28日目:臣坂斉昭(おみざか なりあき)
「おいおい、そりゃまたびっくりな物を持ってきてくれたじゃないか。まあ、僕の境地までたどり着いた専門家なら、何を出されても驚かないけれど、戦かないけれど、それでも今回の物はそんな僕でさえ驚いてしまうほどに畏れ多い物じゃないか。畏れ多くて、触るのも恐れてしまうくらいに。怖気づいちゃうよ」
結局、あの後たわいもない話をしました。紅茶が美味しいとか、そんな話を。そして、陽を思い出し彼女の家を出るとき、彼女はあの学校でバイトをしているというので、一緒に行くことになりました。
「じゃあ、私はここで」
「うん」
円柱の形をしたこの学校に、彼はいます。
臣坂斉昭。
整えられていない髪の毛に、笑わない瞳。常にニヤニヤしている表情を、うちは多少いらいらしながら睨みます。よれよれの服に、短パンという超カジュアルファッションであるため、端から見ればとても専門家とは思えません。
「いやあ、この前の物もそうだったけれど、今回はもっとすごいねぇ。なんてったって、あの姫の遺物だろう?」
「……姫、ですか?」
「そうだよ、姫だよ、姫。王様の奥さんの女王、つまり姫!」
近い近い近い。近づくな、臭いわけでも汚いわけでも気持ち悪いわけでもないけれど、近づくな。
「ああ、ごめんね。つい」
「いえ、別に。それで、姫って誰なんですか?」
「……それについては、色々な仮説があるんだ」
「伝説があるんですね」
「まあね。そもそも陽元王国自体が、都市伝説みたいなところだしね。都市伝説って普段から何の疑いもなく、何も考えずに使っているけれど、地方伝説とかってあるのかな。言葉として。だって、世の中の、妖怪変化の話だったり、神様に関わる話なんてものは、田舎町とかの方が多かったりするもんね。ともすると、やっぱり地方伝説という言葉があるんじゃないかな。もしないのだとすれば、造るべきなんじゃないかな」
「街談巷説という言葉がしっかりとありますよ」
「街談巷説。ほほう、街と巷が入っている。それなら確かに都市だけでなく、田舎町のニュアンスも取れる。君は頭が良いんだね。頭が切れるんだね」
「あなたの態度には、たまに私をキレさせますよね」
「そうかい。なら、君をキレさせる前に、解説をして行こうじゃないか。なあに、そこまで長くはならないはずだよ。きっと多分もしかするとね」
「そんなに保険を掛けるほど確証がないのなら、先にそう言わなければいいじゃないですか」
「ああ言えばこう言う。君は、1対1が上手いのかな。デュエルの才能があるね」
「そうやって、何でもかんでもプラスに見るところが嫌なんです」
「なんで?」
「プラスに見るということは、自分が上にいないとできないことだからです。自分が下ならば、少なからず嫉妬や怨恨が混ざって、迂闊にプラスな発言はできませんから。って、どれだけ喋らせるんですか。それくらい自分で考えてくださいよ」
「ああ、ごめんね。まさか、そんなに喋るとは思っていなかったからね。じゃあ、説明に移るよ」
そう言うと、彼は自身が座る回転いすを回し、私に背中を向け、本をとりました。
個人面談の形と言えば伝わるだろうか。うちと彼は、現在そのような形で話をしています。
この部屋は、彼専用の部屋らしく、ドアがぎりぎり開けられるくらいのスペースと椅子で人が座れるくらいのを残し、後はすべて本で埋め尽くされています。つまり、本の上を歩かなければいけません。今では床と壁にはアクリル板を設置して開閉式になっているのですが、出逢った当初は本当に本の上を歩く以外の彼に近づく方法がありませんでした。マジです。大マジです。
「じゃあ、語らせてもらおう。時代は遡るよ」




