表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ただのえんぴつですよ……本当に。

作者: ヨツヤシキ

 放課後、学校の図書室で僕はある1冊の分厚い本の前で足を止めた。


「……背表紙がボロボロじゃないか」


 興味本位で手を伸ばしてその本を棚から引き抜いてみれば、背表紙どころか表紙のタイトルもかすれて読めないようなひどい有様だった。


 せっかく手に取ったんだ、タイトルくらいは見てから本棚に戻すか。軽い気持ちで表紙を開き、パラパラとページを捲ったところで、僕はこの本の異様さに目を見開いた。


「なんだこれ……」


 神や悪魔らしきものを象った絵に、謎の図面。見たことも無い文字で綴られた文章。どれをとっても不可解なそのすべてを内蔵するその本は、僕にある物――魔導書を連想させた。


 しかし、現実にはそんなもの存在するはずがない。大方、文化祭で作った小道具の出来が良くて悪ふざけをした生徒がいたんだろう。


 動機としては十分だ。上手く出来たら人に見せたくなる気持ちは、僕にも良く解る。


 本来こういうモノを見つけたらすぐに処分するのが、図書委員である僕の仕事なのだが、つい魔が差してしまった。


 あろう事か、僕はその本の背表紙に図書室の蔵書であるナンバーを書いたラベルを貼り、表紙裏には学校の名前の印を押して貸出票を作成したのだ。


「折角だ。僕が最初の貸出人になってやろうかな」


 今思えば、この時の僕は箍が外れていたんだと思う。


 白紙のページが1枚破れていたからと言って、それを貸出票に加工するくらいに。


 さらにその際、加工に使用したカッターで指先を傷つけたにもかかわらず、痛みに気付かないほど。


 そして、僕は貸出票に自分の名前と今日の日付を書き込んだ。


 ――図書室のカウンターの上にたまたま置いてあった、ただの鉛筆で。


「契約完了。現世は200年ぶりじゃが、よろしく頼むぞ。マイマスター」


「はっ? えっ!? 幼女!? マスター?」


 突如として図書館のカウンターの上に現れた魔女姿の幼女に、僕の思考が停止した。


「しかし、血の契約とはのう。代償はデカいが妾の魔力を最大限発揮できるいい契約じゃ。見所あるぞ、マイマスターよ」


 図書室中の視線を集めた魔女っ子姿の幼女が、カウンターの上で高笑いしながらふんぞり返ること数秒。僕は、この現状を正確に理解した。


「がっ、学校にまで付いてきたらダメだって、兄ちゃんいつも言ってるだろう。ホラッ、先生に見つかって叱られる前に帰るぞ!」


 きょとんとした様子の魔法幼女? を小脇に抱えたまま、僕は全速力で学校を飛び出したのだった。


 おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