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第1章 夏への扉 3

 生き残った俺達は反乱罪の容疑で特別居住区の《愛情棟》に移送された。除染服から下着まで全て脱がされ、放水で体を洗浄された後、皆で医療チェックを受けた。長老を含めた重症患者4名は、医療施設で治療を受けることとなった。残りの俺を含む5名はそれぞれ尋問を待つこととなった。


 そして、俺はイースタシア兵士に従って独居房に入室した。そこに1人の少女が俺を待っていた。


「もう、おっそーい! ずーっと待っていたんだからねっ!」


「……えぇぁ!?」


 少女は俺を見るなり、ツンデレ口調で声をかけてきた。たしか、俺は独居房に入れられたはずだったのだが……。ベッドも1つしかないし、イースタシア兵士は特に驚きもしていない。


「ねぇ、びっくりした? 将軍にどストライクな女の子がこーんな場所にいたんでビックリした??」


「えっと……?」


 戸惑う俺。楽しそうな少女。俺を連行してきたイースタシア兵士は、その少女ではなく俺を見て不審な顔をした。


「呼び出しがあるまでここで大人しく待っていろ」


 イースタシア兵士は少女に何も言わずに独居房を後にした。


「ふっふーん☆ それでは、答え合わせのお時間でーす!」


 その少女は控えめな胸を張ってどやどやしている。よく見ると結構、美少女である。なるほど、将軍?のどストライクを自称するだけのことはある。


「……あら?」


「うん?」


 何やら眉間にしわを寄せる美少女。うむ、悪くない。


「ちょっとお! 将軍、ケータイどこにやっちゃたのよ! もー、信じらんない」


「えぇ……?」


 正直、何が何だか分からない。


「えっと、将軍とは俺のことかな? 人違いでは?」


「はい、そうです。将軍とはあなたの事ですー! もう、ケータイがなきゃ私のことを思い出せないじゃないの! 何やってんのよ。普段は人のことをポンコツ呼ばわりしているくせに、バカバカバカ!」


 ふむ。全く状況を飲み込めないが、どうやらこの美少女は相当にご機嫌が斜めらしい。しかし、気が紛れて助かる。これから、反乱を企てたものとしての取り調べが待っているのだから…。女の子がプンプン怒っているが、俺は冷静だった。むしろ、怒れば怒るほど、逆に俺の心はどんどん安らかになっていく。不思議なものだ。


「うー……ちょうどいいタイミングで、新しい依頼が来てるのに」


 ふーむ、依頼? ナンノコッチャ? 何やら美少女が考え込んでいるので、とりあえず、失礼と言いながら、唯一のベッドに腰を掛ける。今更ながら、随分と狭い部屋だ。ベッドとトイレしかいない。


「うーん、《友愛》まで忘れているとは…重症のようね」


 「ちょっと良いかしら」と言いながら、その美少女は俺の眉間に手を突っ込んだ。


「……ッッッ!? ? ???」


 サワ……サワ……


「コレでよし!」


「良くないよ? 今、君の手が俺の頭のなかに入ってなかったかい? いや、俺も自分が何を言っているのか分からないんだけど!」


 満足げな美少女に突っ込む俺。痛みはなかった。そうだ、きっとコレは夢なんだ……。


「うるさいぞ、除染士! 懲罰房にでも行きたいのか?」


 突然、入り口の覗き窓から看守らしき男の叱責を受ける。


「わーい、怒られてやんの~。将軍、静かにしてなきゃ駄目でしょー?」


 なんという理不尽。この国は女に甘すぎる! 納得いかない…と思っていると、看守たちの会話が聞こえてきた。


「6番房か、気味が悪いな。1人でぶつぶつ会話してる……。頭が狂ってるんじゃないか?」


「反乱の首謀者だったか。隊長を殺したんだってな……。精神疾患だと責任能力なしで無罪放免になるぞ」


「殺しは殺し、死刑だろ! あんなの野放しにしちゃいけねえよ。ムサシスーツで完全武装の百人隊長を殺害したんだぞ。市街地で暴れたらどうするんだ? 誰が止めるんだよ! 人権団体の偽善者弁護団どもめ」


 いつのまにか反乱の首謀者になっている……のか? とどめを刺したのは俺だが。いや、その前に一人で会話とはどういうことだ。看守には見えていないのか? この美少女は、俺にしか見えない幻影なのか?


「そうねー。だいたいそんな感じで合ってるわ」


「君は幻影で、俺は幻影と会話をしているのか……。俺はついに狂ったのか……」


 脳の損傷で幻影が見えるようになると聞いたことがある。そのたぐいなのか……。


「良い? ケータイを見つけて。どこで落としたか分かる? それがないと、あなたに状況を上手く説明できないの」


 ケータイ。長老にガラクタと言われた、あのケータイか。そういえば、今は持っていない。なんだか凄く大切な物だった気がする。隊長が暴れたときに落としたのかもしれない。


「おい、6番。取り調べの時間だ。表へ出ろ……」


 来たか。

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