六話
もうすぐ、魔王領に到着する。
そして、今はそこに一番近い町の、宿にいる。作戦会議とかするでもなく、ソフィアと魔王ちゃんが楽しそうにお喋りをしている。明日か明後日ぐらいに魔王のところに行くってのに、そんな感じを一切感じさせないよね。
それとですね。金の問題もあるので、部屋を一緒にしてる。正確には一悶着あったのだが、結局のところは一緒なので、詳しい話は省かせていただく。
まあ色々あったので、一緒の部屋にいるのだが。どう考えても、俺の居場所がない。あの女子組は楽しそうにしてるけど、普通もっとあるじゃないですか。魔王ちゃんが軍資金を使いすぎたせいで、正直宿に泊まるってのも厳しい状態にはなった。
けど、恐らくこの世界最後だろうし、泊る事にはなった。まあ金がないので、二部屋取るって事はできなかったんですけど。
「あの、いい加減寝る準備してもらえません?」
「別によいではないか。おぬしが勝手に寝れば」
「じゃあ火を消していいの?」
「それではお喋りができなくなる」
「だから、寝る準備をしてもらいたいんですけど」
「別にいいじゃないですか」
うん。まあね。火があってもなくても、眠たかったら寝れるけどね。問題はそっちじゃないんだよね。
キャッキャウフフが隣でされたら、寝れないんだよね。いつの間にかこの二人、本当に仲良くなってるし。本当に楽しそうにお喋りするのは良いんだけどね。おかげで俺は寝れないのよ。
こっちはこっちで色々と耐えてるのにね。せめてこっちの事も考えてほしいよ。こっちだって、昼とかは譲歩してるんだからさ。夜ぐらい、静かにしてくれよ。
「せめて、静かにしてくれ。お喋りをやめろとは言わないから、せめて静かに。となりとかの迷惑とかも考えて」
「でも」
「君たちはまだ元気なんだろうけど、普通の人は、夜になれば眠たくなるの。そこで休息を取りたいの。そこに大声が聞こえてきたらどうだ?嫌だろ?だからせめて、静かに」
「「はい……」」
うん、ようやく寝れるよ。
やっぱり、魔族ってのは特徴的なんだよな。世界ごとに変わってくるけど、大抵は角があったり翼があったりする。珍しい場合で言えば、ただ肌の色が濃いだけとかもある。
他には、ここに居る魔王ちゃんのような、しっぽとか付いてたり、鱗がついてたり。
そしてこの世界は、どうやら平均的な、角と翼がある魔族のようだ。これが平均的って、ちょっとわからないけど。
「いいか、魔王ちゃん」
「せめて真面目な場面では、ちゃん付けはやめないか」
「何があっても、手を出すなよ」
「??」
「いいか?見た目は違うにしろ、今から君と同じ魔族の王を殺しに行く」
「何故そのような事を!」
「別に、絶対殺すってわけでもないけどな。でも多分、今までの話を聞く限り、魔王を殺す事になる」
「ダメじゃ」
「一応、そのための旅なんだけどな」
「それでもダメじゃ」
「まーちゃん。これはやらないといけない事なんだよ」
「おぬしもどうかしておる!何故そのような事を平然と」
まあ、これが普通の感性だろうな。なんでソフィアが平然としてるかがわからん。いや、自分たちの国も同じような結果になってるからか?
