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陽元日記  作者: サツマイモ
解答というか、解説というか、ネタばらし
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97/99

96日目:久々の再会と、最後のクエスチョン

そうだった。


あたしが、いつも平常心でいられたのは、彼の存在があったからだ。

小さいころから才能の差を見せつけられたあたしだって、少しぐれそうなときはあった。しかし、彼はそんなあたしを見て、いつも話しかけてくれたのだ。


何気ない会話から、他愛ない会話まで。


もちろん、彼はあたしだけを助けるなんてことはしない。


いつもクラス委員長に鎮座しては、妹の面倒を見ていた。妹は、学問以外は全く以て何もできないのだ。当然、そんな奴にはいじめの対象になる。


しかし、彼はそうなるたびに、仲裁に入った。


時に暴力が混ざることはあっても、彼が手を出すことは無かった。

おかげで、彼はいつもぼろぼろで、その看病はあたしがしていた。


ったく、面倒な野郎だったぜ。


そんな彼に、妹は恋をしていたのだ。


不器用な妹のことだ。上手くはできない。

彼もまた、そのことを知っていた。


だから、告白は彼の方からしたはずだ。

高校卒業したら、結婚する。


そんな話まで聞いていた。

そんな矢先のことだったのだ。



「なあ、色々説明してくれよ」

あたしが、いつもの調子で訊くと、こいつもいつもの調子で返してきた。


「それよりさ、あそこのアイスクリーム屋なんだけど」

「アイスクリームの話はしていない」

「え、じゃあハンドクリームの話だっけ? 日焼けとか、女子は大変なんだろう?」

「その話もしていないし、ハンドクリームをあたしは持っていない」

「え、持ってないの? あのアイスクリーム屋で売ってたよ」

「だから要らねえってば」

「そっか、じゃあ何の話だっけ? ハンドボールだっけ?」

「お前、聞く気ないよな」

「いやいや、あるあるって、あるよ。大丈夫だよ」

「じゃあ、早く話せよ」


隣で、妹は微笑んでいた。天使にも見える、儚げな笑顔だ。


「もう。君は本当に答えをすぐに訊こうとするんだから。まどろっこしいことも、時には必要だって覚えてほしいな」

「そんな世界を望んでいない」

「僕は、臨むしかないって言ってるんだよ」

「とーにーかーくー?」

「分かったよ。答えるよ」


そう言うと、彼は左手を妹の方へと伸ばし、「君が出会った4人の子たちと」、態勢を変えてあたしの方を向き、「君が知った七人の守り人は」と言ったのち、元の体制へ戻り、

「僕なんです」

と言ってのけた。


「……いやいや、嘘はいいから」

「おいおい、嘘とはなんだ。本当だってば」

「だって、そんな、へ?」


「言ったでしょ?5年だったか6年だったかの時に、『君たち姉妹のことは、何があっても僕が守るから』って。だから、毎度のように手伝っていたんだよ。君が生きて帰ってこれるように。奇跡を起こせるように」


そう言うと、彼はふうっとため息を吐いた。


「ま、それはできなかったんだけどな。さすが、姉妹だよね。僕が何の小細工もせずに、記憶を取り戻すところまで来たんだから」

「小細工?」


あたしらは、同時に首を傾げた。


「さきちゃんの方はさ、記憶改変コードを抜いたんだよ。だから、戻ったってわけ。僕の方は、教授―お父さんの目を盗んで、記憶改変なしで入ってきちゃった」

「そうだったんだ」


……こいつは、確かに理系だった。

この研究所で働いていることは知らなかったけれど。

そうだったんだ。


「そうだよ。だから、何度もチャンスがあってさ。何度もチャレンジしたのに。たった一回で成功させちゃうんだもんなぁ。さすが、姉妹だよ。ほんと、ヒーローになりたかったのにな。救世主とかに、なりたかったのにな。カッコわりい」


背中をそって、後ろの海を見る彼に、妹は微笑んだ。


「ありがとう」

その一言は、彼に届かなかったのかは定かではない。

ただ、黙ったままだった。


「あのさ、」

彼は、視線をこちらに戻さない。


「お前の寿命、あと30分って言ったら怒る?」

……。

心臓が逆流したかのように痛い。吐き気さえ感じている。

あと、30分?

あと、30分?! 


「ちょっと、どういうことだよ、それ」


彼は、声を震わせながら答える。

「お前、本当は2年ちょっと前に死んでたはずなんだ。でもさ、僕は諦めきれなかったんだ。だってそうだろ?守ってやるって言ったのに。こんな終わり方ってないだろ?だから、僕は教授と共に、この機械を完成させた。でも、結果は散々だった」


一息つき、続けた。

「機械にも、限界が来るんだよ。永遠稼働はできない。この装置は、もうぼろぼろだ。君を一人生かすだけで、精一杯だったんだ」


彼は、続ける。視線を戻すことなく。

「あと30分で、君はこの装置ごと、死を迎える。そして、このままだと、僕や姉も一緒にこの世界に閉じ込められる」


続ける。視線を戻さず、力強い声で。

「どうする。僕はどっちでも構わない。君が僕らと生きていたいというなら、この世界に閉じ込められても構わない。君が決めてくれ」


ゆっくりと態勢を戻し、そして、まっすぐな瞳で、彼は伝える。

「君の電源を、外してもいいか?」


その質問に、即答などできるはずもなかった。


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