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Act.5 神田班の絆(アンナ)

 ❀.*・゜



 一方みやこはというと、魔力によって支配した岩場の上を逃げ回っていた。砂煙のせいで視界が悪いが、この砂煙を巻き起こしたのは他でもないみやこ自身だった。支配した場所においては視界を奪われていようと誰がどこでどのような動きをしているのかみやこには手に取るようにわかる。むしろ、この砂煙は魔物の連携を妨害するためのものだった。

 そして、大盾を持って走り回りながら、時折襲い来る敵を盾で吹き飛ばしたりしながら、みやこは敵をある一点に誘導していた。


「今っ!」


 みやこの掛け声で突風が巻き起こり、砂煙が綺麗に晴れた。すると、目の前には小型の魔物が所狭しとひしめいていた。

 吐き気をこらえながらも、みやこは呪文を唱える。


「──『無限蟻地獄(サンド・ボルテックス)』!」


 ゴゴゴゴッ! と凄まじい音を響かせながら、魔物の足元の地面が崩れる。そしてそれは砂の渦となって魔物を飲み込み、一網打尽にしていく。バキバキバキィッ! と硬いものが折れるような音や、なにか金属質のものがすり潰されるような耳障りな音がひとしきり響き渡り、みやこはたまらず耳を塞いだ。


「うぅ……嫌な音!」


 突如地面に現れた砂の渦は多くの魔物を地中に引きずり込んだが、それでもまだ魔物は仲間の(しかばね)を踏み越えて進撃を続けている。


「これじゃあキリがない!」


 とはいえ、魔物の突破を許してしまえば多くの一般市民に被害が出るだろう。


(あたしの魔力も無限ってわけじゃない。さっきから大技連発してるからそろそろキツいかも……)


 頼みの綱のかなでとアンナは果たして司令塔である中型魔物を倒してくれたのだろうか。正確にはすでにあのカマキリは倒されていたのだが、みやこは知る由もない。むしろ、司令塔を失ってもなお小型魔物の勢いは衰えることを知らなかった。

 ふとした隙に、みやこは敵の一団に囲まれてしまっていた。敵の動きは把握してはいたのだが、魔力を節約することを考えていて上手く捌ききれなかったのだ。


「──しまっ」

「みやこーっ!」


 その時、空中からそんな声がして、前方の魔物たちが虚空から出現した水流に押し流された。


「瑞希! 助かったよぉ……」

「茶道部盾使い同士の絆、甘く見ないでよね!」


 みやこを救ったのは、ステルス能力で姿を隠していた神田瑞希だった。両手に小ぶりの盾を1つずつ構えた状態で姿を現した瑞希は、みやこの背後を守るように立つ。


「これからどうするのリーダー?」

「とりあえず玲果と合流しよう。ほんとはあのバカどもと合流できればいいんだけど」

「むむっ、どうやらまだ魔物は組織的に動いてるみたいだし、やっぱりカマキリの他に指示を出してる裏ボスみたいなのがいるのかも」

「それは後で考えよう。今はこの岩場から魔物を逃がさないことが最優先。多分、他の班もすぐに応援に来てくれるはずだからわたしたちが持ちこたえないと!」

「そうだね」


 瑞希とみやこは互いに顔を見合わせて頷き合うと、同時にそれぞれ盾を構えて魔物の群れに突っ込んだ。



「吹き飛べぇぇぇっ!」

「やぁぁぁぁぁっ!」


 瑞希の水魔法とみやこの風魔法が合わさり、さながら渦潮のように渦を巻いた水流が魔物を吹き飛ばしていく。

 2人が進んで行った先には、神田班の変人こと陳玲果が大鉈(おおなた)を振り回して奮戦していた。


「おらぁぁぁっ! 医療科だからってナメてるんじゃねぇぇぇっ!」


 炎と水と氷、三属性を上手く使い分けながら器用に立ち回るその様子は、普段の変人っぷりからは考えられないようなものだったが、多勢に無勢。魔物の一団が玲果を追い詰めたところで、瑞希とみやこが周囲の魔物を吹き飛ばしながらすぐさま割って入る。


「いよっ、ナイスタイミングだったね!」

「でも油断しないで、わたしもみやこももうそう長くは戦えないから」

「奇遇だねぇ、あたしもそうだよ」

「いつも通り軽い任務だと思ったら、こんなに追い込まれるなんてね……」


 ピンチの状況においても、あくまでもひょうひょうとしている玲果に瑞希は少し驚く。死を恐れているというよりも、命のやり取りを楽しんでいるのかもしれない。玲果は医療科だが、征華の生徒──強襲科の生徒は特にその傾向が強い。常に死と隣り合わせの状況で生きているうちに、無意識のうちに脳が環境に適応してきているとも言えるが、根本的には『敵を倒す』という本能的なものに従って行動しているがゆえだろう。


