは?」
御簾の向こう側に微笑みかけるのは光源氏。恐ろしい程に整った上品な顔立ちをしており、身に着けている衣からは侍従の香りが漂っていた。
「いいえ。そう簡単にはお見せ出来ません。」
そう冷淡に返すのはかぐや姫。この世の物とは思えない程の美貌を誇り、これまでにも数々の貴公子を虜にしていた。
「全く、相変わらずつれない方だ。何度も通っているというのに、指先すらちっとも見せてはくれない。」
よよよ、と袖で涙を拭う振りをする光源氏には目もくれず、
「このようにつれない女のもとに通うのも時間の無駄ですよ。いい加減諦めたらどうですか?」
と冷ややかに返す。
「またそのような事を仰る。別に見た所でどうこうしようという訳でもないのに。ほんの少しで良いんです。ね?」
「どうこうするでしょう、貴方なら。聞きましたよ、この間幼女を攫ったとか」
むっとした顔で光源氏は言い返す。
「攫ったとは人聞きの悪い。保護したと言って頂きたいものですな。」
「それ以外にも多くの女性と浮き名を流す貴方は信用なりません」
痛い所を突かれた、とばかりに光源氏は言葉に詰まる。
「しかし貴女への愛情は決して軽いものではありませんよ」
御簾の向こうでかぐや姫がぱしん、と扇を閉じる。
「愛情?好奇心の間違いではなくて?その違いも分からない程箱入りではないですよ。」
「それでも文くらい返してくれても良いのでは?他の殿方には返しているのに」
「それはねぇ…」
光源氏が居住まいを正す。
「貴方が私をハーレムの一員に加えようとしてるからよ!!!!!!」
光源氏はまた始まった、と呆れたように微笑む。
「私はねぇ!男にチヤホヤされたいの!男をチヤホヤしたい訳じゃないの!私を他の女と同列にしようとする貴方が気に食わないのよ!」
と物凄い剣幕で捲し立ててくる。
「別にチヤホヤされてる訳じゃないですよ。正妻の葵だって私にはいつも冷たいし…」
「黙らっしゃい!男にはずっと私に夢中でいて欲しいの!いつもいつも色んな女に現を抜かしてるような貴方なんて願い下げよ!」
控えめに言い返す光源氏に、かぐや姫は淑やかさなどかなぐり捨てて怒鳴り返す。
「そんな事言わずに。ほんのちょっとの間だけの恋でもいいから。その思い出をよすがに生きていきますので」
そう言って御簾に手を伸ばす光源氏。かぐや姫は扇で床をぴしゃりと叩く。光源氏は思わず手を引っ込めた。
「貴方のよすがは一体いくつあるのよ!嫌だと言っているでしょう!」
「またまた〜。こうして御簾越しには会ってくれるんだから、嫌ではないでしょ?」
「しつこいわね!このロリコン!」
「なんてひどい。純愛と言って頂きたい」
「ハーレム築き上げてる男が何を言うか」
かぐや姫は光源氏より身分が下。このような暴言は本来許される筈もないが、2人は何度も会う内に軽口を叩く仲になって行った。モテる者同士、通じる所もあるらしい。
「そもそも御簾越しに会うようになったのだって、貴方が夜這いしようとしたからでしょうが!」
「残念な事に未遂だけどね」
以前、光源氏はあまりのつれなさに痺れを切らし、かぐや姫に夜這いを仕掛けた事があった。しかし、衣を掴んだ瞬間姫の姿は消え、どこを探しても見つからず、結局諦めて泣く泣く帰ったのだった。その後、また同じ事があっては堪らないと、姫は御簾越しに会ってくれるようにはなった。
「しかし私ばかり悪く言われるのも納得がいかない。貴女だって恋愛方面で問題が無いとは言わせませんよ。」
ぐ、と今度はかぐや姫が言葉に詰まる。彼女は数々の男に無理難題をふっかけ、失敗したと分かればこっぴどく振っているのだった。
「とある殿方なんて、寝込んでいるそうではないですか、姫のせいで。」
「いやあれは、勝手に挑んで勝手に失敗してるだけだし。心配の文だって送ったんだから、優しい方でしょ」
