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妖獣怪奇譚~争われしアヤカシの血~  作者: 奈良ひさぎ
一幕 偶谷 七馬(たまや ななま)

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12/80

I-12.忠告?

 これは別に自慢したいわけではないのだが、俺は中学の頃何度か、女子から放課後に呼び出されたことがあった。もちろん目的は俺に好意を伝えることで、俺が何も嫌がるような顔をしなかったことで、付き合ってください、と言われることがほとんどだった。だが、俺はすべて断っていた。


「もしも俺が何かまかり間違えて、この子を食べたい、ってなってしまったらどうしよう」


 今でこそ俺は人を喰うことがいかに恐ろしくて、自分が到底できないようなことであると分かっているが、中学の頃はまだ施設にいて、人間の同世代の子たちに混じっていたせいか、自分が妖獣だということは分かっていても、果たして本当は自分がどうしたいのか、もしかすると自分は心のどこかで人間を食べたいのではないか、といろいろ考えていつももやもやしていた。確かに俺に今告白してくれたこの子はすごくかわいくて、もしも俺が普通の人間だったなら、喜んでよろしくお願いします、と返事をしていたに違いない。もしも、普通の人間だったなら。

 今この子と付き合えば、いずれお互いが普段どんなことをしていて、どんなものが好きで、またどんなものが苦手なのか話す機会もあるだろう。もしかしたら俺が気付いていない、他の人間と違う特徴があって、俺が実は人間ではないと話さなければいけない時が来るかもしれない。そうやって正体を明かすことが、その子の幸せになりうるのか。

 その自分自身への問いに俺はいつも、首を横に振るしかなかった。できれば俺ではない他の男子のことを好きになって、妖獣の存在など知らないまま幸せに生きてほしい。そんなことさえ考えることもあった。


『三日後 妖獣のあなたに話したいことがあるので、校舎の裏に来て下さい 1-5 鷹取』


 だから俺はこのメモに書いてある通りにしようか、かなり悩んだ。もしかするとまた以前と同じように理由をはっきり言うことなく断らなければいけなくて、相手を悲しませることになるかもしれない。しかし一方で向こうが俺のことを妖獣だと知っているのなら、話は違ってくるのかもしれない、と楽観的にとらえる自分もいた。そして結局、俺は書いてあった通り、三日後の放課後、人気のない校舎の裏に行くことにした。


「……校舎の裏に来るのは、放課後でいいんだよな」


 幸い教室に最後まで残ることができたので、誰かに見られていないかという心配をせずに行くことができた。妖獣退治に行くのを断った日から虎野が積極的に俺に話しかけに来ることはなくなってしまったので、まさしく一人きりだった。

 日の当たるグラウンド側とは違って、常に校舎の陰になって日の当たらない裏側はじめじめしていて薄暗く、普通の感性なら不気味な気分になって逃げ出していたところだっただろう。だが一度行くと決めた手前、今さら引き返すのは約束を破ることになる気がして、俺はなるべく余計なことを考えないようにしながら奥に進んだ。


「ごめん。偶谷くんで合ってるよね」


 ぬかるんだ地面が広がっていて、仕方ない、と諦めて足を踏み出そうとしたその時、俺は後ろから呼び止められた。振り返ると濃い目の茶色の髪をした、ほっそりとした女の子が立っていた。


「鷹取です。ごめんね、こんなに不気味なところに呼び出して」

「……いや」

「話が、話だから」


 俺の中で、緊張感が高まった。単刀直入に、妖獣の話をするということだった。


「……いいのか。たとえこんな人の来ないところだとしても、そんな話」

「大丈夫。それに、これは一刻も早く話さないと、マズいことだから」

「マズいこと?」


 鷹取、と名乗ったその女子は俺により近くに来るように言って、それから耳打ちするくらいの声の小ささで言った。


「先に言っておきたいの。私もあなたと同じ妖獣だから、私が別にあなたを見つけてこの場で始末するとか、そういうことじゃないの。警告が、したくて」

「お前が、妖獣?」


 もちろん、妖獣が他にいないと思っていたわけではない。だが、同じ学校だけでなく同じ学年に妖獣がいるとは、さすがに想像していなかった。


「じゃあお前も、人間を……」

「全ての妖獣が人を食べるわけじゃないわ。でも……偶谷くんが人間を食べない、いえ、食べられないことは知ってる。だからこそ、注意してほしいの。偶谷くんは、狙われてる」

「……狙われてる? 誰に?」

「分からない。でも、偶谷くんが今やっている妖獣退治は、続けるべきじゃない。偶谷くんの命を狙っている妖獣がいるのは、事実なの」

「どうしてそんなことが分かるんだよ。それに、どうして俺が妖獣退治をしてることまで」

「私も偶谷くんと同じ妖獣だから、他の妖獣がどんなことをしているのかは、把握してるつもり。最近偶谷くんが妖獣退治をし始めたことも、いろいろ話を聞くうちに知ったの。あれは危険だから、やめた方がいいと思う」

