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陽元日記  作者: サツマイモ
解答というか、解説というか、ネタばらし
99/99

98日目:後日談

それから。


あの装置からの脱出に成功したあたしは、妹の葬式で一度だけ開発助手の久郷一風さんと、シナリオライターの笹指静さんと話した。


周りからは「可哀想に。残念だわ」とか言われたが、この二人はあたしに対して、「よく頑張った」と言ってくれた。今までの我慢が砕けたかのようで、あたしは嬉しくなった。


「それにしても、彼女は本当にすごい人だったよ」


一風さんは、空を見上げつつ、そう呟いた。


空は、あの日と同じ快晴だ。

その空は、妹がこれからのあたしにエールを送っているようで、たまらず笑みがこぼれる。


「まあ、神様ってのは平等ですからね」


静さんの一言に、あたしは、そして一風さんはぽかんとした。


「どういうことですか?」


あたしの質問に、髪をかき上げながら答えた。かき上げるほどの長さは有していないと思うが、それでも彼女はそうして答えた。


「平等、じゃなくて、公平?かな。数学だとそういうの答えやすいんだけどな」


うーんと唸り、彼女は一息つく。先ほど買ったであろう缶コーヒーを飲み切って、投げ捨てた。


「つまり、イコールだってこと」

イコール。つまり、等しい。


「簡単に、ざっくりと式に当てはめるとしたら、寿命×才能=1みたいな。ああ、1っていうのは、特別な意味はないけどね」


才能があればあるほど、寿命が短くなる。才能がなければないほど、寿命は長い。


「……なんだか、前者は納得できるけど、後者はなんだかね」


一風さんは、胸ポケットから煙草を取り出しながら、感想を述べる。


「寿命が長ければ長いほど、努力できる時間が長いってことでしょ?」


静さんは、空を見上げてからこちらに視線を動かし、


「だったら、さっきの式に当てはめるなら、寿命=努力時間で、努力時間×才能=1ってことになるでしょ」

と、ニカっと笑いながら言った。


「……相変わらず、ぎりぎりのところで何言ってるか分からないですね」


一風さんはため息を吐く。


「……まあでも、才能がある人の方が、生き急いでいる感じはしますよね」

あたしは、妹のことを思い出しつつ、頷くように呟いた。


「……」


三人の間に、沈黙が流れる。


それぞれが、それぞれの思い出に浸っているのだろう。


科学技術の、開発者と助手。

新企画の、プロデューサーとクリエイター。

一般家庭の、姉と妹。


思うところは、各々にあって、各々が違う。


「俺たち凡人は、天才を社会の中に生かし続けないといけないんだよなぁ」


一風さんは、たばこの吸い殻をしっかりとあらかじめ用意していた箱に捨てた。


「私達も、天才の人生に見合った、努力をしないといけないのでしょうか。天才の人生とイコールになるような努力を、積まないといけないのでしょうか」


あたしの質問を、静さんは勢いのある笑いでかっ飛ばした。


「ハハッ。しなくていいんだよ、そんなもんは。みんなが皆堕落するってことは、この世界にはないんだよ。だから、一人くらい力抜いてもいいのさ。引きこもろうが何だろうが、社会っていうのはすぐに置いていくんだ。社会にしがみつこうとしていたら、絶対に振り下ろされる。どうしてか分かるか?」

「……さあ」

「社会、常識。そう言ったものは、全部平均値だからさ。天才も含めた全員の平均値。だから、私達凡人は、絶対どこかで足をすくわれる」

「……じゃあ、どうすればいいんですか?」

答えたのは、静さんではなく、一風さんだった。


「だから、追いつかなくていい。自分のペースで進めばいい。無戦姫のように。戦わず、成長せずで、生きればいいってこと。それくらいの心意気で、良いんだってことでしょ?静さん」

「ざっつらいと」

一風さんに指をさす静さん。


「君も、君だけの人生を歩むといいよ。行って帰ってこなくてもいい。生きっぱなしでも構わない。助けに行かなくたっていい。取りに行かなくたっていい。楽しい世界と楽な世界。住みたい世界はどっちかなってことよ」


楽しい世界と、楽な世界。

あたしの選択は。

迷うことなく、あたしはこちらを選ぶ。


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