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陽元日記  作者: サツマイモ
無戦姫の一生
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89日目:真相直前

「ご両親とは、」


私は、なんとなくこの重い空気を、重い思い出を消し去りたくて、香湖さんに問いかけました。


「ご両親とは、仲が良いの?」

「……そうですね」


辺りを見渡し、答えづらそうにしながらも、言葉を選択して、文章を選別して、彼女は質問に答えてくれました。


「概ねは、良いです」


「そうか。じゃあ、壊すようなことは、できないね」

「……でも、壊さないと、成長できないものもあると、私は思うんです。いつまでも、さなぎのままではだめなような、そんな気がするんです」


彼女の目は鋭く、私を見つめます。それはもはや、見つめるを通り越して、目で殺すような、そんな眼でした。


……彼女が、はたしてそんな眼をするでしょうか。

疑わしい。おかしい。何かが違う。何かが狂っている。


考えます。考えます。考えます。考えます。

熟考して、思考して、考想して、想像して。


怪しい。妖しい。妖しい?


……答えは、ノーです。


「やっぱり、あなたですか」


先ほどからのブルーな感覚。嫌な思い出。消したい過去。過ぎ去ったはずの事実。忘れたい現実。捨てたい真実。

思い出させるのは、こいつだけ。


「……バレちゃいましたか。どうもお久しぶりです。必路五雲(ひつじ いづも)です」


里浜香湖さんに扮していた謎の存在は、ひっそりとした声でそう言いました。


必路五雲。

ウロボロスの、友人。

この世界の、案内人。


「……結局、あなたは何者なんですか?」


具体的に何かされたわけでもなく、実害どころか被害すらまともに受けていませんが、この人は、敵のような気がしてならないのです。

戦わなければならないような。


「だから、私は案内人ですよ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもありません。ウロボロス自体は、彼女―笹指静に奪われてしまいましたし、主導権はカエデ・クーゴに持っていかれてしまいましたけれどね。私が産まれたのは、あなたにだけなんです」

「……いつから、入れ替わっていた?」


態勢を変えず、私は睨みつけます。

はぁ、と言わんばかりの態度に、嫌気がさします。


「いつからと訊かれれば、そうですね。送迎された時ですかね」

「……今、彼女はどこにいる?」

「どこだと思います?」

「……どうしたら、答えてくれる?」

「成長、してくれたら」

「……どうして、みんな、そうやって」

成長ばかりを求めてくるのでしょうか。

とっくのとうに、未来は決まっているのに。

能力の差があって、位の差があるのに。


どうして、成長することが良いことだとばかり言うのでしょうか。


「逆に、私は問いたいんですけどね。この元の世界の99%が、いやあなた以外が成長するということを素晴らしいことだとしています。私としては、別にどっちでもいいんですけど。あなたが、それほどまでに成長を拒む理由が、私にはわかりかねるのですよ。家事も勉強もスポーツもできないと、嫌われるどころか、生きていくことすら不可能じゃないですか?」


何度か死んで、幾度か生きて、いろんな世界を旅して、回って、たどり着いた私という名の存在。境地。極致。この旅は、如何に私が愚かで、自己中心的なのかを知る旅だったのだ。


私は、何かが外れた。

私の中の、何かが外れた。


ピキッと、亀裂が入り。パリッと割れた。

ガシャンと砕け、皮が破れた。

そうか、私は。


「だいたい、全てがあなた中心に回っているのも不思議に感じていたんですよね。だって、ウロボロスがあんなに露見することないんですよ?棚倉の件も、奥塚の件も、大曲の件も、なあなあにして、じれったくて出てくるとか、まるであなたの手の中で転がされているようでしたよ。そもそも、こういうことにならずに、大抵の人は一度目の世界で成長するんですよ。剣の世界とか、トラックに惹かれかけた少年とか、間違えて神に殺された人とか。


「たいていは、一度目の世界で終わるんですよ。まあ、たまに時間を操る人とかいますから、例外はありますけど。新でスタートに戻るとか、ずるいと思う。でも、それ以上に君はどうして何度も世界を渡ってきたんだい?結局、きっとこの世界でも、彼女の―香湖の漫画家の件をなあなあにして、死んで、もう一度別の世界に飛ぼうって思っていたのでしょう?どうしてそんなに拒むんです?別にいいじゃないですか」


遠くなる意識の中、彼(彼女)は、そう言っていたような気がします。

それ以上に、私があまりにも社会で生きていけることのできない人だと知り、怖気がしました。吐き気がします、自分のことなのに。虫唾が走ります、自分のことなのに。


「どうして、私があの事故に巻き込まれるまで、自殺しなかったと思いますか?」


唐突な質問に、彼は答えます。


「……何でって、いや、あなた自殺するほどの年月生きていないでしょう。幸か不幸か判断できるほど生きていないでしょう」

「……違います。もしも、あの家族でなければ、私は1秒も生きていないでしょう。物心ついた時には、死んだと思います」


どうして、そんなことを思ったのか。


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