五話
「うん、遅い。いくら浮かれてると言っても、これは遅い」
別に俺は、時間に厳格ってわけじゃない、と思う。
そりゃ、誰もかれもが時計を持ってて、それでも尚三十分ぐらい遅刻するのはどうかと思うけど。連絡を入れたとしても、流石にダメだと思うけど。
こっちだと、日の位置で大体の時間を把握するから。時間ピッタリにつくとか考えてない。これは感覚の問題になってくるし、逆にぴったりつくとか怖い。日の位置で完璧に時間を把握するとか、逆に怖いよ。
それでもね。流石に遅すぎる。もう一時間ぐらい待ってる。それは感覚のズレとかじゃない。絶対遅れてる。
「迎えに行くって言っても、町って結構広いからな。絶対入れ違いとか起きそうだし」
流石に一時間って遅すぎる。一応、なにかあったかもしれないし。魔王ちゃんがいるから、暴力沙汰は問題ないと思うけど。その辺りのチンピラに負けるような魔王じゃないと、思いたい。
けど、あの二人って、お世辞とか関係なく美人だから。いやまあ、俺からしたら、異世界の住人全員が美男美女に見えるけど。特に、あの二人は美女だと思う。こっちの世界で受けるかは知らないけど。
「まあ、入れ違いで済むなら、それでいいか。何かあった時が困るからな」
入れ違いが発生して、謎に少女二人に説教受けるなんて絵を想像した俺はどうなんだろ。やっぱり俺はマゾだった!?誰も興味ないか。
「なあ、こっちこいよ。楽しませてやるから」
「そうそう、気持ちいぞ?」
「金ならあるしな。ほら」
「ふんっ!」
おお。こうやって旅し始めて、こんなテンプレチンピラ初めてみた。そもそもが、こんな観光をしたことないから、一般人ですらほとんど初見なんだけども。
というか、よく魔王ちゃんキレないな。今まで見てきた感じだと、うざいと思ったらすぐにキレる感じだったのに。魔法は俺が厳重注意してたから使った事はないけど、すぐに暴力に走ってた。まあ痛くはないんだけどね。
まあ、そんな事あったからね。よく耐えれてるな、って感じの感想が出てくるよ。
と言いますか、ずっとこんな感じだったの?俺の待ってた時間、ずっとこんな感じでナンパされてたの?これをナンパと呼んでいいのかは知らないけど。
「ちょっとすみませんね、俺の連れが」
「なんだてめえ」
「いやあ。ちょっと目を離した隙に、すぐにどっか行っちゃうんでね。探したぞ」
「??」
「てめえみたいなのにはもったいねえな。俺達が楽しませるから、お前はもっと時間を潰しててもいいんだぞ?」
「そうだ。俺達が気持ちよくしてる間、お前も違う人を探せばいい」
えっとですね。一応言いますよ?俺、まだ第三者のままなんだけど。
見世物みたいな感じになってるのか、事が起こってる少し離れたところに、結構な人だかりができてた。そこを抜けるのに手こずってたら、先に誰かが来た。
そしてこれまた世辞にも、美男って感じじゃない。いや、格好いいじゃないだけで、顔のパーツ自体は整ってる。けど、なんか格好いいにならない不思議な顔をしてる。整形しても、カッコいいと言うより、なんか気持ち悪いって感じになるのと似てる気がする。
「これ、俺が出て言ったら、余計カオスになるよな。もうちょっと経過してから出ていく方が良い気がするんだけど、それだとあの二人に怒られそうだし」
けど絶対、俺が今出ていくのは悪手だろうな。だって、あの中だと、誰よりいまいちな顔してるし。
身長だって、まあ日本人の平均ぐらいしかないから。こっちと比べると、10センチぐらい違う。もちろん、こっちの世界の方が高い。
それに、謎の三角関係を作って、話をややこしくするとか御免だ。いやまあね。暴力になったら負けない自信はあるけど。魔法だったりスキルだったりが優秀すぎるから。近接強化とかもあるから。謎の回避スキルもあるから。殴り合いだったとしても、負ける事はおそらくない。おそらく。
けど、余計な面倒ごとを自分で起こして、厄介者扱いされるのも困るからな。
どうせだし、片方が良い感じにつぶれてからぐらいで行くか。漁夫の利だ。全く持って意味違うはずだけど。
「ほら。わかったらさっさと帰れ」
「てめえなんかより、俺達の方が気持ちよくさせられる。もうてめえは必要じゃねえんだよ」
なんでさっきから一名、欲望を隠せてないの?それに何でこの二人を痴女みたいな扱いしてんの?
