表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の手《マジックハンド》  作者: 青月 地蔵
1章 発現
3/18

発現 3

俺は台所まで行くと、まず炊飯ジャーを開いた。

保温状態でそのまま食べられそうだ。

(あとはおかずだが……)と近くの冷蔵庫を開ける。中には、夕飯の残り物、青椒肉絲がラップされて入っていた。

それを手に取り、電子レンジで加熱する。

そしてコンロに置かれていた手鍋に入っている卵スープを暖めながら、壁掛け時計を見る。

短針が三の数字を指していた。

(あーもう3時か。そろそろ寝ないと明日キツいな)時間を確認したばっかりになんとも言えない倦怠感が体を襲う。

ぐぐっと体を伸ばし軽くストレッチをしていると、突然リビングのドアが開く。

「なにしてんの? 」と聞きなれた声の主、すなわち俺の母さん―――真九呑地 葉羽(マクノミチ ヨウハ)―――は寝ぼけ眼をこちらに向ける。

「い、いや夜食にでもと思って。……もしかして起こした? だとしたらごめん」

(いつも起きないのになんでこう間の悪い……)

突然の登場に俺は驚くが、出来るだけ平静を保つように心掛ける。

「んーん、喉乾いたから起きただけ」ふわぁと欠伸をしながら冷蔵庫の方へ向かい、中からお茶を取り出すと小さいコップに入れる。

それを一息に飲み干すと、「こんな時間まで起きてたら明日辛いよ」と俺に忠告して、おやすみと言いながらリビングへと戻っていった。

いや正確にはそのリビングを挟んだ奥にある寝室にだ。

そうして台所はまた静けさが取り戻された。

母さんと話している間にレンジは仕事を終わらせていたようだ。

そのまま俺はスープを見に行き、程よく暖まっているのを確認する。

火を止め、白飯、青椒肉絲、卵スープと器に装い盆に載せる。

魔法の手で盆を浮かせながら、俺は二階へと戻る事にした。


ドアノブを捻り中に入ると豆丘さんは机に座り、漫画とにらめっこしていた。

「とりあえず持ってきたよ」

俺がそう言うと此方を振り返り「ごめんね、ありがとう」と漫画を閉じ、盆を取りに来る。

「あ、それが刃君の超能力チカラ? 」

と盆を持たせている2つの手首を不思議そうに見る。

「……まあそんなところだよ」

(やっぱ2つとかってなると見えるのか。外じゃ使えるのは1つだけだな)

「んー、さっきは3つあったように見えたけど……」

そう言いながら盆を取ると机に置き、備え付きの椅子に座った。

そして「あの……頂いてもいい? 」こちらを恐る恐る見ながら彼女は訪ねる。

「どうぞ」

「頂きます」と豆丘さんは手を軽く合わせ、青椒肉絲を口に運んだ。

猛禽類の足を思わせる尖った指で器用に箸を持ち、もぐもぐと口を動かしている様子を、俺がぼんやりと眺めていると、ごくりと飲み込み「これ、凄く美味しいね」豆丘さんは此方をキラキラとした眼で見てきた。

その視線でなんとなく気恥ずかしくなって、「ふ……普通だよ普通」と顔を背ける。

「私の食べてた物と違って食感も良いし、味もしっかりしてる」本当にお気に召したようで箸が休むことなく、盆の上をせわしなく動いていた。

「……いつもなに食べてたの? 」

「なんか良く分かんない、パサパサしたブロックみたいなのと水とかだったよ」

「……へぇ」

なんか少なくとも、まともな人間と暮らしてたわけじゃないみたいだな。

豆丘さんは一体どこから逃げ出してきたんだ……?


「御馳走様でした」彼女が静かに手を合わせ、呟く。

皿の中身は綺麗さっぱり無くなっていた。

「食べ終わった? 」敷き布団を敷きながら彼は言う。

「うん。本当にありがとう」

「良いよ気にしなくて」欠伸をしながら枕を布団の頭元にぽふっと放り、机の方へと向く。

「盆片付けてくるから先寝てて良いよ」

そして親指を敷いた布団へ指差した。 

「……もしかしてい、一緒に寝るの? 」顔を赤らめながら彼をちらちらと見る。

ぶふっと吹き出し「ち、違う違う! 」手を左右にと振り否定する。

「……で、でもそうしないと寝れないよ? 」

「いやいや、ほら俺は椅子にでも座って寝るから、気にしないで良いって」

「じ、じゃあ私が椅子に座って寝るよ」

「いいからいいから」と彼女を布団の縁に座らせ、「じゃあおやすみ」と盆を持ち、彼は下へ降りていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