七話
「よくきたな、勇者よ」
なんなの。魔王って、勇者を歓迎するところから始めるの?絶対そんなのしないでいいよね。殺しに来てる相手を歓迎するって、どういう神経してるんだろ。
「俺を殺しに来たか。残念だったな。人間如きに負ける俺ではない」
「まあ俺は殺すつもりはないけど」
魔王ちゃんの機嫌を取る事はできなかったけど、最低限譲歩させた結果、魔王を殺さないって言う選択になった。
前までなら、殺さないと解決にならないと思ってたけど。この魔王ちゃんが殺す以外でも解決できるって証明になったし。
まだわかってる事は少ないけど、恐らく魔王を一時的でも動けない状況を作れればいいんじゃないか?この動けないは、簡単な拘束とかじゃなくて、冬眠とか冷凍保存みたいな、よっぽどの事がない限りは自分で動き出せない状況の事だと思う。
まあ、どれが正解かなんてわからんし、深く考えてもしょうがないけど。てかまあ、魔王ちゃんは動けない状況にすらしてないけど。ほとんど会話しただけで終わったし。それに魔王ちゃんと話したのは、こっちの世界に来てからだし。
「それじゃあどうする?たった一撃で終わらせてもいいけど、それだと、魔王の威厳ってのが損なわれるだろ?どうするよ、先に攻撃するか?」
「人間如きが、俺を舐めるんじゃねえぞ!」
そこからは、ダイジェストで。
魔王ってのは魔法を使わないといけないルールでもあるのか、先制攻撃は魔法の一発。
だが哀しいかな。見事綺麗にカウンターが発動した。魔王の魔法を無効化する事はできないけど、そこは回避スキルのおかげで、俺は無傷。まあそれが機能しなくても、他にも色々と魔法だったりスキルがあるから問題ない。
えー、魔王にはしっかりと魔法に対する適正があって、耐性もちゃんとあるようで。おかげで一撃で気絶できなかった。これは俺がってより、魔王にとって悪い方になる。
そこで余計な意地を張ったのか、やけくそで魔法を連発してきた。
案の定、全部にカウンターが発動する。バチバチ言いすぎて、耳が痛くなった。
これにより、魔王は立つ事すらままならない様子だった。椅子に掴まって何とか立ってられる感じだった。
そのあとは、まあ、新しく獲得した魔法を使った。冬眠魔法。本当ならただ睡眠効果を付与するだけなんだけど、これまた勇者補正なのか。俺が解除しなかったら、最低でも一か月は寝る事になる。長くて六か月。これを冬眠って言わなくてどうしろと言うのか。
「くそっ。だが、俺は魔王の中では最弱だ。貴様は成す術なく殺されるだろうな」
「そんなテンプレ会話は求めてないんだよ」
「くそがっ」
うん、魔法の耐性があっても、ちゃんと寝てくれた。うん、こんなペラペラ喋られたら、不安になるよ。
「貴様!何故このような事を!」
「そりゃ、くだらない戦争を止めるためだな。そのために呼ばれたんだし」
「くだらな、だと?」
てかこの人だれ?さっきの騒音問題で駆け付けた人?
