04 光の海・世界の転移
落ちる回る加速する!
「ああぅウウわァあああああアッ!」
喉から自分のものと思えない音が絞り出される。しかし音すら置き去りにして僕らは落ちる。必死でサラの手を握りしめた。
『落ち着いて』
不意に頭にサラの声が響いた。
『大丈夫。世界を転移しているだけで、落ちているわけじゃない。そういう魔法なんだ。それより呼吸しないと死んじゃうよ』
言われて初めて、絶叫のあと息を止めていたことに気がついた。喘ぎながら口を開け、肺に空気を送り込む。咳き込みながら息を整えると、汗が吹き出し、血液が土石流のように全身を巡った。
サラは穏やかな笑みをたたえて僕を見ていた。彼女の衣服は周りの闇と同化しているのに、彼女の顔も、吐息も、鼓動さえも、認識できた。
『そろそろかな……。ほら、見てみて?』
彼女が指差す方向には、針の穴サイズの光の点があった。
いつの間にか落下感はなくなっていた。僕らは光を目指して進んでいた。輝きは徐々に大きくなる。
一つのものが光っているわけじゃない……。無数の光が集まって、蠢いている!
『飛び込むよっ! 手を離さないでね!』
光の海に僕らは入っていった。中は光の粒子に満ちていた。光の粒子は僕らを覆い、流れ、ゆらめきながら通り過ぎていく。
粒子の一つ一つには、音、温度、触感、味、匂いがあった。木の葉のさざめき、ひんやりとしたガラス、羽毛の柔らかさ、レモンの果汁、ケチャップの香り、風鈴の澄んだ響き、ひまわりの輝き、陽だまりで背を伸ばす草の匂い、炭酸が弾ける快さが僕の全身を駆け抜けていく。心と体は否応なく反応し、高揚する。
気持ち、いい……?
頭が飛びそうになる感覚。筋肉が脈動し、弾けそうになる。
気を保つため、必死で意識を手繰り寄せる。
僕は右手を通して伝わるサラの体温と柔らかい手のひらに集中した。強く握ると、強く握り返される。感覚の海に気絶しないように、彼女も必死で耐えている。
どれだけそうしていたかわからない。
幾度となく意識を嬲られたのち、僕らは光の海を抜けた。
その先には、目を疑う世界が広がっていた。