60日目:とうちゃく・・・
「そういえば、中間テストがもうすぐでしたよね?」
雲一つない青空がこの街を覆っているのが、なんだかとても清々しくて、私は何も考えずただ空を眺めていました。湿気があるわけでもなく、ただ乾燥しているタイプの晴れなのに、午後は雨が降るのでしょうか。そんな疑問が浮かんでしまうほどの、空でした。
汗をぬぐいながら、眩しいと言わんばかりに目を細める静さんは、蝉の鳴き声を遮るようにして、彼に質問しました。
「そうだな。もうすぐ、俺もテストを作らないといけない時期になってきた。面倒だなぁ」
わかりやすいように、ため息をつきました。
すると、彼女はすっと彼のわきに入り込み、腕をつかんで、
「この際どうです?一度、中間テストをやめてみるとか」
と提案しました。なんという子でしょうか。
「提案をするな。しかも、面倒だというのは、お前みたいな勉強しない奴でも取れるような問題を作るということが、面倒なんだ」
突き放しつつ、彼はそう言いました。話す内容も相まって、心身ともに突き放した感じです。
「ず、随分厳しいことを言うなぁ。一応言っておくけど、私はこの現状に甘んじているだけで、勉強自体はできるんですよ?」
無駄な抵抗をしています。見ていて、見苦しいです。
「あ、今柳橋ちゃんも疑っているな⁈ 次の中間テスト見てろよ!絶対2ケタ順位取ってやるからな!」
「もくひょうがひくいとおもいますけれど」
「同意だな」
「同意しないでよ!」
3人の笑い声が広がり、そのままフェードアウトしてくのを最後まで感じ、そして私は深呼吸をしました。
私は、ここでも甘えていてもいいのでしょうか。
優しい世界に浸っていて良いのでしょうか。
そんな気持ちが、私を我に返させました。
「もうすぐだよ。そこを曲がれば、ね」
曲がった先には、まるで宮殿のような、お城のような、巨大で壮大で盛大な屋敷がそこにありました。自分の3倍以上もありそうな大きな門と、その周りにつながる垣根の綺麗な配列。瓦屋根は荘厳さを、柱に使われている木々には神々しささえ感じました。
「……うわぁ」
そうため息を漏らしたのは、私だけではありませんでした。
「……何、ここ。聖戦地?」
「なんだそれは。聖戦地?」
「ああ、間違えた。先生んち?」
「いや、違うよ。俺の家じゃなくて、俺の知り合いの家。この手の不思議なこと、不可解なこと、不可思議なことに、詳しい専門家だよ」
「へえ。そうなんだ。どうりで、なんか胡散臭そうな家だなと思ったよ」
いやいや、あなたも「すげえ」みたいな顔していたじゃないですか!
「さあ、入ろう。俺の見立てだと、多分この国の王が関わっているとは思うんだけどな」
そう言いながら、彼はその重厚感のある門を両手で押して開け、少し長い玄関への道のりをゆっくり歩いていきました。
後ろをついていくと、その周りはお世話された庭と、数匹の鯉がいる池がありました。
「すごいなぁ」
つい、そううねってしまいました。
「唸ったんじゃなくて?まあ確かに、心が畝っているかもしれないけれどね」
彼女の冷静なツッコミには、顔を赤くするしかありません。
「あげあしをとらないでください。あげあしとりなんですか?あなたは」
「確かにチキンは好きだけどね」
「チキン?」
「ほら、あげどり」
「わかりづらいボケをかまさないでください!」
「分からなかったの、君だけだと思うけどなぁ」
玄関に鍵はかかっておらず、彼が恐る恐るドアを開けると、奥の方から大きな声がしました。
反響していて、その声はとても怖く感じました。
包んで、呑んでしまいそうな、そんな声に思えて、私は途端に彼の背中に隠れました。
隣で、静さんが「その手があったか」とつぶやいているのも、もちろん聞こえましたけど、それを恥ずかしがれないほどに恐ろしく感じました。
「いやいやいや、もう来ちゃったのかい?今回は、さすがに早すぎると思うんだけどねーぇ。まあ、良いと思うよ。即決即断とは、素晴らしいことだ。今日のお客さんは誰かな?ええと、おお、久しぶりじゃないか棚倉君。君はもう先生になれたのかな?隣の中学生を見る限りはそうだと言えそうだね。あれ、でも幼女がいるなぁ。うーん。君はまだ結婚していなかったと思うんだけど。もしかして、君と出会った時のあの少女と結婚したのかな。中学生の方は、多分どっかであったことがあるなぁ。いや、会った気がするだけで確証はないんだけどね。でも、そこの幼女は初めましてだね。よろしくね」
まだ姿の見えない専門家から、そう畳みかけられても、何一つとして心に残りません。強いて残ったと言えば、恐怖心だけです。
「相変わらず、早すぎるんだよ。それに、京のことなら、彼女はまだ病院だよ」
「そうかいそうかい。彼女は、特に脳が悪かったんだっけね。そこの幼女には、心臓が無いように思えるけど、それについては、どう説明してくれるのかな?」
「疑問を呈する前に、早く正体を現せ。怖がってんだろうが」
「それは悪かったね」
その声と共に、奥の階段からギシギシ音が鳴るのが分かりました。
恐怖がピークを迎えます。
「やあ、ごめんね。怖がらせたようだね。僕の名前は臣坂斉昭。専門家だよ」
こいつ、私の娘と合わせないようにしよう。
静さんは、唐突にそう呟きました。
彼女は、しょうせつかさんまではいかずとも、想像や空想は得意なんだそうです。
「さあ、ここに入って。大丈夫、何にもない大広間さ」
何もかもが怪しい人ですが、なぜか抵抗できません。
「大丈夫か?」
彼の優しさが、暖かくしみてきます。
「だいじょうぶ、です」
この後言われるあれこれが、完全に理解できたのは、それから数回の転生を繰り返してからのことでした。