「あ~あ、お気の毒に。こんなプライド激高我儘姫に惚れてしまったせいで」
ブチッ
「ほぉ~ん、言ってくれるじゃないの。藤壺の宮に母親の面影求めてるマザコンの癖に。」
光源氏はぎくり、と肩を揺らす。この姫は、本当にどこまで人を見透かしているのか。
「こんなプライド激高我儘姫じゃ、光る君には不釣り合いでしょうよ」
「いやいや、姫の相手をできるのは私位なものですよ」
「よく言うわ、ほんと。」
呆れたように姫は続ける。
「ここに来られるのだって、本当は迷惑してるの。この間だって来たのよ、生霊が。」
六条の御息所の。と呟く姫の言葉に、光源氏の息が止まる。
「そう、ですか…」
声を低くする光源氏に、姫はしまった、と思った。先日彼はその生霊のせいで恋人を失っている。あまりに無神経だったか、と少し後悔した。光源氏は一瞬寂しそうにしたが、すぐに
「しかし生霊に襲われた割には元気そうですね」
と元の声音で言った。
「大したものじゃなかったわ」
と平然と返す姫。光源氏は内心ドン引きである。
「まぁそういう訳だから、ここに来るのは控えて頂戴。」
「…はぁ、分かりましたよ」
光源氏が帰った後。翁は姫を説得しようとしていた。
「姫、光る君からの求婚を受けた方が良いんじゃないかい?あの方は姫と釣り合う程に美しく、気品のある方だ。身分だって、恐れ多いくらいじゃないか。一体何が不満なんだい?」
姫はその言葉を背中で受けた。
「不満などありません。ですが…」
姫は空を見つめている。
「ですが、『ほんのちょっとの間だけの恋』となってしまうから嫌なのです」
視線の先には、冷たい月が輝いていた。
「聞きましたよ、姫。もうすぐ月に帰るとか」
「相変わらず耳が早いですこと。」
後日。光源氏は姫のもとを訪れていた。彼にいつものような軽薄さは無い。
「何故黙っていたんです?」
「何故言う必要があるのかしら?」
御簾越しに視線が合う。暫く見つめ合い続けていたが、先に折れたのは光源氏だった。
「…はぁ、全く。最後まで冷たい人だ。私を置いていこうだなんて」
「ついて来る気も無いくせによく言う」
「本当に帰ってしまわれるのですか?今ならまだ…」
「残る気は無いわ。ここは私の居場所じゃないもの」
「…この世のものとは思えない美しさでしたが、まさか本当にこの世の者でないとは」
「うっすら気付いてはいたんじゃない?」
「…えぇ、まぁ。只の人ではないと思ってはいましたよ。思ってはいましたが…」
まさか月とは。声に出す代わりに溜息を吐く。
「私が貴女の居場所になりますよ。だからまだ、ほんの少しだけ。留まっては頂けないのですか?」
「無理よ。月の住人はそんなの待ってはくれないわ。」
姫は淡々と返し、帰りを促す。
「さぁ、そろそろお帰りになっては?」
「…これが今際の別れだと言うのに。なんてつれない方だ」
そう言って帰ろうと立ち上がった光源氏を姫が呼び止める。
「…あぁ、最後に」
「はい、何でしょう」
「…貴方との時間は、楽しかったわ」
「…姫!」
思わず駆け寄り、御簾を上げる。しかしそこに姫の姿は無く。
衣と香りだけが、残されていた。
「本当に…つれない方だ」
その後。姫は光源氏に不死の薬を残し、月へと帰ってしまいました。光源氏は不死の薬と、次の歌をとある山の天辺で燃やしたと言われています。
月のがり届かまほしきおもひなむふじなる山の煙なりける
最後の和歌は自作です。ヘッタクソですがお許しください。
訳が知りたい方はこちら→https://x.com/PQ6YPCxESk85430?t=zTruDDsqB6LkfSZhrNzSHQ&s=09
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