「だから、俺は迎えに来ただけでしてね」
「なら、明日でいい。今から、俺達と遊ぶから」
「これ以上邪魔するってなら、力ずくで黙らせるぞ?」
「だから、本当に迎えに来ただけなんだけど。そこまで言うなら」
うん。もっと最初から出ていけばよかったと、今更ながら後悔してます。
だって、しょうがなくない?ああやって助けに行く人がいたんだし、俺が変に行けば、話がややこしくなるだけだったじゃん。
それに、出ていくって事は、考えがあるのかなぁ、って思うじゃん。力がないにしても、手を引いて逃げるとかするのかなぁ、って思うじゃん。
違うんだよ。なんか想像と違うんだよ。正義のヒーローは負けないって言うじゃん。それも、こんなチンピラAとかで分類されそうな、チュートリアルで出てくるような名前すらない敵で負けるとは思わないじゃん。
そうだよ。あの出て行った人、チンピラたちに負けたよ。あの出て行った人が弱かったのか、チンピラたちが強かったのかはわからないけど。俺だって能力はチートしてるけど、他の人が強いとか弱いとかの見極めはできないから。どっちが正しいかなんてわからないけど。
とにかく、あの二人を助けようとしてくれた人が負けたよ。それも、結構あっさりと。倒した張本人たちが一番びっくりしてるのも面白いけど。
「ちっ、こんなんなら出てくるなよ。人が来たらどうする」
「どうする、こいつ」
あの、既に人って結構いるんですけど。遠目からってつけないとだけど、だいぶ見てるよ、君たちの事。
「すみませんね。ちょっと通りますよ」
「なんだ、てめえ。今は機嫌が悪いん、だ!」
「おっと」
いきなり殴りかかってきたぞ、こいつ。
けど悲しいかな。俺は反応できないけど、スキルが優秀すぎた。そのパンチも、勝手に回避できる。本当にスキル様様だな。それがないと普通にパンチが当たってたし。
「てめえ、どうやって躱した?」
「それは、企業秘密って事で」
「馬鹿にするんじゃねえ!」
こいつら、頭悪いのか?自分の手の内を隠しただけで、馬鹿にしてると思うか、普通。
それに、秘密を暴露させたいなら、もっと状況を簡単にしないといけないだろ。俺に反論とか口答えさせれない状態にしてから聞くとかさ。まあ、そんなのできると思わないけど。今までの歴代魔王たちですらできないのに。こんなチンピラにそれができるなら、今までの魔王が可哀想だよ。
「君たち、今すぐ帰るなら、俺はどうともしない。警察?に突き付ける事もしないし、痛い目に合す事もない、っておい。せめて人の話ぐらい、落ち着いて聞けよ」
「うるせえ、てめえはここでボコボコにする」
「それか、今からパラシュート無しスカイダイビングするか。どっちがいい?」
「っるっせえ!」
「はっ!一人なのを後悔するんだな」
「はぁ~。ま、君たちが選んだ選択だし、俺が関与する事じゃねえか」
そういや、スカイダイビングの意味わかるのかな?知ってても知らなくても、説明するつもりはないけど。説明したところで、それを自慢できる状況にもならないだろうし。
「じゃ、ちょっとした空の旅を楽しんでね」
「何ほざいてや」
まず、衝撃吸収の魔法をかけてあげて。うん。試した事ないから、一応二回かけとく。
効果は文字通りだけど、衝撃を吸収してくれる。上限があるのか知らないけど、衝撃、殴られたりしても、その衝撃を殺してくれる。というか、回復する。俺は使い道なかったら、ほとんど使ってないけど。
次は、短距離転移で、この町の外の上空に移動させる。どのぐらい上空かは、あのチンピラたちしか理解してないんじゃないかな?
「ほれ、帰るぞ」
「遅い!遅いのじゃ!もっと早く迎えにこんか!それでも従者なのか!」
「説教は後にしてあげるから、早く帰るよ。それと俺は従者じゃない」
「うぅ、遅れたのは、申し訳ないのじゃ」
「私は一応、帰るよう促したのですよ?けど、まーっちゃんがどうしても見たいと言うので」
「言い訳は後で聞くから、帰るぞ。もう飯も冷めてるだろうけど、早くしてね?」
「「はい……」」
まあね、この子らが無事で何よりだけども。魔王ちゃんがいるから、暴力沙汰で負けるとは思わないけど、無時でよかったよ、本当。
どうやら俺は、これぐらいの量しか書けないようです。多分これからこのぐらいの文章量になると思います