46日目:思考、のち出発
話を終わらせるのと同時に、妹御は手に持っていた湯呑を置いた。これ以上は私に聞かないでくれと言わんばかりの雰囲気を見せている。
しかし、人間がそんな簡単に世界を作れるものなのか?
正確には、作ったというよりは、変えたの方に近いのかもしれないが、それにしたって同じことだ。ありえない。時間観を動かすだなんて。
「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
俺の心配をよそに、この女は質問をした。それは、俺も確かに気になっていったところであった。
気になるし、引っかかる。
「陽元王国は、じゃあ、その3人が作ったってこと?」
その質問に対し、妹御は一瞬下を向き、否数秒下を向き、顎に手を当て、天井を見上げ、湯呑を手に取り、中身を呑んで、しっかりとこちらを見つめてもなお、結局答えが返ってくることは無かった。
「それは、分かりません。そこまでの能力があるということは、考えにくいでしょうし」
静けさが戻ってきた。しばらくしていると、小雨のサーッと言う音が部屋中を包み込んだ。こういった音は、静けさの中にあるとより一層美しく感じられる。
少しこの静けさに浸っていると、気づかぬうちに、眠りについていた。
眠りについても、その夢の中で、この事件―事象に関することを、ひたすらに考えていた。
もしも、自分がそういう技術を手に入れたとしたら、どうするだろうか。
まあ、普通に考えれば、自分の出身地を少し遠くして作るだろう。なぜなら、時を少し戻さねばならないからだ。中心からかなり離れてはならないだろうし、反対に近すぎても意味がない。そう考えれば、日本を、この一にセッティングした彼らはとても聡明だったと言えよう。まあ、そもそもそれくらいの脳みそがなければ、こんな時空を歪ませるようなことはできないはずなのだが。
ともすると、中心に何かが必要になるだろう。
出身地から、少し離れたところに中心となる国を作らなければならない。
……待てよ、俺にとっての出身地とはどこだ?出身地も、出生地も分からない。
いやいや、そんなわけがない。思い返してみろ。
釣り師になった時。
軍人だった時。
学生だった時。
子供だった時。
……子供だった時の記憶が失われているのに気づいたのは、この時が初めてだった。
「…-い。おーい、三虎さーん、出かけるよ?」
その声に反応する形で、俺は目覚めた。どうやら、船での大移動が相当体に来たようだ。
「……出かけるって?」
どこに?
「どこにって、そりゃあの二人のところだよ」
当たり前でしょ。
この女は、腰に手を当て―つまりは、仁王立ちで俺の頭の上に立ち、少し頬を膨らませていた。
その角度では、君のその花柄で青色のワンピースの下に履いているそれが丸見えなんだが。
まあ、こんなうら若き―若すぎる女子の履物など、さして興味は無いのだが、一応この女のこれからの貞操観念の為に、指摘だけしておこう。
「パンツ見えているぞ」
「そんな渋く言われると、むしろ清々しいな」
この女は、恥ずかしげもなく、隠すことなく、玄関へと移動した。
はあ、女性というのはいつからこんな風に元気に活発になったのだろう。
良いことの表れでもあるようだが、俺にとってはそうでもないな。
まあ、時代が変わったということだろう。
「時代というか、時空が変わっているんだけどな」
俺は、少しだけため息をついて、それからあの女の背を追うようにして、外に出た。
外は、曇り空だったが、その隙間から差す日が、あの女の背中に当たり、神々しかった。
「まずはどっちから行くんだ?」
妹御に尋ねると、あの女の方から答えが返ってきた。
「まずは、一風さんの方かな?」
「お前に聞いていない」
「あたしも訊かれていないと思って答えた」
「日本語を学べ。ちゃんとした言葉を、覚えろ」
「悪かったよ」
静かに笑う妹御に、京の面影を見た。
あの美しい彼女に隠された真実。
俺は、どうやらとんでもないことに手を出したらしい―首を突っ込んだらしい。




