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Act.0-3 ルームメイト(アンナ)

 征華女子魔導高専の寮は五人部屋で、同室の五人が小隊のようなものを組んで任務にあたることが多い。必然的に、ルームメイトとの絆は強固なものとなる。それは、国籍が違っていたとしても──異世界人であったとしても同じだった。


「今日は授業が午前中で終わったからラッキー! アンナー、ゲームしよ?」

「望むところですわ! 今度こそかなでさんをボコボコにしてさしあげます!」


 座学の授業が終わり、3年強襲Aクラスの教室から出てきた赤髪ツインテールの少女──朝木(あさき) かなでは両手を頭上に掲げて大きく伸びをした。魔導高専の座学の授業は酷く退屈だ。それでも90分も席に座ってじっとしていなければならないのは、かなでにとって苦痛以外のなにものでもなかった。

 だが、18歳にしては小柄で幼女然としている彼女が伸びをしていると、少し微笑ましくもある。


 傍らの一見清楚に見える金髪のお嬢様はアンナ=カトリーン・フェルトマイアー。異世界からやってきた異世界人であるが、地球で過ごした2年間のうちに日本の文化にどっぷりと浸かり、今は三度の飯より女児アニメが大好きなオタクと化している。

 そして、魔王による文明崩壊によってゲーム自体貴重なものとなってしまった今、任務の最中に手に入れた古びたゲーム機を彼女たちは毎日のように遊び倒している。



 授業が早く終わった嬉しさからか、ウキウキで寮に戻ってきた二人だったが、部屋の前でよく見知った人物と遭遇した。黒髪ロングの、特に特徴のない少女だったが、かなでとアンナは軽く手を上げて挨拶をする。


「みやこー!」

「およっ?」


「ちょうどよかった。みやこもゲームしようよー!」

「みやこさんもボッコボコにしますわ!」


 みやこと呼ばれた少女は一瞬きょとんとして表情を浮かべたが、すぐに「あははっ」と声を上げて笑った。


「もー、二人ともなんで今日授業が午前中で終わったから知らないのー?」


 かなでとアンナはお互い顔を見合せた。そして揃って首を傾げる。

 みやこは大きくため息をついた。


「ほんとに教官の話聞いてないんだねぇ……。今日は入学試験の日なんだよ?」

「それがどうかしまして? わたくしたちのゲームとなにか関係がありますの?」

「新3年生は姉妹(スール)にする新入生を見繕いに行くって伝統があるの! もう瑞希(みずき)ちゃんと玲果(れいか)ちゃんは体育館に行ったよ?」


 かなでとアンナは再び顔を見合せた。二人にとって姉妹というのはあまり興味のないものだったが、誰もいない部屋で2人だけで真昼間からゲームをするのも少し寂しいと思った。


「まあ、行くだけ行ってみるか……」

「ですわね。ゲームはいつでもできますし」

「そうそう、はやくしないといい子取られちゃうかもよー?」


 みやこに背中を押されるようにして寮から体育館にやってきたかなでとアンナ。階段で2階に上ってギャラリー席に出ると、もうすでにかなりの3年生が席に座って入学試験を見物していた。すると、ギャラリー席の中央付近でキョロキョロとしていた茶髪ミディアムショートの少女が三人に気づき、手招きをしてきた。三人は手招きに応じて、茶髪の少女が荷物を置いて確保してくれていた席に腰を下ろす。



「遅かったね」

「聞いてよ瑞希ー。この二人ったらさぁ、また入学試験のこと忘れてんの。教官からの案内もあったはずなのに聞いてないみたいだし、ほんとおバカというか……」

「まあ、だろうと思った。みやこを寮に残しておいて正解だったね」


 みやこが愚痴ると、瑞希と呼ばれた茶髪の少女は肩を竦めた。


「まあ、わたくしがバカだと仰りたいのですかみやこさんは!」

「事実じゃん。どんだけ瑞希に迷惑かけてるか分かってるのー?」

「で、でもこの中ではわたくしが一番敵を倒してますし! 一番役に立っていると思いますわ?」


 苦言を(てい)し始めたアンナを瑞希は「まあまあ」といったふうに身振りで制した。


「うちの班のいいところは『型にはまらないところ』だと思ってるから」


 瑞希、みやこ、かなで、アンナは寮の同室でチームメイトで、一番しっかり者の瑞希が室長として事実上のリーダーを務めている。──そしてもう一人。


「そういえば玲果は?」

「それならあそこに……」


 かなでが尋ね、瑞希が指をさした先には、瑞希と同じような茶髪の少女がギャラリー席の最前列の手すりに顔をくっつけるようにして下を見下ろしていた。こちらの少女は茶髪をお団子と三つ編みに結っているが、なんとなく近づいてはいけないような雰囲気を放っている。