「じゃあ君はさ。相手が極悪で、自分の国に侵攻してきたらどうする?」
「それは、」
「まあ、こんなの極論なんだろうけどな。やっぱり大義名分があれば、相手を殺す事だってするんだよ。手段はそれだけじゃないんだろうけど。それでも、やらないといけない事はある。そして今回、人間に召喚されて、魔族の敵になったわけだ。だから、魔王を倒す」
「なら何故、妾は殺さなんだ」
「そりゃ、殺さなくていい魔王だったから」
「ではなぜ、はなから殺す選択になる!」
「そのための、この旅だ」
今回はかなり例外だったけど。ただ、たまに旅人とかとすれ違ったりして、話を聞く事はあった。魔王のせいで商売あがったりだの、この辺りは戦場になってるから、早く通り抜けたいだの。どっちが悪いとかはわからないけど、どっちの悪評も聞いたりはした。
「そういう訳だ。俺は最初に話したぞ?」
「そうだが」
「そこは我慢してもらうしかないけどな。というか、俺には強制させる事はできないし」
強制させてもいいけど、わざわざそこまでする必要はない。嫌なら嫌で、そう言ってくれた方が嬉しいし。
けど、こればっかりは我慢してもらうしかないと思う。自分で言うのはおかしいけど、帰る方法を見つけるとしたら、俺が一番適任だろうし。
「ま、後はソフィアと話して決めてくれたらいい。俺はやる事やってくる。任せたぞ、ソフィア」
「わかりました」
さっき魔族を見かけたけど、すぐに見失ったし。見本にする魔族をちゃんと見つけたい。ぱっとみで姿を作ると、細かいところがおかしくなる。そんなつまらないミスで、人間だってバレてしまうのは嫌だ。
だから、ちゃんと見本が欲しい。別に殺すわけでもないし、悪い事をするわけでもない。……悪い事はしない。多分。
「俺の言う事を聞くか、ここで死ぬか。どっちがいい?」
「ひっ!」
「俺の質問に答えてくれるなら、殺す事はしない。まあちょっと眠ってもらうが」
「おい、にんげ」
「はぁ。ま、眠ってくれ」
話を聞き出せるのが一番だけど、姿を確認できただけで十分だ。城の位置は、町とかに行けば自然とわかるだろうし。
「魔王ちゃんはどうなるかな?嫌がっても、帰るためには、ここに居るだけじゃ解決策がないだろうしな。もうちょっと説得を頑張るか?」
最後の方で邪魔されるのが一番嫌だし。相手の魔王を庇って、自分が出る、みたいな事にならないとも限らないし。
俺だって、好き好んで殺してるわけでもないし。ある程度の覚悟を持ってやってる事だ。そこを中途半端に邪魔されたら、もう殺す事ができなくなるだろうし。
仕方がないにしても、魔族領の地図が適当すぎて困る。世界地図とか大まかな感じになるんだろうけど、それにしても当てにならない。魔王がいる場所もわかってないし。
それに、色々と話を聞いてて、初めてしった事がある。やっぱり魔族の人間と一緒で、繁栄してるって事だ。人間が複数の国と文化があるように、魔族も同じようだ。
今までは、魔族の王、魔王が一人で、国を治めていた。けど、こっちだと聞いた話、国は複数あるようだ。大体は同じだけど、文化も多少異なるようだし。
そして嫌な事に、国には王様がいる。王様がその国を治める。うん。人間がどの魔王を相手にしてるのか知らないけど、魔族すべてを敵にしてる可能性だってある。
つまり何が言いたいかというと。魔王、国の数だけ存在してますね、これ。強いとかはさておき、一人倒して終わりって事はなくなった。最低でも二人は倒さないといけない。
「なあ、いい加減機嫌直してくれない?仲が悪いのに、一緒に旅してるっておかしいじゃん」
「ふんだ」
「まーっちゃん。もちろん許せない事もあるかもしれないけどね。それでもやらないといけない事ってあるんだよ」
「それとこれとは別じゃ」
「まあ、理論と感情は別だしな。どんな理由があろうと、やりたくないと思えばやりたくないわな。しょうがない」
「ハル様はどちらの味方なのですか!」
「俺としちゃ、魔王ちゃんが納得できる形で付いてきてもらうのが一番だけどな。けど、お互いに譲れない事だってある。それこそ、感情と理論は別で。俺は、できるなら魔王ちゃんと一緒に旅したいよ。というか、ちゃんと帰さないといけないから、こんな場所に置いていくことができないけど。けど、俺は魔王ちゃんと同じ、魔族の王を倒さないといけない訳だ。こればっかりは、投げ出す事もできないからな」
「どうしてじゃ!所詮は見知らぬ誰かの頼みであろう!」
「その通りだけどね。じゃあ君は、本当に縋りたくて呼んだのに、何もせず消息不明になったらどう思うよ?まさに絶望だろうな」
「それがおぬしとどう関係しておる!」
まあ、関係ないけど。それでも勇者として呼ばれたから、その役割は果たすべきだと思うし。
「じゃあ、君はなんで魔王なんてやってたの?」
「それは関係ないじゃろ」
「じゃあ、俺も一緒だな。勇者として呼ばれたからには、その役割を全うする。魔王とか王様と一緒だろ」
詳しいところは知らんけど。自分の親が王で、なりたくもないのに王様をやらされてる、とかもあるかもしれないし。それでも王様としてやってるなら、その役になりきってるってわけだろ。俺も同じようなもんだ。
「それに、何度も言ってるけど、殺すのは最終手段だ。この前魔法見たら、できそうな事があったし」
「それのどこを信用しろと言うのだ!」
「ま、自分で判断してくれとしか言えないな」
魔族と人間じゃ、情を入れる種族ももちろん違う。俺達は魔族を敵と思うように、魔族は人間を敵と判断する。
なら、こっちが説得したところで、本人が見て聞いて決めない限り、納得させる事はできないと思うし。やっぱり、できるなら自分の意思を尊重してほしいから。
ギャグってなんでしたっけ。下ネタ連発すればギャグになりますか?