一話
「そなたには、我々の国を、人間を救って頂ほしい」
「わかってます、いつもの事ですし」
「何を言っておる?そなたはたった今、呼び出しに応じたばかりではないか」
「いえ、こちらの話ですので」
もう何回目か、数えるのすら飽きた。長くて一年。短くて一週間も満たない時間。ずっと一日で解決できるのなら、数を数えるのは簡単だ。
少ないうちは覚えていられる。自分が何回寝て、何回起きたのかを覚えておけばいい。だが、そんな意味のない事を覚えるのは、無駄なだけだ。
「我々は、魔王の脅威にさらされている」
「そうですか」
「礼はする。国の財宝のすべて、はやめてほしいが、それを望むのなら検討しよう」
「いえ、金はいいです」
「なんと!」
何度も同じ光景を見た。こればっかりは俺が飽きても、ちゃんと聞かないといけない。いわば強制イベントだ。スッキプのできないイベント。まあ、俺はどうでもいい事だとしても、こっちの住人にとっては一大事なのだ。茶化すなんて失礼な事をしないのは常識だろう。
それに、金はあったところで使い道がない。ただの重くてかさばるだけの石だ。これが異世界共通ならありがたく頂くが、そんな都合のいい話にならない。
「では、何を求むと言うのか。まさか、この国を!?」
「では、冒険しても餓死しない程度の、食料を頂きたい」
「それだけでいいのか!?」
「それで十分です」
ありったけの金を貰うぐらいなら、この世界の魔王を倒すまでの食糧事情を解決できる方がありがたい。使い切れなくて、結局価値のない物になる金よりも、いつでも食べれる食料の方がありがたい。食料を確保するのにも大変な苦労があるのだ。
ただ、この選択は欠点がある。非常に面倒な欠点。
「そなた、聖人か何かなのか?」
「いえ、そんな大層な人間じゃないですけど」
「んー。そうか。とりあえず、そういう事にしておこう」
これだ。別に尊敬されるのが嫌なわけじゃないが、必要以上に感情を向けられるのは非常に困る。この世界から旅立つ時、悲しくなったりしてしまう。泣いたからと言って、召喚を拒絶できるわけでもない。
「あの、勇者さま。気を付けてくださいね」
「必ず」
だから、毎回毎回いる女王とか、姫さんとかとも関りを持ちたくない。どんな原因があるのか知らないけど、女王とか姫様とか美女が多い。これは異世界共通事項なのか?とにかく、別れが辛くならないためにも、極力関りたくない。
「本当なら、息子たちにも見送りさせるべきなのだろうが、すまないな」
「いえ、大丈夫です。仲良くなるつもりはないので。別れが辛くなるだけですし」
「そうだな。もし何かあったら、息子たちが悲しむ」
おそらく王様が考えてる事とはずれてるけど、わざわざ指摘するつもりはない。結局、結果は変わらないし。
「それでは、魔王がいる場所を教えていただきたい。それと、持ち運べる食料を」
そして、情が移らないためにも、さっさと仕事を終わらせる。そうすればまた別の世界で仕事が待ってるが、結末が変わらないならさっさとやって、心の平穏を保っていたい。
「それでは、必ず倒してきます」
「そなたの帰り、待っておる」
「……」
「何もできないのはもどかしいが。すまないな」
「大丈夫です。武器ならありますんで」
今までに、いくつもの世界に召喚されては、俗に言う『悪』を倒してきた。そのため、必要な武器防具はある。
それに、召喚特典なのかは知らないが、いくつものチートが授けられてる。その一つとして、聖剣や竜の鎧のような武具もある。それらが召喚されるたびに付与される。そのせいで最近はただの作業だ。
最初は心躍った異世界だったが、今じゃただ『勇者』と言うなの討伐屋だ。それでも特に問題ないのだが、やはり一番は召喚されすぎる事か。まだ『悪』を倒し終わるまで召喚されないのがせめてもの救いなのだろうが、それでも異世界を満喫する前に、違う異世界へと召喚されてしまう。
あとはこの繰り返しだ。本当なら、もっと自由に異世界を旅しながら、魔王討伐をしたい。けどそうすると、離れる時が辛くなる。最初はそんな感じだったのだが、今じゃ召喚されるのがわかっているので、そんな心に悪い事はしない。
「ふー。ようやく力を抜ける」
そしてあれは儀式みたいな物なので、できるだけ礼儀正しい感じを装っていた。あと、勇者は格好良かったって印象を与えられればなって思惑もあったりなかったり。
「それが勇者様の本当のお姿、ですか?」
「……。!?」
「うふふ、驚いていらっしゃるのですか?」
「え、……え?」
なんで王様の横にいた、恐らく姫様がここに居るわけ?
