プロローグ 一戦
「あああああ!めんどくせえええええええええええ!」
爆発音が響き渡る広大な更地。そこに、悲鳴に近い男の絶叫が響き渡る。
「何でこんなにも湧いてやがるんだよ!誰だよこんなんになるまで放置したやつ!」
声の持ち主の男はそう言いながらも、宙に指先で光の円を描き続ける。
描かれた光の円は、次第に内側が歪み、内部に魔法陣を描いた。
すると、その魔法陣は強い光を帯び始め、弧を描くように鋭い赤色の光線を放った。
『ピギャッ.....』
光は、広大な更地を埋め尽くさんばかりに蠢いていた巨大な芋虫達に直撃し、一瞬の断末魔の後、一瞬にして灰へと変わった。
そして、その余波を浴びた芋虫達は体内の水分が蒸発し、緑色の肉を撒き散らし、爆発した。
その魔法陣が、彼の周りには36。
時間差で放たれた色とりどり光線は、彼の周り数十メートルを焼き、凍らせ、切り裂いた。
『ピギャアアアアア!!』
移動能力が低い芋虫達は避けることができず、直撃し、甲高い断末魔の声を上げる。
だが、それもまだまだいる芋虫に対しては焼け石に水。
男はむせ返るような異臭に顔を歪め、上を見上げた。
「おいまだか!早くしねぇと俺が蛹になりそうなのを潰すより先に蛹になるぞ!」
「うるさいわね!今集中してるのよ!話しかければかけるほど、発動が遅くなるのよ!」
男が声を投げた先、30メートル上空に浮かび、頭上に無数の円を描く少女がいた。
少女は浴びせかけられた罵声に腹を立て、負けじと言い返すが、その顔には大粒の汗が滲んでいる。
「第8系統魔法同種20並列発動ぐらいでガタガタ言ってんじゃねぇ!大規模魔法だろうがなんだろうが敵は待っちゃくれねぇぞ!」
「知ってるわよそれぐらい!」
少女の悲痛な叫びが聞こえてくるが男は無視し、靴に素早く円を描く。
両足に描いた男はぐっ、と力を入れると、目にも留まらぬスピードで加速し、秒にも満たないうちに数十メートル先に移動した。
「そろそろやべぇな」
だんだんと色が変わってきている芋虫を前に、男は顔を歪める。
すぐさま頭上に大きめの円を描くと、それを掌で上に押した。
円は魔法陣を描きながら、その範囲を広げつつ上へと上昇する。
そして、半径20メートルほどの大きさまで広がり、少女が浮かんでいるほどの高さまで上昇すると、青色の光を放ち始めた。
「【死地の氷雨】」
男は間髪入れず、上げた掌を振り下ろした。
それに合わせ、魔法陣は青色の光を強め、無数の雫を降らせる。
『ピッピギャアアアアアアアアア!!』
雫に触れた芋虫達は、醜い断末魔を上げ、氷像となっていく。
抵抗しようと、最後の力を振り絞って飛びかかろうとする個体もいたがそれよりも早く凍てつき、自ら加えた力によって砕け散った。
「ちっ、もう出てきやがったか」
だが、男は何かに気がついたのか、舌打ちをして今までのよりも大きい、顔の大きさほどの円を描き、そこに右手を突っ込んだ。
すると、ふわっと魔法陣が粒子状に散らばり、形取って男の手に収まる。
少しも経たないうちに、粒子はパンっと弾け、その手に残ったのは漆黒の剣だった。
男はその剣で、夥しい芋虫の氷像の中にあった何かを引っ掛け、そして宙へ放り投げた。
それは、他の芋虫とは違い、茶色の硬質な表皮で覆われていた。
その表皮は、凍てつきながらも壊れることなく、鋭い金属光沢を放っていた。
男は落ちてくるタイミングを見計らい、左手で大きな円を描き、無色の魔法陣を展開する。
そして、落ちてきたものがそこに触れるのに合わせて、剣を八度振るった。
瞬間、放たれたのは黒い炎の斬撃。
8つの斬撃は落ちてきたものを焼き、そして切り裂いた。
「蛹がもう出てるぞ!急げ!ここで『羽化』したら手がつけれねぇ!」
手にしていた剣が粒子になって弾けると、男は再度、宙に浮いている少女に声を投げる。
「もういけるわ!」
「よし!いけ!」
その返事を聞き、またもや靴に円を描き、グッと力を込めた。
先程より強い光が放たれると、男は跳躍した。
次の瞬間、空全体に金色の巨大な魔法陣が描かれた。
その数、20。
「【蒼穹の神罰】!」
少女は天に向けた手を、振り下ろした。
バァァァァァアアアン!
魔法陣から放たれた無数の雷は、一瞬にして地面に落ち、無数に蠢く芋虫達を包み込んだ。
「馬鹿野郎!」
だが、少女の隣まで飛んできた男はそんな彼女に罵声を浴びせかけた。
「電撃に耐性待ってるアゲハチョウにその【魔法】ぶつけても意味ねぇだろ!」
「あっ、しまった!」
男にそう言われ、少女ははっとした表情を浮かべた。
だが、後悔しても遅い。
『ピィィイイイイイイイ!』
雷をその身に受けた芋虫達は、無傷だった。
そして、少女と男に向け糸を吐き出した。
「何やってんだよ全く.....」
男はすぐさま空を蹴り、糸を避け、芋虫を潰しながら着地した。
着地した男は、もう既にほとんど茶色に染まっている芋虫を見て盛大に顔を歪めた。
「あんまり使いたくはねぇが、仕方ねぇ」
男はそう呟くと、下向きに大きめの円を描き、その中に一回り、二回りと小さい円を描く。
そして、三重の魔法陣が描かれると、男は拳を叩きつけた。
「【巨人の鉄槌】」
魔法陣を通して叩きつけた拳は地面に接触し、そこを中心に半径500メートルほどの巨大な緑の魔法陣が描かれる。
『ピッ......』
バァァァァァアアアン!
瞬間、魔法陣が描かれた地面が地響きを伴い、陥没した。
危機を察した芋虫も、できなかった芋虫も、範囲内の芋虫は例外なく押し潰され、束の間の断末魔すら上げることができず、地面の染みとなった。
「ようやく終わったか」
男は、更地を見渡すと、はぁ、と溜息を吐いた。
まだまだ拙いところも多いですが、温かい目で見守ってくだされば幸いです。
不定期更新が、よろしくおねがいします