05 魔法の世界
地面がある!
安堵のため息を漏らしながら、僕はそのまま崩れ落ちた。体中が汗にまみれ、虚脱感に覆われている。横を見ると、サラも玉の汗を額や首筋にかき、肩で息をしていた。
「……あんなのあるなら、最初に言って欲しかったんだけど」
起き上がりながら、恨みを込めて僕は彼女を睨んだ。
「えへへ。いやー、実は私もあんなのは初めてで。ゴメンね」
「初めて? 世界を転移しているっていったけど、僕の世界にも同じ方法で来たんだろう?」
「うっ、まあ、そうなんだけど……。それより! ほら、ここが私の世界です! ジャーン」
露骨に彼女は話を打ち切り、僕の眼前に立って両腕を目いっぱいに広げた。彼女の手の向こうに広がる景色に気づき、僕は息を呑んだ。
僕らは丘の上に立っていて、それを一望できた。
空を登り始めた2つの月。天を衝くほど高い城。城は水晶のようなもので形作られ、月光を受けて燦然と輝いている。
城の周囲には街が広がっていた。石造りの建物が城を中心に円環状に並んでいる。城へと続く大きな通りが何本かあり、多くの人でにぎわっていた。馬車を引く、翼を持った馬。箒で宙を駆ける人。
まるで――まるで、魔法の世界。
「どう? すごいでしょ?」
サラが腰に手を当て、鼻を高くしながら言った。
「うん。すごい……」
半信半疑、いや、一信九疑以下だったが、ここまでくればもう認めざるを得なかった。彼女が魔法使いで、ここが魔法の世界であることを。
呆然とする僕の手を、再びサラが取った。
「ようこそ、我が国、エラルディアへ!」
「とりあえず疲れたしお腹も空いたから私の家に行こう!」というサラの提案に乗って、僕らは彼女の家を目指した。狭く人通りの少ない路地を歩きながら、サラはこの世界の説明を簡単にしてくれた。
彼女の説明によると――
この世界には魔法を使える種族が3ついる。人、妖精、エルフだ。3つの大陸と幾百の島は、魔法を使役する3種族によって統治されている。
サラが住むこの国――エラルディア共和国は、北に位置する大陸にあった。北大陸には2つの大国、2つの小国がある。大国エラルディアは、北大陸で唯一、人が統治する国でもあった。
この国は一人の賢人を頂点に治められている。賢人のもとには最高位の魔法使いが7人いて、彼らは賢人を補佐し、国を発展させ、安定を保つ役割を持つ。
――という話だった。
「まあ、偉い人が何やってるかなんて、わたしにはわかんないけどねー。さて、ついた。ここが我が家だよ」