しかも今、国の外に出てき。そのため、検問所を通った。召喚された事は既に広まっていたのか、顔パスとはいかないけど、事情を話せばすぐに通してくれた。
いやそうじゃなくて。なんで姫様がいるかって話だ。もう一度言うけど、検問所だって通ったんだぞ?え?姫様がついてくるのって、王様が仕組んだ事なのか?
「私、抜け出してきちゃいました」
「抜け出してきちゃいました、じゃないだろ。あんた姫なんだろ?ただ事じゃすまなくなるだろ」
「大丈夫ですよ。姫だから」
「なんの説得にもならない理由をどうも」
こんな納得できな説得は珍しいよな。そしてこれが本気で通じると思ってるのが凄いわ。
「見送りどうもありがとう」
「いえいえ。そんな事より、まずは何処を目指すので?」
「なんで当たり前のようについてくる前提なのか教えて欲しい」
俺だって、好きで人から距離を取ってるわけじゃない。別れが辛くなるから。この世界にとどまっていたくなってしまうから。そういう強い感情を出さないためにも人を避けてたのだ。
俺だって、こんなよくある異世界物の展開は好きだよ。けど、そんな簡単な話じゃない。そんな、『好きだから』って理由だけで、後々自分を苦しめるってわかってる事をやりたくない。
それに、もし姫様に何かあったら、それこそ後悔でいっぱいになってしまう。何度でも言うけど、人を避けるのは苦しまないためであって、感情がないとかではない。
「それと、私の事は姫じゃなく、ソフィアとお呼びください」
「だから、早く帰りなよ。これは遊びじゃないんだろ?それは姫さんの方がわかってると思うんだが」
「ですから、ソフィアと呼んでください」
「じゃあ呼んだら自分の家に帰ってくれるのか?」
「それとこれとは話が別です」
こりゃだめだ。だめなのはわかってるけど、ここで引くわけにもいかないのが面倒なところだ。
もし仮に連れて行ったとして。魔王を倒した後、俺はおそらく違う世界から召喚されるだろう。けど姫様は残される。
そこに残ってる魔族たちが、姫様に八つ当たりとかをしない、なんて言いきれない。何せまだこの世界の魔族がどんな人なのかわかってないから。けど、そんなちょっとしたリスクだったとしても、無視する事はできない。
人って面白い生き物で、短い間だったとしても一緒に過ごす期間があれば、簡単に忘れる事ができなくなってしまう。その相手に一切の感情を残さないなら別だろうけど、俺はそんな特異な事はできない。召喚魔法に愛されるとか言う、特異な性質だってのに、感情を出さないって事はできない。
「なら、聞くけど。もう家に帰れないかもしれないんだぞ?家が好きか嫌いかなんて俺には関係ないけど、あんな大きな城だ。少なからず心残りがあるだろ。せめてそういった人間関係を清算するべきだ」
「知ってますよ?そんな善人みたいな事いって、私が帰ってる間に一人で勝手に行ってしまうのでしょう?」
「そういうつもりじゃなかったんだけど」
これは俺の経験だ。一番初めは浮かれてた。だって、異世界召喚なんて言う、わくわくが止まらない出来事があったんだ。
けど、半年ぐらい経ってようやく気付けた。簡単は話、ホームシックだ。それが同じ土地で起きてる出来事なら、帰ると言う選択も取れた。だが、そこは既に故郷とは全くの別の世界。帰る事ができない土地だ。そう思ったら、急激に悲しくなってきた。せめて、ちゃんと別れを言いたかった。
「それに、折角ここに勇気を出してきたのに、戻ってしまうと心が折れてしまう気がするのです」
「別にいいじゃないか。そっちの方が安全で、楽しい生活ができる」
「ですけど、勇者様一人に残酷な事を押し付けるのは違うと思うのです!これは私達の事情ですのに、全くの他人。それも、違う世界から人を呼び出して、『お前がすべてやってくれ』と言うのはおかしい事です!そんな事にはさせたくないのです!せめて、この旅は楽しかったと思えるようにしたいのです!」
「そ、」
向こうは折れる気がないだろうし。こんな場所で揉めて問題にでもなったら面倒だ。この後の面倒は、その時の俺に任せる。
