ガネーシャ「1話目じゃああ!」
アメリカ合衆国某州某所にて、彼はいつものように高らかに笑っていた。片目についた切り傷が特徴的の一般的成人男性の普通の私服を着ている。
「はーはっはっはっは!諸君、聞き給え!このガネーシャ様の力を見込んで下手に出てきたマフィア共から依頼だ!」
「まず、うるさいのと諸君っつってもあんた以外に二人しかいないのとマフィアの人たちまだ玄関前にいるっぽいですけど?」
そう言ってジト目でガネーシャを睨んでくるのは13歳の赤いロングヘアーの少女の的確な指摘にますます調子に乗ったように高らかに笑うガネーシャ。
「はーはっはっはっは!そうだとも!そうだとも!実質俺はうるさいし、今アジトにいるのは俺以外に二人だけだし、マフィア共はまだ帰っていない!だが、それがどうしたァ!?人間は常に真っ直ぐ生きていないとこんなにも明るい存在にはなれんのだァ!」
「あれぇ、おっかしいなぁ~……真っ直ぐ生きてたらヤバいブツを運ぶ仕事なんかしてないはずなんだけどなぁ」
「お嬢ちゃんそれは一理ありィ!だが、残念なことにこの仕事をやらねばならんのだよ!というわけでそこの一見ヤクをキメてそうな根暗カモーン!」
ガネーシャは部屋の奥の方を向きながら人を呼ぶ。まぁ、いくら自分の部下だからといって人を呼ぶ態度ではないのは明白だが……
「名前で呼んでくれません?あと俺、ヤクやってないですし……」
そう言って煙草を吸いながらぼさぼさ頭のひ弱そうな男が眼鏡をかけ直しながら部屋の奥から現れる。ガネーシャは彼の現状を見て、辛そうだなと思ったのかまたゲラゲラと笑い始めた。
「いいぞ、マー!今のお前は栄養ドリンクとかブラックコーヒーが似合いそうな目の疲れ方をしている!」
マーと呼ばれた眼鏡をかけた男性の正式名はマーティン・スロット。本名かどうかは別として本人がそう名乗っているのにガネーシャがマーと省略しているために、他のメンバーもマーと呼んでいる。因みにガネーシャは偽名だそうだ。
「はぁ、で……今日は何の依頼なんです?」
「よぉぉく聞いた!」
「やっぱいいっす」
一気に面倒くさくなったマーティンはボサボサの髪をかきながら立ち去ろうとする。ズコーと転けながらもガネーシャは静止させる。
「そこは最後まで聞く努力をしないと先生褒めてくれんば虎児を得ずぅ!」
「先生、意味違いまーす」
「言うてくれるね清花ちゃん!だが、その通りィ!」
清花と呼ばれた少女は髪の色は赤だが列記とした日本人。3年前にアメリカに渡って来た。ガネーシャは自称純系アメリカ人だそうで、最近の流行りは日本語だそうだ。
「思ったけど純系アメリカ人って言葉おかしいよね。白人は元々アメリカにいないでしょ」
「時の流れって不思議なものよねぇぇ!確かに黒人が今!我々が踏んでいるこの土地を住処にしていた!だが、気付けば!この土地は前から白人のものだったかのように差別化が始まっているのだからァ!」
「真っ当な事実を言っているところ申し訳ないけど私が言いたいのはお前純系アメリカ人じゃなくてただの白人ってことだよ」
「時の流ry」
「強いなこいつ」
一語一句間違えずにまた同じ言葉を繰り返すガネーシャに手の打ちようがないことを悟ったマーティンと清花は聞くことを諦めていた話題を提起する。
「それでリーダー。仕事の内容に入りましょうや」
「流石マー!実際、その通りだ!では、本題に行こう……我々『フィーラー』に来た依頼内容はこの約2キロ以上あるコカインをここからボリビアのマフィア集団に渡すこと」
フィーラーとは英語で埋め合わせる映像等のことを言う。ガネーシャが結成した密売物配達人のチーム名として機能している。彼が思うには配達人とはクライアントと届け先との距離を埋め合わせるものなのだそうだ。
