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陽元日記  作者: サツマイモ
無戦姫の一生
89/99

88日目:ダメな理由

……なんという、世界。


私の目が驚きのあまりカッと開いたのを感じます。その先の世界は、私の想像をはるかに上回る世界で、視線を外すことなんてできませんでした。


壮麗な男性と華麗な男性。艶美な女性と妖艶な女性。

間に咲いた、薔薇と百合の花。

新たな世界の扉を開く、そんな漫画でした。


「……おおぉ」


幼馴染の男女の恋愛を描いているのかと思いきや、そこに同級生の男子と後輩の女の子が現れて、それぞれが同性同士、仲良くなっていき、ついには、その一線まで超えるという内容でした。しかも、そこに強引な感じは全くなく、自然な流れで、まるで異性同士の恋愛のように描かれていました。あまり本を読まない私には、とても新鮮に感じました。


今の世界って、こういうものが流行っているのですか?


「……ど、どうでしょうか」

「……えっちい」

「やっぱり!見せるんじゃなかったです!」

「いやいや、それだけじゃなくって!すっごくすっごくおもしろかったよ!」

「……本当ですか?」


涙を浮かべながら訊く彼女に、不覚にも惚れてしまいました。

心臓はないですけど、キュンとします。


「本当ですよ」

「……ありがとう、ございます」

「これが、ダメだったんですか?」


確かに、少しえっちいですが、それでも別に規制がかかるほどの物でもありませんし、大丈夫のような気がしますけど、やはり娯楽だからなのでしょうか。


「ええ、両親にはダメだったようです」

「理由は?」


「……あの人たち、変なところで差別的なんですよ。そもそも娯楽だからという理由でダメ出しを食らい、よりにもよって恋愛漫画だからとさらに潰しにかかり、最後には性的少数者に焦点を当てた作品など、そんなものは捨ててしまえと、私に言ってきたのです。主張してきたんです。彼らは、そういうところで差別的なのです。他にもいろいろとありますけどね。男女差別や性差別は勿論のこと、国籍とか、障がい者とか、そう言ったことでも差別をするんです。でも、それを否定したところで、何も変わってやくれない。変えるなら、殺すしかない。……すみません。ちょっと、言いすぎました」


彼女の視線は重く下へとうなだれているようで、私は何も言えませんでした。


差別というのは、色々なところで問題になっています。

私の持論を言わせてもらえるならば、それらのほとんどは差別ではないと思うんですけどね。


「……そう言う思想までなら、私達がとやかく言えるものではないと、思う」


香湖さんは、分かりやすくうなだれます。


「でも、それを超えたら、もうそれは別の犯罪だと思う」

「……犯罪?」

「たとえば、何人(なにじん)だからこうなんだ、っていう差別発言を公の場とか、公共の場で言ったらそれはもう名誉毀損だろうし、暴力をふるったらそれはもう暴行罪だし、傷害罪。迷惑を掛けられたら、迷惑防止条例違反だったりするわけで。だから、差別って本質的にはなくならないとは思うし、その思想自体は人間に備わったものだと思う」


私は、確信して、自信をこめて、言います。


「でも、やって良いことと、やってはいけないことが、あると思う」


どうして私がここまで熱くなるのかといいますと、私自身も何となくですが経験があるからです。正確に言えば、私はただの傍観者で、私の知り合いがいじめられていたというだけでしたが、それでも十分なほどの体験をしたのです。


小学生の時、彼女と出会いました。

彼女は、とある悪質な噂の流れた国とのハーフで、とても美人だったのです。見た目はクールな感じですけど、一度話せば、その優しさに包まれてしまいます。


しかしながら、彼女は嫌われていました。


美人であり、その国とのハーフであり、そして、片目が見えない彼女は、いわれのないことを言われ続けていました。


私だって、一緒にいた時は止めたり、悪いことだと窘めました。

しかし、一向に辞めることはありませんでした。


とうとう、彼女は自殺しました。

あっさりと、圧倒的に、あっさりと。


私は、そのあたりから何となく、そんな暗い感情が芽生えたのかもしれません。


とにかく、私はその日以来、差別というものは、いじめと同様なくなることは無いと考えるようになりましたとさ。


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