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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桜と春

作者: アマト


 「――そういえばさ、ハルって前髪切った?」


 「え〜やっぱり分かっちゃう? 昨日自分で切ったんだよね〜!」


 「分かるよ〜なんか雰囲気っていうか、印象変わるもん! でもやっぱり髪型で性格とかって分かっちゃうよね~なんかハルっぽいもん」


 「ええー それはちょっと酷くない?」


 学校の休み時間の友達との他愛もない会話。

 いつだって変わらない、言葉にはしないが、騒がしいくらいの息抜きが私はたまらなく好きだった。


 だけど、今日は――いや、今日()()は違った。


 「別に、変わるのは第一印象だけですよ。(はる)さんの内面とか、性格なんて簡単には変わりませんから」


 話に水を差す様な言葉が、後ろの席から聞こえた。


 「え……あ、ごめん! 騒がしかった?」


 咄嗟に出たのは自分の動揺を取り繕うような言葉だけだった。


 「……いえ、こちらこそ冷たい物言いになってしまって、すみません。私は用があるので気にしないで下さい」


 そう言って後ろの席の彼女は席を立ち、教室の外へ出て行ってしまって、あんな事を言われた後でも、私は彼女追う気もおきないくらい、呆気に取られていた。


 「……何だったんだろ、ハル、気にし過ぎない方がいいよ? 友達情報だけど、桜木(さくらぎ)さんって何時もあんな感じらしいから」


 「う、うん。全然大丈夫だよ? えっと、何の話だったっけ?」


 ……結局、そのままだらだらと時間を過ごしたけど、何となく言われた言葉が頭から離れなかった。


 普段だったら、笑って話のネタにだってしてたかもしれないのに。

 あっちだって、絶対に大層な気持ちで言ってもいないのに。


 何だか、悔しかった。


 何が悔しいのかも分かんない。

 別に馬鹿にされた訳ではない。正論ではあったけど、責めるような言い方じゃなかったのは確かだったし。

 よく分かんないのがずっと頭の中でモヤモヤして、その日はただでさえ苦手な勉強も、更に手に付かなかった。

 おかげでぼーっとするなって先生に怒られたし、友達からも、お母さんからも少し心配されちゃったし。


 結局、自分の部屋に戻ってからもずっと気になっていた。

 モヤモヤは今日一日を通してイライラに変わってた。

 何で私がこんな気持ちになんなくちゃいけないんだろって、別に悪い事なんか何もしてないしって、思った。


 思って、考えて、グチャグチャになって、よく分かんないまま閃いた。


 ――それなら、変わってやろうって。


 別に、毎日に凄く不満があったわけじゃないし、変えたいと思う程の何かが自分にあるわけでもない。

 でも、それでも、私の中の価値観とでも言うような何かをあいつに変えられた気がするのが、無性に腹立つ。


 『内面とか、性格なんて簡単には変わりませんから』


 私は少女趣味でもないし、桜木さんが男なわけでも無いのに、あんなセリフで少しドキッとしてしまった自分に無性に腹が立つのだ。


 「絶対に、見返してやるから」


 部屋の中で一人、静かに呟いてその日は大人しく眠った。



 ◇



 「あ、ハルだ。おはよー」


 「おはおはー」


 「ちょっとこっち来れる? 見せたいのがあってさー」


 「あ、ちょっと待ってね!」


 昨日も続いていた日常を今更やめるつもりなんて無いし、きっとこれからの毎日も大差なんてないと思う。


 でも――


 「ねえ、桜木さん?」


 「……私、ですか?」


 「このクラスに他に桜木さんなんていないよ?」


 「そうですけど……もしかして昨日のことですか?」


 「そうだけど……あ、別に謝れって言うわけじゃないよ? 全然怒ってないし。まぁ、ちょっとは気にしてるけどね」


 「それなら、私に何か用事でも?」


 「用事っていうか、宣言……みたいな? 私、絶対に変わって、あんたを見返してみせるから」


 ――私にとっては、大きな一歩だから。












 「ハルー? まーだー?」


 「ごめーん! 今行くからー!」


 ……小走りで友達の方へ向かう彼女を見つめながら思う。


 あんなセリフを私なんかに言って、どういうつもりなのだろうか。

 彼女の方だって顔を少し赤くしていたのだ。恥ずかしく無いはずがない。


 けれど、あんな言葉で私の鼓動も早くなるなんて、私も意外と少女趣味なのだろうか。


 友達と、さっきとは違う普段通りの顔で話す彼女を目で追いながら、それとも彼女が……なんて、考えてしまう。


 この気持ちはきっと嫉妬なんかじゃないと必死に誤魔化しながら――


 「これから、どんな気持ちで話せば……」


 ――そんなことを、思わず声に出す程に私は動揺しているのだ。

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