「! 勇者様。私を連れて行ってくださるのですか?」
「俺はハル。卯月 春。ハルでいい、ソフィア」
「わかりました、ハル様!」
「いやだから、敬称とかいらないんだけど」
「それで、どこに向かうのですか、ハル様!」
あれだ。この子、人の話を聞かない子だ。ここまで押されて、負けたのは俺だし。負けたからには、最後までちゃんと面倒を見るつもりだけど。誰かを守りながら戦うって、どのぐらい難しいのか見当つかないけど、大丈夫か、俺。
「地図を貰えたからな。これはでかい。余計なMPはいらない」
「??」
「とにかく、魔王領を目指す。寄り道はなしの、最短距離で」
「えっ!ですけど、武器も無しに大丈夫なのですか?お城でも武器はあるから大丈夫とおっしゃっていましたけど、それはどういう事ですか?」
「後で説明するから、出発するぞ。急いでるわけじゃないけど、遅いよりは速い方がいいだろ。この国の人達にとっては、少なくとも」
魔王たちからしたら厄介極まりない事だろうな。そっちにまで同情したら、こんな仕事務まらないけど。
勇者をしてるのだ。少なくとも片方には非情にならないと、『悪』を倒すのなんて無理だ。そうやって自分の中で善悪を分けないと、心が壊れる。小説か漫画か何かで見た。誰かにとっての勇者は、誰かにとっての悪魔で悪。
「もう三日ですか。やはり旅と言うのは大変なんですね」
「まだ三日、な。別に俺はいいぞ?ここで引き返して、ソフィアを送り届けても。別に君が居なくても魔王を倒す事はできるから」
「もう!そんないけずな事言わないでくださいよ!」
「俺としちゃ、ソフィアがいた方が大変な思いをするんだよ。後々」
「大丈夫ですよ。足手纏いにならないようにしますから」
「そういう事じゃないんだけどなぁ」
正直、足手まといとかは気にしない。誰にだって発揮できる力と発揮できない力ってのはある。王様には政治とかを期待するけど、防衛とかの戦力としての期待はしない。そんな感じで、別にソフィアに戦闘で期待する事はない。
どちらかと言えば、気にしてるのはあとの事だ。
俺が次の世界に行った時だ。ソフィアが転移魔法とか、そういった種類の魔法を覚えてるとは思えない。だから、俺が次の世界に行けば、ソフィア一人だけで敵地に立つ事になる。そうなると八つ当たりだのなんだので、ソフィアが攻撃対象になるかもしれない。そんな事を考えてしまうと、次の仕事なんて手につかない。見に行って確認できればいいのだが、自由に異世界を行き来できる力なんてない。だからこその悩みだ。
「それで、何をしてるんですか?何もない場所に指を置いたりしてますけど。何かのまじないか何かです?」
「そうか。試した事なんてなかったからわからなかったけど、他人には見えないのか」
目の前には、ゲームとかでよくある、操作盤?みたいなのが出てる。UIって言うのか?詳しい事はよくわからんけど。とにかく、ゲームとかで見かけるあれだ。
そこで、魔法の確認をしていた。自分でも何を覚えているのか完全に把握してないが、それでも召喚されれば最低でも新しい魔法を一つ覚えてる。そして一応は試し打ちだってしてる。見ただけで危ないとわかるやつは使わないが。
「えっとだな。魔法の確認だな。何を覚えたのかの確認」
「どういう事ですか?」
「ん?どんな原理でそうなるのか知らないけど、召喚されれば新しい魔法を覚えるんだよ。で、役に立つ魔法なんだったら、使えるようにしときたいじゃん」
「そういう物なのですか?」
「そういう物なのですよ。っと、これは当たりか?」
魔法と言うより、スキルか?一定時間、透明になれる。うん。普通に強いと思うんだけど、正直今来られてもって感じだ。
例えるなら、先に全体蘇生魔法を覚えて、後で単体蘇生魔法を覚えた感じだ。ゲームだとMP効率とかあるから、そこまで残念って感じでもないだろうけど、俺って勇者だから。召喚を繰り返してるうちに、ステータスだって意味不明な状態になってる。何が平均なのか分からないから数値は割愛するけど。けどここまでMPがあれば、単体と全体の違いなんて誤差程度。
