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第1章 夏への扉 5

 ポリグラフで嘘つきかどうかを聞かれたときには、何と答えれば良いのだろうか?


「……む? 視覚野が活性化している」


 調査官がポリグラフから顔を上げて俺を見る。そして、俺の視線の先をチェックする。当然、そこには美少女が居るわけだが…。


「何か、見えているのか?」


 ―「……はい」


「はーい、美少女の幻影が見えておりまーす!」


 どやどやする美少女。当然、調査官には見えない。


「ふーむ。前頭葉といい……」


 些細な事も記録しているようだ。それを美少女が覗き込む。


「それでは、次は動機について聞こう」 


 凶器と認定した注射器をしまうと、テレスクリーンに現場の映像を映し出した。なるほど、全てが記録され、そこに映し出されていた。


「除染隊長が暴れるのを止めるためだと言ったが、何故、彼は暴れたのかね?」


 ―「隊長が暴れた理由……それは、私たちが除染隊長に投石したからです。それに怒り、私たちの命の危険があるほどに暴れだしました。」


 実際に、2人死んでいる。


「ふむ。隊長に投石する背景は? 何があった?」


 ―「除染隊長が私たちの仲間を殺しかけて……。仲間は、他のヘマをした仲間を庇ったことで、罰として除染隊長に電磁警棒で殺されかけました」


「そのヘマとは、トラックが汚染水タンクに突っ込んだことかな?」


 ―「はい」


「特に記録映像および他の除染士の供述調書との食い違いはない。それを確認した。君たちの動機は正当防衛として取り上げられるだろう」


 「しかし」と調査官は続ける。


「イースタシアは今、非常事態体特別法の管理下にある。そして、イースタシア刑法第65535条1024項の2、階級差の絶対優遇。本件はこれが適用される条件を満たしている。つまり、分かりやすく言えば反乱罪に該当する可能性がある」


 それは、俺の全く知らない法律でありルールだった。そもそも一般市民が覚えているのだろうか。


「……そんな法があったのですか?」


 たまらずに質問する。


「《思考警察》の強制採決は知っているかな? その際に、非常事態特別法も制定されたのだ。議会を通さずに、迅速に刑罰法を追加・修正できる」


 全く知らなかった。自分自身のこと以外の記憶も失っているのだろうか。


「それがね~、将軍。特別法は1度も報道されていないの。公開の原則に従って、《愛情省》のホームページで検索することはできるけど、イースタシア一般市民の検索回数はこれまでに10。知らないのはフツーのことよ」


 幻影の美少女のより深い解説。何故、検索回数まで知っているのだろう……。


「ここ25年のM&Aで報道機関は50社から3社になっちゃってね~」


 この美少女は何者なのだろう。


「ほう。また前頭葉が活性化している…脳の動きはビッグデータで汎化され、パターン分類されているが、この動きは私も初めて見るものだ」


 どうも、この幻影の美少女に反応するとポリグラフに変化が現れるようだ。調査官はそれ以上の追求をせず、兵士にポリグラフの接続を外すように命じた。


「我々のポリグラフの精度は99.9%だ。だが、0.1%のミスも許されない。冤罪を防ぐためにもね」


 どうやらポリグラフによる取り調べは終わったらしい。


「その0.1%のために、我々は莫大な予算と時間をかけて力を注ぐ。それこそ99.9%を得る労力の数百倍といった具合にだ」


 99.9%も精度があれば十分で、ヒューマンエラーでの冤罪よりも精度が高いだろう。残りの労力を他に回した方が社会の役に立つとのではと思う。「おつかれさま~」と美少女。これは幻影である。


「いつか政治家の汚職にも民事訴訟にも効率的に対応できるようにしたいのだ。精度を99.99%にする事が普及の最低条件とされている。科学で真相を暴くというのは、逆に人間の意志が介在しないため、真相に近づけると思わないか?」


 「そのためにも、例外的な君の脳を是非とも研究したい」と付け加えてきた。


 脳を切り開く仕草をする調査官。ジョークだと思うが、電気椅子に座らされていた身としては笑えない。


「いえ。それは、流石にお断りします」


「ははは。先ほど、DNAデータの解析結果とマイナンバーデータベースの紐付けが完了したよ。1984年7月14日生まれAB型。それが君だ。しかし、それ以外のデータは《大断絶》の影響で喪失したままだ。復旧していない」


 記憶を失って、初めて知る誕生日だった。自分が過去に何という名前でどんな人生を歩んでいたのか、やはり知りたい。


「紙ベースの書類も同時に保管されているはずなんだが、データの整理と登録が追いついていない。それこそ人工知能に任せればいいのだが、バブル世代公務員の雇用確保のために人海戦術でやる有様だ。《首都奪還》だけでおよそ4000万人が蒸発して人的資源が枯渇しているにも関わらずね」


 より効率的で確実な手段があるにも関わらず、それを採用しない。格差のピラミッドを維持することが目的の新自由主義国家イースタシアの現状だった。誰もが知っているが、議論しない、出来ない体制は革命後に特に酷くなったのだ。


「君は反乱罪の件で拘束されるだろう。当然、死刑制度のない我が国では強制労働が課せられる。それならば、我々の検体……ではなく、うちの研究室で働いてみないか? 記録映像を見た限りでは、君は自然な仕草で暴れるヒトを相手に動注をこなしている。これは特殊な技術だ。うちで働くことは君の過去を探る手がかりやキッカケをもたらすかもしれないぞ」


 除染士に戻れそうもない身として魅力的な申し出だった。まぁ俺に拒否権はないのだが。


「どのような研究をしているのですか?」


「《立ち入り禁止区域》における発ガンの抑制。および、不老不死だ。献身的な姿勢は、愛国者保護法の適用対象ともなる。恩赦もあるかもしれないぞ」


 それを聞いて美少女は眉をひそめるが、今度は何も言わない。

 俺は快く申し出を受諾した。

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