「コカインですか……だからヤクがどうとかしつこかったんすね」
マーティンはガネーシャがごく最近に耳に入った情報などで人を煽るのが好きなのをしっかりと覚えていた。
「ザッツライトォ!そして君には重大な仕事を頼みたいのだよ」
「?」
「これがそのコカインなんだが……」
そう言ってガネーシャが見せてきたコカインとやらをマーティンと清花は確認する。清花が本とかで見たことがあるコカインやらは小さな袋にパンパンになるぐらい詰められた白い粉というイメージだったが、これは違った。美容品のスプレーボトルに偽造した入れ物に入ってある。
「……それで?」
マーティンが聞いたのと同時にガネーシャが悪そうな笑みを浮かべる。ああ、なんか自分の欲望のみに忠実な顔しているなぁ……と清花は次の展開を察した。
「見ての通り、液体にしてコカインだと分かりづらくしているのさ。あの猿どもの癖に意外と知恵はあるようだ」
「あ、因みにその猿どもという名のマフィア達帰ってったわ」
「確認ありがとう清花嬢!それとマーよ!これを薄めて倍にするのだ!そして馬鹿どもに教えてやれ!質より量(嵩増し)とはこういうことだと!」
「へいへい……」
そう言ってマーティンはガネーシャからコカインを全て預かり、また部屋の奥に行く。因みに部屋の奥は廊下になっており、個人個人の部屋へと直結している。マーティンは科学者としての才があるため、こういったこともお茶の子さいさいなのだそうだ。
「数を増やすの?」
「ああ、そうだとも。理由は……」
ガネーシャが理由を言いかけた時に玄関の扉が開く音がして、二人はそちらに振り向く。
「おいーっす。帰りやしたぜリーダー。おっ、砂糖!なんだコカインか」
「出たな大甘党トゥエンティ。まず、なんで美容品のスプレーボトルの中身を即座に偽物と見破ったのか、何故液体となったコカインを固体の砂糖と一瞬見間違えられたのかガネーシャ様は不思議でしょうがないよ」
「全部が砂糖に見える病気ねきっと」
「末期じゃん」
いきなり玄関からチャイムも鳴らさずに入って来たかと思ったら淡い期待をして勝手に落ち込んでいるガチムチのおっさんにいつも調子はどこへやら、ガネーシャすらツッコミを入れる。トゥエンティとは英語で20だが、あくまで名前であって20歳ではない……らしい。
「おいトゥエンティ。お前コカインを運ぶの手伝えよ。こちとら指揮官の俺ガネーシャ様と非力なマーと見た目弱そうなお嬢さんだぞ」
「おう、喧嘩売ってんのかこら」
「俺はただ運ぶだけだぜ☆」
「うざい死ね」
ガネーシャと清花のやり取りが言葉の内容こそ物騒だが、子供同士の口喧嘩にしか見えず、トゥエンティはゲラゲラと笑い出した。
「あっはっはっは!まじでガキだなリーダー!」
「うっさいわ。甘党が、チョコあるよ?」
「わーい、チョコだ!」
「大のおっさんが「わーい、チョコだ!」はキモい!」
「ちょっとこれベターなんですけど」
「ビターな」
「このおっさん腑抜け」
もしかするとおっさんの中身は砂糖などの糖分だけで出来上がっているんじゃないかと思うぐらいの間抜けさについ清花も口を出した。ビシッと音が鳴るぐらいガネーシャはトゥエンティを指を指す。
「その通りだお嬢ちゃん!ガネーシャ様はお金と勉学がないやつは嫌いなんだ!」
「じゃあなんでトゥエンティはここにいるの?」
「勿論金になるからだ!融通の効く金持ちと都合のいい稼ぎ手が人間として大好きなのだ!」
「腑抜けはおっさんだが、屑はお前だな」
「はーはっはっは!もっと褒めたまえ!」
「くたばれ」
「うんうん……うん?」
「お前も腑抜けだな」