俺は前から、短距離なら瞬間移動できた。それと勇者補正なのか、説明よりも長めの距離を移動してくれる。国から国へ、って感じじゃ無理だけど、国の中なら好きなように移動できるって感じだ。それでも遠くに飛ぼうとするとMP消費が多くなるから、そんなに使う機会はないけど。
それに、一番初期にあった魔法、光。どっちかと言えば対アンデットとかの魔法なんだけど、流石は光とつくだけはあるのか。ちゃんと光を出すし、そこから工夫もできた。つまり何かと言えば、完全じゃないにしろ、姿を隠す事は出来る。
それに、変化もある。自在に姿を偽る事ができる。相手を騙すって言う点からすれば、透明化よりも優秀だったりもする。
「あ、これ。私も使えますよ」
「へー。ってか見えるの?」
「さっきから見えるようになってますよ。それで、透明になる魔法は、私の得意魔法なんです」
「それはそれは」
うん。日本にいた時なら大変喜ぶんだけどなぁ。なんか色々と世界を渡ってると、感情の起伏が少なくなったと言うか。思ってる以上に、嬉しいとか悲しいって感情が出てこなくなった。
「それ、絶対に俺の前で使うなよ?」
「大丈夫ですよ。いたずらでもしない限り、使わないですよ」
「いや使ったらカウンターが飛んでいくから。ソフィアがどこまで強いなんて知らないけど、このカウンター異常な威力してるから。下手しなくても死ぬから」
「わ、わかったです」
「言葉、おかしくなってるよ」
「いや、ハル様からの威圧が凄かったので」
「そりゃすまん」
この魔法の使い道って何?暗殺とか隠密の時なら重宝されそうだけど。後は、侵入する時か?どこに、とは言わないけど。
それに、自慢ってわけじゃないけど、俺ぐらいの強さなら魔法をぶっ放す方が効率がいいし。その方が勇者っぽい圧倒の仕方だし。
「ほら。休憩も終わりだ。出発するぞ」
「もうちょっと休憩してもばちなんて当たりませんよ」
「君は自分の事なんだから、もっと焦ろう、な?」
「それもそうですね」
魔王の脅威脅威って言ってるけど、見た感じでは結構安全。あの国だと、活気も結構あった。俺には心を読むとかできないけど、どこか無理して活気を出してる感じはあったけど、見た感じは結構平和そうだった。だからそこまで危機感は感じてないのかもしれないけど。
「あとどのぐらいなんですか?」
「疲れたんなら、もう帰りな。俺は最後まで面倒見れないし。ずっと言ってるだろ。どうせまた呼び出されるから、ソフィアの面倒は途中で見れなくなるんだって」
「大丈夫ですよ。私だって、そこまで考え無しじゃないです」
そう思えないから言ってるんだけど。俺が気にしすぎなのか?てかここまで忠告するなら、もっと最初から置いて行ったらよかった。ここまで来たからにはちゃんとするつもりだけど。
「ようやくここまで来ましたね」
「今回は早い方だけど」
一週間ぐらいで着ける距離でよかった。最長一年ちょっとの旅もあった。そう考えれば短いだろう。長くなる方が愛着が湧く、とかでもないけど。ほとんど一か所に留まる事はないし。それでも長く旅してる方が召喚される時に悲しい気持ちにはなる。
「それで、どうやって行くんですか?やっぱり、魔法ですか?」
「そうだな。俺の魔法な。それも透明じゃなくて、変化な。透明の方が効率が悪いし、常に魔法をかけなおさないといけない。そんな隙を見つけられたら誤魔化しようがないからな。最初の敵にはちょっと眠ってもらうけど」
変化をするにも、一回目はちゃんと見本が欲しい。世界が違えば、もちろん人とかの特徴も変わってくる。身長が2メートルぐらいが平均だって事もあるし、逆に150ぐらいの時だってあった。
まだ人間は違いが少ないけど、魔族とかになれば違いが大きい。ただ肌の色が濃いだけだったり、角や翼があったり。
「うーん。ついてくる?」
「もちろんです!と言うか、ここに置いていく方があぶないですよ」
「わかってるならついてこないでよ。ここまで」
「それはそれです!」
この子、やっぱり人の話聞かないよね。姫って我儘って決まってるの?
