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セイントガールズ・オルタナティブ  作者: 早見 羽流
第2章 姉妹契約

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Act.24 思わぬスカウト(佐紀)

 早速飽きてきた佐紀は、ルームメイトたちが散った隙に会場を後にしようとしたのだが、出口の扉の前に辿りついた時に誰かに声をかけられた。



「井川さん、ちょっといいかしら?」


 振り返ると、なんと生徒会役員の久留里瑠璃が立っていた。


「なんだお前、何か用か」


 佐紀は反射的に睨みつけたが、彼女はまったく動じる様子もなく続ける。


「少し話がしたいのだけれど」


 そう言って、彼女は壁際に設置されているテーブルを指差した。

 佐紀はちらりと時計を見る。


「せっかくのお誘いだが、オレはこれから先輩と踊ることになってるんでな」

「ふーん、この久留里瑠璃の誘いを断るなんて、アナタ大物ね」

「褒めてもなんも出ねーぞ?」


 瑠璃の言葉を流しつつ、佐紀はその場を離れようとした。だが瑠璃は逃さないとばかりに彼女の腕を掴む。


「なんだよ?」

「…………」


 そのまま無言で睨み合う。

 しばらくして瑠璃が口を開いた。


「アナタのことを調べさせてもらったわ。──アナタ、強くなりたいそうね?」

「……だからどうした?」


 どうして生徒会役員が自分に興味を持つのか、佐紀は理解できずに首を傾げる。すると、瑠璃は妖艶な微笑を見せた。


「アタシならアナタを強くできるわよ」


 瑠璃はそう言うと、つかんでいた佐紀の腕を放し、両手を胸元で組む。そして、おもむろに首元のドッグタグを外してプラプラと振って見せた。


「このシングルナンバーである久留里瑠璃が、あなたを姉妹(スール)として鍛えてあげるって言ってるのよ。……不満?」


 生徒会役員からの姉妹の誘い。これ以上ないほどのビッグチャンスを前に、佐紀はかえって警戒感を露わにしていた。


「不満は無い。──だが腑に落ちない。オレより優秀な一年生なんか腐るほどいるはずだ。なのにお前がオレにこだわるのは何故だ?」

「アナタは誰よりも強くなりたいと願っているから」


 瑠璃は静かに答える。


「その想い、このアタシにはよく分かるの。アタシも強さを追い求めて生きて来た女ですもの。それに──」


 彼女はそこで言葉を切ると、そっと佐紀の首筋に触れた。冷たい感触に思わずビクッとする。


「アナタとアタシの境遇は似ている……だからこそ確信があるのよ。アナタはきっと強くなれる。アタシが鍛えればシングルナンバーも夢ではないわ」


 佐紀は何も言わず瑠璃の顔を見つめ返すが、彼女の真意はまだ掴めない。


「いいぜ」


 ややあって、彼女は言った。


「その話乗った。誰かの妹になるのは気に食わねぇが、強くなれんなら話は別だ。好きにしやがれ」

「そう。嬉しいわ」


 瑠璃は微笑む。


「それじゃあ踊りましょう。アタシたちの姉妹契約を祝して」

「あぁ……」


 佐紀は返事をすると差し出された瑠璃の手をとる。そして、彼女の瞳を見つめながら問いかけた。


「一つ聞かせろ」

「何?」

「さっき言ってた『境遇が似ている』ってのは何のことだよ? あと、なんでオレのことを知っていた?」

「そのうち教えてあげます。でも今はこの一時を楽しむとしましょう。ほら行くわよ?」


 瑠璃はそれだけ言って歩き出した。佐紀もそれに従って後を追う。

 二人はホールの中央まで移動すると、音楽に合わせて踊り始めた。二人の息はとても合っている。周りからは「おおっ」「すごい!」と声が上がった。



 その様子を苛立ちもあらわに見ている人物がいた。本来、佐紀と踊る約束をしていたアンナだった。


「何故佐紀さんはわたくしではなくあんな得体の知れない女と踊っているのですか……。許せません! 今すぐ問いただしてやりますわ!」


 そう言うと彼女は、二人のもとへ駆け寄ろうとした。

 だがその直前、横にいた神田瑞希に腕を引かれる。


「ちょ、ちょっと待って! 瑠璃先輩は生徒会役員でシングルナンバーなんだよ? 怒らせたりしたら大変なことになるかもしれないじゃない。ここは抑えよう?」


 そう言われ、なんとか思いとどまるが、納得したわけではない。アンナは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らすと


「ですが、佐紀さんのお相手はわたくしが先約していたはずです。それを横から奪うなんて非常識ですわ!」


 と言い返した。だがそのとき、また別の少女の声がかかる。小柄な親友の朝木かなでだった。


「まあでも、アンナはあれほど姉妹は組みたくないって言ってたんだから、佐紀ちゃんを瑠璃先輩が引き取ってくれるなら御の字なんじゃないの?」

「そういう問題ではありませんわ! 約束を反故(ほご)にされたわたくしのプライドの問題ですわぁ!」


 激昂するアンナに気圧されて、「ひぃ」とかなでは悲鳴をあげた。そんな彼女をフォローするように、瑞希はかなでの肩に手を置きながら言う。


「まあまあ、落ち着いてよ。それよりあたしたちもいい加減ダンスを探さないと」


 瑞希の視線はダンスエリアのほうへ向いていた。確かに、いつの間にか多くの生徒が集まってきている。

 すると、アンナたちの前に大柄な一年生の大黒真莉がやってきて一礼する。


「かなで先輩、よろしければご一緒しませんか?」

「いいじゃん。行ってきなよ」


 瑞希に促されて、かなでは目を輝かせる。


「もちろんオーケーだよ!」


 彼女はそう言うと、満面の笑みを浮かべて大黒の手をとった。「よろしくお願いしますね」という真莉の言葉を聞きつつ、佐紀たちのことはもう忘れてしまった様子だ。そのことに、アンナは不満そうな表情を見せる。

 すると、再びかなでが彼女の名を呼んだ。


「アンナ~、一緒に行こうよ!」

「はぁ? わたくしが踊るはずだった相手はあそこで楽しそうに上級生と踊っておりますが!」

「だって瑠璃先輩が代わりに佐紀ちゃんを鍛えてくれるって言うから、別にいいじゃない」


 そう言ってあっけらかんと笑うかなでを見て、アンナは呆れたようなため息をつく。結局、アンナは不貞腐れてしまい、しばらく部屋の片隅でつまらなそうに腕を組んで立っていた。

 そして、曲が終わるや否や、つかつかと佐紀と瑠璃に歩み寄って行く。


「……どういうことか説明していただけます?」

「見ての通りよ? 佐紀ちゃんはアタシと組むんだって」


 瑠璃の胸ぐらを掴みながら睨みつけるが、彼女はまったく動じていない。それがますます気に入らないようで、アンナはさらに怒りの形相を深める。しかし、彼女はふと思い直したように手を放すと、くるりと佐紀のほうに向き直った。


「佐紀さん、どうしてこの女と組むなどと言ったのですか!? お答えください!」

「悪いな先輩。……オレは強くなりてぇんだ」


 佐紀はそれだけ答える。


「……」


 沈黙が流れた。その言葉の意味を理解するにつれて、アンナの目が大きく見開かれていく。やがて、


「本当に強くなりたいのならばわたくしと姉妹になるべきです!」

「けど、先輩よりも瑠璃先輩の方が強えんだろ?」

「……っ!」


 その一言に絶句する。瑠璃の顔には嘲笑するような色が浮かんでいた。


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[一言] 一番いいところで止まった
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