「我々が、命を捨ててまでやってる戦争を、くだらないだと!」
「ああ、くだらないな。俺はこっちに来て一か月ぐらいしか経ってないけどな。それでも戦争自体、くだらない事だろ。話し合いで解決できないからと言って、すぐ暴力になるのは馬鹿としか言いようがないだろ」
「それは貴様も同じだろう!王を殺しておいて、よくそんな事を!」
「ちゃんと確認しろよ。死んでないから」
まあ、冷静さを失ってる相手に、正論パンチを喰らわせたところで、逆ギレされるだけだけど。
「それとこれとは話は違う!」
「自分から話を振ったくせによく言うよ」
「我々が命を懸けてしている戦争を、くだらないだと。それで死んでいった人の事を思わないのか!」
「そうだな。そっちは俺がどうこう言うなんて事しない。死んだ人の事を悲しむ権利があるのは、その家族だけだ」
って、どっかの漫画か小説で読んだ。しかも曖昧な状態だし。
「俺は、子供たちの方が可哀想だな。こんな何を目的でやってるかもわからない戦争に巻き込まれるんだからな」
「貴様に何がわかる!この戦争を終わらせる方法など、どちらかが勝つしかないのだ」
うん、わかるわけないよね。日本とか言う、超絶平和な国から、遠路はるばるここまでやってきたのだ。戦争を終わらせる方法を知ってる日本人とか、そんな簡単に見つけれるはずない。
「まあ、俺はきっかけを作ってるじゃねえか。俺は魔王を取りに来た。けど、魔族側はどうなんだ?まあ暗殺者とかは送り込んでるかもしれないけど、ここまで直接的な行動をしてるわけじゃないだろ。だから、いいきっかけじゃねえか。『我々は王までは狙わなかった。だがそちらは、我々の王を殺しに来た』ってな」
「……それが、どうと言うのだ!」
「ま、世間知らずの未成年の独り言だ。当てにされても困る」
いや、もう成人は超えてるか?世界を超える旅で、時間の経ち方とかも全然違ってくるから。自分が何歳になったのかも把握できてない。前の国だと、雪すら降ってるぐらい寒かったのに、次の国に行けば、蜃気楼が出るぐらい暑かったりする。
「それに、俺は魔族の味方じゃないんだ。そんなアドバイスする立場でもないし。ま、原因だけは作ったからな。それを攻め込む口実にするか、戦争を終わらせる口実にするかは、そっちの考え方次第だな。まあ、自分の子供に戦場に立たせたいなら、攻め込む口実にでもしたらいいんじゃねえの?」
「……」
さて。どうやらここの魔王曰く、自分は魔王の中で最弱だそうだ。どこのテンプレ四天王かは知らんけど、まあ最弱って言ってたんだ。
それに、ここで召喚が来ないって事は、眠らせるのがダメなのか、まだ問題を解決できてないかのどちらかだろう。まあ呼ばれる事はないと思ってたから、あの二人は置いてきてたけど。最悪呼ばれたとしても、俺がいない方が楽しくやっていけそうだし、あの二人は。
とりあえず、問題がまだ解決できてないって事で話を進めていく。
わざわざ強い相手と戦いたくないんだけど。これがゲームとかだと、強敵相手に挑むってのは楽しい事だ。レベリングとかをするのも楽しみだと思うけど、ギリギリの勝負とかの方が楽しめる。
けど、これはゲームじゃない。レベルとかステータスとかUIとか、かなりゲームっぽいけど。それでもゲームじゃない。ちゃんとお腹は空くし、睡魔が襲ってくる。痛みを感じる事もあるし、食べ物の味だってわかる。最新の技術を使えば、再現できるのかもしれないけど。
とにかくまあ、現実だ。ここまで来て古典的な方法で確かめるのもなんだけど、ほっぺをつねったらちゃんと痛い。だから、わざわざ強いって言われてる相手に挑みたくない。俺は死に急ぎたいわけじゃないし。
「それで、魔王ちゃんはいつ機嫌を直したわけ?」
「いつまでの拗ねていてもしょうがないのじゃ。それに、ソフィーに言われてしまったのだ。拗ねていてもしょうがないとな」
「よくやった、ソフィア」
「まーっちゃんは笑顔の方が可愛いですからね」
「どうしておぬし達はそう、恥ずかしい事をペラペラと言えるのだ?」
「なんで今、俺まで被害でた?」
「普段から言ってるであろう。よくもまあ、赤面もせず言えるな」
「だからなんで今、俺に被害がでるの?」
「そうです!私がいつ、恥ずかしい事言ってると言うのですか!」
「自覚がないのが一番ひどいのじゃ」
ま、何にせよ、魔王ちゃんが機嫌を直してくれてよかったよ。ギスギスしたまま旅をするのは嫌だし。
ギスギスしてると、どう頑張ってもギャグになりませんからね。