「じゃ、できる限り声を出すなよ。それと魔法は絶対に使うなよ。カウンターでバレるとか絶対にやだから」
「大丈夫ですって。そんなドジはしません」
「頼むぞ。振りとかじゃなくて、マジでするなよ」
集中とかじゃなくて、俺のカウンターって派手すぎるから。電気ビリビリ―って言葉で言えばかわいらしい物だけども、音とかもおかしい。何か爆音聞こえるんだもん。鼓膜破れるんじゃないかってぐらいには。
「なあおっちゃん。ちょっと話を聞きたいんだけど」
「なんだ?この辺りには人なんて住んでないはずだけど。旅人かなんかか?」
「ま、そういう物っすね」
「今は勇者が呼ばれたとかで危険だから、旅とかやめ、と……け?」
「すまんけど、ちょっと眠ってくれ」
「に、人んどぅ」
ちょっと強引に寝てもらった。うん。いい見本を手に入れれた。
「それじゃ、行くか」
「ちょ、ちょっと。この方はどうするのですか」
「俺が気にする事じゃないけど、君が気にする事でもないぞ?今から倒しに行く種族だぞ?そんなに気になるか?」
「それとこれとは違いますよ。そりゃ、私達は魔王を倒しに来てますけど……」
「ま、大丈夫だって。この辺りにはモンスターもいないし。それに俺の魔法って、何も攻撃だけってわけじゃないからな」
説明は難しいけど、ちょっとした幻術と言うか、嗅覚とかを利用して、ここには意識してるわけじゃないけど、なんとなく避けないといけない気持ちにさせる。ちゃんと安全。おそらく。動物とかも特徴って変わるから、ちゃんと機能してくれるとも限らないけど。
「ソフィアは優しいんだな」
「そ、そうですか?」
「そうだな。この役職には向いてない」
「そうですか?私から見たら、ハル様も優しいと思いますけど」
俺は優しいってより、ほとんど喜怒哀楽を出さないからな。結果的に優しく見えてるだけなんじゃねえの?
それに、やってる事は一切優しさなんてないし。
「じゃ行くぞ。これがバレないって確証もないんだ。長居する意味なんてないんだし、さっさと終わらせて、重荷から解放されたいんだ」
「わかりましたよ」
「本当なら置いていきたいんだけどな。それはそれで危険だからな。なるべく離れるなよ。守れなくなる」
「はい……」
うーん。やっぱり俺が召喚された後の事を考えるべきか?でも俺にできる事なんてほとんどないし。考えたところで何もできないだろうし。
やっぱり、魔王の住む城ってのは豪華って相場が決まってるのか?ゲームとかでしか知らないけど、やっぱり豪華なんだよ。トラップとかはないけど、十分ゲームで出てきても不思議じゃないぐらいには豪華で綺麗な城してる。
「いいか?今からは、透明になって潜入する」
「でもそれだと、危険だとかじゃ言ってたのはハル様じゃないですか」
「大丈夫。この程度の距離だと、魔法が解ける事はない。それに、魔族の姿だからと言って、城の中を部外者がうろつくのは危険だ。より確実な方を選ぶだけだ」
「そうですか」
前なら短距離移動で、魔王の前に移動したけど。実験も無しでソフィアを一緒に連れていくってのは危険すぎる。
「一応聞いておくけど、透明になった者同士って見えたりするのか?」
「わかりません。私以外はほとんど使えませんでしたし、使えたとしても一緒に使うなんて場面はないですからね」
「それもそうだな。じゃ、手握るから。よっぽどじゃなければ、入れ替わるとかないと思うんで」
一回あったんだよな。自分の位置と他人の位置を入れ替えるって魔法。それを使えたら便利なんだろなって思う反面、仲間とかもいないから使い道がないとも思った。
一回しかなかったけど、もうないってわけじゃない。警戒するに越したことはない。透明なまま入れ替われるんだったら、警戒とか意味ないけど。
