序章2
2話目です
次の日の三月十七日。その場所には多くの警察官が詰め寄っていた。
早朝にその道をジョギングしていた男性が通報し、こんな時間にと思いながらも内容が内容なものなので、大急ぎで現場に向かった。
「お疲れ様。状況はどうだい?」
ベテランの刑事が、眠気をこらえつつ、捜査をしている部下に聞く。
「はい、死亡したのは横水 忠弘。株式会社アグロ・コンシェルの会社員ですが、これがまた大物で、来月には代表取締役社長に就任することが決まっていたそうです」
「はあー。こんな時期にね。縁起が悪い」
「ええ、全くです。こちらも異動やらで手一杯なんですけどね」
自分たちの人事のことを愚痴りながらも、彼らはてきぱきと現場を捜査していく。
「死体の方は?」
「死体は検死に回しました。ただ、初見で見ただけですが、刃物のようなもので切り付け
られたように見えました」
「刃物だ?随分“古典的”だな」
「ええ、今時珍しいですよね」
すると、マスクをし、大きなカバンを提げた捜査官がやってくる。
「なあ、本当に刃物か?〝魔術〟とか〝エンチャント・ウェポン〟とかじゃないのか?」
「間違いなくそうですよ。おまけに〝魔族〟でも、〝精霊族〟でも、〝神族〟でもなさそうですね」
マスク越しに深いため息を吐く彼を見て、刑事も同様にため息をつく。
「じゃあ、人族かい?」
「それも不明です」
「なんだよ。じゃあ、何にもわからないっていうのか?」
あまりにも不明な点が多いため刑事はイライラしてくるが、捜査官も困り顔をして、
「それは私だって、こんなにわからないなんて思いませんでしたよ。“この時代”にこんなにも証拠を残さないで殺人ができるなんて」
「隠ぺい魔術の可能性は?」
横にいた部下が聞く。
「それも無いでしょうね。一撃で彼の首をスパンとですね——」
「辞めてくれ。冗談じゃないんだから。そんな軽く言うな」
刑事は額に手を当てて捜査官の言葉を止める。
すると、隣で聞いていた部下の携帯に着信が入った。
「はい・・・・えっ⁉ はい。わかりました。では」
「なんだって?」
「いえ、その、被害者の勤めていたアグロ・コンシェルですが、死亡した彼の部屋から脱税の証拠や、裏組織との取引、魔獣の違法改造などの書類が大量に、出たと」
刑事は先程よりさらに深く息をつく。
「なんなのかね。元々黒い噂があったけど、まさかね」
「しかもこんな形で見つかるとは、皮肉にもなりませんよ」
やれやれと思いながら、目前の事件の捜査に戻る。
結論から言えば、この事件は突然操作が打ち切られることになる。
殺人事件というのはわかるが、それ以降の証拠が出ない。
目撃者もいなければ、凶器も見つからない。あまりにも不可解な事件に。
当然、捜査官たちは全力で捜査にあたり、上層部から捜査中止の命令が来ても、再捜査を主張した。
しかし、彼らの主張もむなしくこの事件は闇に消えてしまう。強引すぎる上層部の決定に不満を抱く人も多くいたが、なぜそんなに上層部が消そうとしていたのかは彼にもわからない。
また、アグロ・コンシェルはこのときに不正の数々が露見してしまい、三か月後に倒産。大手食品メーカーの倒産は、日本のならず世界にも衝撃を与えた。
この一連の流れの中で、何があったのか、裏で手を引くのは誰なのか、メディアやインターネット上では大論争を巻き起こしたが、真実を知っているのは、ごく限られた人物のみである。
よろしくお願いします。