「……ああ。あれは、やめるつもりだ」

「え?」


 俺は虎野に話したのとおおよそ同じようなことを、鷹取にも話した。


「……そう。なら、よかった。たぶん怪しい気配を察したのも、偶谷くんが妖獣退治に関わり始めてからの話だから。私は特に狙われてる気配がないのに、偶谷くんだけ、そんな気配を感じてたの。もちろん他にも妖獣はいるけど、その人たちも狙われてるような感じはなかった」

「俺だけが、狙われてる……」

「そこまで心配しなくても大丈夫だよ。だって、もう妖獣退治には関わらないんでしょ?」

「ああ……うん。そのつもりだ」

「じゃあ、大丈夫。余計なお世話だったかも。……今日はこんなところに呼び出しちゃって、本当にごめんね?」

「いや、大丈夫。俺からももっといい場所はあっただろうから、何か言えばよかった。たぶん泥とかはねて、制服汚れたんじゃないか?」

「大丈夫だよ。それに汚れてても、そんなに跡はつかないだろうし」

「そうか」


 俺も鷹取も初対面でかなり踏み入ったことまで話してしまったからか、変な遠慮をしていた。俺は鷹取が先に校舎の表側に出て行くのを見送って、それからそっと慎重に足を運びつつ、家に帰った。



* * *



「……聞いたか偶谷? 早速植川さん、お前のクラスの女子に告白されたってさ」

「は?」


 それから数日経った昼休み、いつものように俺と高原が一緒に弁当を食べている時のことだった。その手の情報はやたらと聞きつけるのが早い高原が、俺にそんな話をした。


「そもそも何でうちのクラスの奴がどうこう、って話をお前が先に知ってんだよ」

「そりゃ俺は自称情報屋だからな。あくまで自称だけど、持ってる情報はこの学校の誰より活きがいい自信があるぜ」

「初めて聞いたぞそんなの」

「まあまあ。偶谷も『それでどうなったんだ?』とか聞いてくれよ。話が進まねえだろ」

「それで、どうなったんだよ」

「遅いな! まあいいや。……そんでそいつは断られたんだと。柿瀬って奴の話なんだけど……」

「……あいつか」


 俺のクラスの中でもかわいいと評判の女子だ。よくクラスの奴からもその名前は聞く。ただ普段は大人しいイメージが強く、まだ教育実習に来て数日の植川さんに告白しに行くようながつがつしたタイプだとは思えなかった。


「言っただろ? 植川さんが来たらヤバいって。お前のクラスの女子全員に聞いてみろ、今好きな人は誰かってな。よっぽどのことがねえ限り、みんな植川さんって答えるぜ」

「……ちなみに虎野もか」

「何だよ、やっぱりお前、虎野さんのこと気にしてるんじゃねえか」

「それは違う、俺はただ、あいつも植川さんに取り込まれてんのかな、とか思っただけで」

「答えから言おうか? もちろんだ。虎野さんも結構気ぃ取られてるように見える。俺の主観かもしれねえけどな」

「そうか……」

「何だよ。残念そうだな、虎野さんのことなんかどうでもいいとか言ってた割には」

「どうでもいいとは言ってねえよ」

「そうか? そうだったっけ」

「言ってねえよ。今はちょっと、仲が悪いだけだ。たぶん」


 実際全く話していないのは事実だった。以前は別に妖獣退治の話でなくとも、宿題がどこまでだ、というような話もしていた。だが今ではそんな何でもないことさえも話さなくなった。いつも虎野と仲良くしている女子なんかはその突然の変化に気付いて俺の方をチラチラ観察しているが、俺は見て見ぬふりをすることにしている。こっちから目を合わせて何か問い詰められれば面倒だ。


「仲が悪い、ねえ。けど、いつまでもそのままでいられるわけはねえぞ。いつかは仲直りってやつをしなきゃいけねえ。お前と虎野さんの間に何があったかは知らないけどな」


 一足先に弁当の中身を平らげた高原はそう言うと、さっさと弁当を片付けてじゃあまた後で、と言い残し、教室を後にしていった。


「……俺が悪いのか? 今虎野と話せてないの」


 自分一人では絶対に半ば強制的に妖獣退治に参加させた虎野のせいだ、と思っていたが、高原に改めて言われると、何だか俺の方も少しは悪いんじゃないか、と思ってしまっていた。俺はその日の放課後、少し思い切って虎野に話しかけに行くことにした。


「……あれ」


 と思ったのだが、放課後になって気が付けば虎野はいなくなっていた。こう言うとこの日だけ特別だったと思われるかもしれないが、別段珍しいことではなかった。俺のサポートがなくても十分対象が明らかな場合もあるようだし、俺抜きで一人で仕事をする日もあると少し前に本人が言っていた。この日もそんなところだろう、と俺は思い、高原のもとへ向かった。


「じゃあな。頑張れよ」

「ああ。明日の昼休みにはちょっと話してみる」

「そうしろそうしろ。俺もお前が不機嫌そうにしてるのはあんまり見たくないからな」


 いつも通り高原と駅のホームで別れ、しばらく電車を待った後、乗車率もへったくれもあったもんじゃないガラガラの電車に乗り込み、かばんを床に置いて座って息をついた。



 そこからの(・・・・・)記憶がなかった(・・・・・・・)

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