「結局そんな罠はなかったな」
「えっと。これから私はどうすれば」
「もっと前から、このぐらい聞き分けが良ければなぁ。そうだな。別にどうにもしなくていい。強いていうなら、慌てるな。冷静さを失って、荒れるとかしないでくれよ」
「き、気を付けます」
別にそこまで過激な事をするつもりはないけど、問題の解決で一番簡単なのが殺す事だ。と言うか、俺の手段のほとんどがそれしかない。さっきのあの人は殺す必要が無かったから殺さなかっただけで。わかりやすく人間に敵対を示すなら、殺すしかない。生かしておいたら、また脅威にさらされるかもしれないし。
そして、姫様が殺す現場を見て冷静にいてられるとは思えない。だから一応警告しておいた。警告しても無理なものは無理だけど。
「よく来たな、勇者よ。我を殺しに来たか?」
「応答しだいだな。俺だって、好きで殺しをしてるわけじゃない」
「ほう、話のわかる奴じゃないか。そうだな?我の仲間にならないか?」
「質問は俺がする。お前の質問は興味ない。興味があるのは答えだけだ。それ次第ではお前を殺す」
「貴様。この我を馬鹿にするのか?」
「お前は人間の事をどう思う?ただの低俗種か?ただの制圧するための土地を作ってるだけの種族か?」
「はっ!人間など、ただの雑魚だ。ただ数が多いだけの雑種だ」
「そうか。答えてくれてありがとう。そしてさようならだな」
短距離転移は任意の場所に出る事ができる。なら出るところは決まってる。
「なあ、何処見てんだ、魔王さんよ。お前が言った、数が多いだけの雑魚を見失うのは、偉大な王としてはどうなんだ?」
「貴様ぁ!」
「叫ぶ暇あるなら、さっさと攻撃すればいいのに」
光魔法は、対アンデットのほかに、魔族にも効果を発揮する。それはもう効果抜群だ。
それをどこかで手に入れた聖剣に纏わせる。聖剣もよくわからないけど、こういった『悪』に対して効果が抜群だ。
それに何故だか俺は筋力とか魔力とかも化け物みたな強さになってる。何が一番怖いって、見た目には全く反映されない事だ。
「さ。王は死んだ。別に俺はお前達を殺すつもりはない。どうするんだ?まだ戦うか?」
「へ、陛下!」
「貴様、よくも」
「はぁ。しょうがないか。王を殺されて、まともな思考してる方が異常か」
面倒なので、光魔法を全体に使用する。威力はそこそこだけど、見栄えと範囲が凄い。人間相手だとただの目くらましにしかならないけど、魔族相手だとそれだけでも致命傷になりかねない。
「ソフィア、いるか?無事か?」
「はい、大丈夫ですけど。その、ハル様の方こそ大丈夫なのですか?」
「ん?俺は見た通り無傷だけど」
「そうではなく」
「もう来たか」
足元に光が出た。光が強いから見にくいけど、ちゃんと魔法陣も浮かび上がってる。
「しばらくは安全だろうけど、さっきの攻撃と、今のこれのせいで応援が来るだろうからな。できるなら今すぐ魔法を使って逃げるべきだ」
「えっと、どういう事ですか?」
「言ってただろ?俺は召喚されて魔王、と言うか『悪』を倒せば、次の召喚がくる。だからちゃんと守る事もできなかったけど、それはすまんな」
けど、ちょっとした時間を稼げてよかった。これでちゃんと逃げれるかな?
「それと、色々と気にかけてくれてありがとな」
「え?」
「それじゃ」
次はどんな国だろ。というか、いつになったら召喚されなくなるんだろ。
どうも。おそらく初めまして。この作品を読んでいただきありがとうございます。
今回はどちらかと言えば真面目な感じですけど、これからはギャグ要素を沢山入れたいと思ってます。皆さんにどのぐらいウケるかはわからないですけど、なるべく楽しめるような作品にしますので、どうか次の話も読んでください。