「そうだ。冥土の土産に1本いっとく?」

「……いやいい」


 玲果が取り出したのは、試験管に入った得体の知れない真っ赤なポーション。瑞希が首を振ると、玲果は代わりに青いポーションを取り出した。


「んじゃあ回復ポーションで」

「それなら飲む」


 みやこが地面に大盾を突き刺すと、3人はその盾に隠れながらそれぞれ玲果の回復ポーションを(あお)った。回復といっても身体へのダメージが修復されていくだけで魔力切れには効果がないのだが、3人は少しだけ気持ちの余裕ができたようだった。


「よーし、じゃあもう一頑張りするかぁ」

「バカどもが戻ってくるまでは時間稼がないとね」

「やるだけやって悔いなく死のうか!」


 3人が大盾の後ろから顔を覗かせた時、目の前の光景に同時に息を飲んだ。


「……なにあれ?」

「よくわからない」

「でかっ……」


 目の前に魔物の山ができていた。互いの身体に登り、(うごめ)き、地面に横たわっている死体すらも取り込んで、小さな魔物たちは1体の巨大なムカデの形の魔物へと変貌(へんぼう)しようとしている。

 ムカデはその長い首をもたげて3人を威嚇(いかく)する。体長は100メートルはあるだろうか、おぞましい見た目と相まって、見るものに恐怖を与える。


「ど、どうするのあれ?」

「と、とりあえず逃げた方がよくない?」

「同感。あたしたちじゃあ歯が立たないと思う。撤退して本部の指示を仰ごう」


 班長である瑞希が下した判断は撤退だった。だが──


「その必要はありませんわ!」


 突如ムカデの頭部に閃光が弾ける。不意打ちを受けたムカデが(ひる)んだ。


「チッ、やはり遠距離攻撃では効果が薄いようですわね」

「……アンナ?」

「かなもいるよーん!」

「かなで!」


 瑞希、みやこ、玲果の3人は、班員との再会を喜んだが、状況が悪いことに変わりはなかった。オマケに、3人だけでなく、アンナとかなでの2人も先程のカマキリとの戦闘でボロボロだった。


「でもどうするのあれ……あたしたちで倒せるの?」

「やるしかないでしょう! 撤退したらアレが市街地に襲いかかるんですのよ?」

「確かにそれは困るなぁ」


 玲果が尋ね、自信たっぷりにアンナが答えると、考えるような素振りをしていた瑞希が何かを思いついたようだった。


「せっかく5人揃ったし、一か八かだけど『アレ』をやろう」


「なるほど! 『アレ』ならもしかしたら!」

「火力は十分、後は当てられるかだけど……」

「そこはわたくしと玲果さんでなんとかしますわ。ねぇ?」

「そうねぇ、やるだけやってみるかぁ」


 班員が同意したのを確認すると、瑞希は険しい表情で盾を構えて前に進み出た。


「じゃあわたしは死んでもみんなを守るからね」

「違うよ、みんなで生き残るよっ」


 みやこが首を振ると、心なしか瑞希の表情が和らいだ。


「じゃあ始めるよ! ──八大精霊(はちだいせいれい)煉獄(れんごく)業火(ごうか)のサラマンダー。(なんじ)真名(まな)()って──」


 かなでが詠唱を始めると、それに反応したのかムカデが口から魔力の塊を放つ。──が


「──『水激流壁(ストリーム・シールド)』!」


 ムカデの魔力は瑞希が展開した水の壁に(はば)まれた。それと同時にアンナと玲果がムカデの足元に向けて魔力を放つ。


「『放射電撃(スプレッド・ボルト)』!」

「『硬化氷結(アイス・バーン)』!」


 強電流と凍結によって、ムカデの動きが止まった。もっとも、これだけではトドメにはならない。


「みやこっ!」


 かなでが声を上げてまっすぐみやこの元へ走る。何かを察したのか、ムカデが口から魔力を放射するが、瑞希がそれを防ぐ。しかし、魔力が強すぎたのか、瑞希の壁は弾かれて瑞希もろとも背後に吹き飛んでしまった。


「瑞希ぃぃぃっ!」


 みやこが叫ぶ。かなではすぐそこまで迫っている。


 かなでが跳んだ。みやこは頭上に盾を構え、飛び込んできたかなでを風の力で大きく上空へと吹き飛ばした。大盾を踏み台のようにして、首をもたげたムカデの頭部よりも更に上空まで跳ね上げられたかなでは、全身の魔力を武器の大斧に込める。


「食らえぇぇぇぇぇぇっ! 炎魔法第六階梯奥義──『鳳凰天翔撃墜覇エアリアル・フェニックス・バスター』!」

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