「玲果、もう完全に実験対象を探す目してるよ……」

「姉妹をモルモットとしか見てないんだろうね……」

「玲果の姉妹になった1年生は可哀想に……」

「クワガタクワガタですわ……」


 かなでがアンナに「それを言うならくわばらでしょ!」とツッコんだところで、四人は揃って両手を合わせ、まだ見ぬ玲果の被害者に対して合掌した。

 後方支援が主な役目である医療科に配属されている玲果は、平気で他人に原材料不明の自作ポーションを飲ませようとしたり、魔物の侵略により失われた祖国の食べ物であるという得体の知れない物体を食べさせようとしてきたりする。同室のアンナたちは、真っ先にその被害に遭っていた。


「まあ、全部が全部ハズレじゃないとはいえ中には超不味いのとか、飲んだら体調崩すクスリもあったりするから、新入生には悪いけどかなたちの代わりに引き受けてくれたら──」

「だからぁー、副作用は個人差があるって言ってるじゃんー」

「げっ、地獄耳……」


 ボソッと呟いたかなでに玲果本人が反応し、四人の隣に戻ってきて苦笑するので、かなでは苦虫を噛み潰したような顔をして(うつむ)いた。気まずそうなルームメイトたちに対してなおも玲果は弁明を続ける。


「もぅ、皆も人聞きの悪いこと言わないでよぉ? あたしだって実験対象は大切にするっての!」

「やっぱり1年生を実験対象にするつもりだったのね……」

「おっと、こりゃあ失礼。まあ、悪いようにはしないつもりだよ。ただ、あたしの探究心を満たしてくれる存在だったらなって──」

「実験対象っていうのをポジティブに言い換えたなぁこいつ」


 瑞希もみやこも、玲果をチクリと刺しつつも止めるつもりはないようだった。仮に止めたところで、大人しく止まるような相手でもないと分かっているのだ。



「あっ、始まるよ」

犬藤(けんどう)教官とか、かなかな教官もいるぅ……」

「なんか、絵面が地味で笑えてきますわね」


 体育館の1階では魔力測定が始まっており、舞台の前に並べられた魔力を測定する器具を腕につけた受験生と、その測定結果を読み上げて記録する教官たちの声でざわざわとし始めてきた。


「ふーん、すでに第2から第3階梯(レベル)まで使える子が多いのかぁ……さすがに皆それなりに素質がありそうだねぇ」

「入学時にそれだけ使えたらもう御の字だって。わたしなんて、第1までしか使えなかったよ?」


 食い入るように下階を眺めながら呟く玲果に、瑞希が声をかける。

 この世界での魔法は炎・水・風・雷・地・氷・光・闇の8属性あり、それぞれの属性が1~8の階梯(レベル)に分かれている。レベルについては発動に要した魔力の総量で計測される。


「それが今や3年生で魔物撃破数トップの班の班長なんだから、人生なにがあるか分からないものだよねぇ〜」

「撃破数については、うちにいるバーサーカーどもの仕業だからわたしの力量関係ないんだけどね……」

「個性派のチームメイトをまとめられるのも立派な才能よー?」

「個性派筆頭みたいな玲果に言われるとなんとなく微妙な気分になるのはわたしだけ?」

「うん、多分瑞希だけ」


 軽口を叩き合う二人は、完全にお互いのことを信頼しあっているようだ。それは二人だけでなく、ルームメイトの五人が全てそのような関係で、だからこそこんな個性派のメンバーが同じ班でやってこられたのかもしれない。

 アンナ、かなで、瑞希、みやこ、玲果の五人がそれぞれ改めてルームメイトの存在に感謝していると、階下でちょっとした騒ぎが起こったようだった。今までボソボソと測定結果を読み上げていた教官のうちの一人が突然、()頓狂(とんきょう)な声を上げたのだ。


「だ、第8階梯(レベル)ぅぅぅ!?」

「お、おいどうした……?」

「受験生で8レベル……? 測定結果の間違いではなくて?」

「いや、そんなはずは……」

「とりあえずもう一回測定し直せ!」


 あたふたする教官たち、それを見ながら玲果は小さく呟いた。


「ふーん、面白くなってきたじゃん?」

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