疑問-春
どこかのあなた
私の言うことに怒らないで
あなたが求めているのは私ではない
これはただ風にのせてとなえた
ねんぶつに過ぎない
+ + +
こうして言葉をつづっている、それは恐ろしいことだ。
私たちの手が、こうして言葉を作り出していく。
それは、怖いことではないか?
言葉を恐れる心が、言葉を語るとき、
その言葉が空間に現れるとき、
空気の振動や、電子の増殖や、分子の変化に終わらない、
取り返しのつくことのない衝撃が
大空のうえや大地のしたに
伝わるのではないか。
魂の振動、それが、言葉というのではないか?
+ + +
ねえ、知っていた? 私たちは独りではないらしい。
でも、そんなこと、嘘だね。
ねえ、知っていた? 私たちは独りらしい。
でも、そんなこと、嘘だね。
ねえ、知っていた? 私たちは独りではないらしい。
それって、ほんとうに不思議だね。
ねえ、知っていた? 私は知らなかった。
それで、急に、鼻がいたくなった。
+ + +
言葉をたずさえてあなたは来たのですね。
誰からもらったのですか?
その恐ろしい物をどうか捨ててください。
+ + +
日本という国に生まれました。
ごめんなさい。
地球という星に生まれました。
ごめんなさい。
天と地の間に生まれました。
ごめんなさい。
・・・・・・・・・・・ありがとうございます。
+ + +
手をください。
手をください。
でも、私は触れません。
手をください。
手をください。
でも、私はふれません。
手をください。
そうしたら、私は、
たちまち崩れます。
+ + +
周りを見るとだれもが荷物を背負っていた。
私は不安になった、背中が空いていたから。
「荷物をください」 そう願うと、
私にも背負うものが出来た。
みんなと同じように背中が曲がった。
体をひきずりながら荷物を運ぶ。
それで、私は安心した。
+ + +
今日という日はどこに行くの?
明日という日はどこにつながっているの?
私は本当に盲目だ。
すごいことだと思う、こんなに、
次、どうなるのか分からずにいて、
それなのに、命は必ず、
自分を前へかついでくれると
信じていられるのは。
その確信はどこから来るの?
死の恐怖を知る人間が、
それでも尚、幸福な時には笑い、
不幸な時には悲しむことができる、
その屈託のない色彩は
だれによって描かれているの?
羊は牧場にいこい、その周りは深い森。
狼や熊はとてもこわい。
しかし、知恵のある羊飼いが率いて
森を抜けていこうと言ったら、
それに従って行く羊がいるか?
死の道や涙の谷を渡り、
恐怖に押しつぶされても信じて、
旅行くことができるか?
+ + +
強い風が吹いてきた。私の鼓動がはやくなる。
いつか強い人が来る。私を丸ごと取り去りに。
+ + +
ここに、一輪のたんぽぽが生きている。