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第1章 夏への扉 2

 たった1つの投石で暴行は中断された。


「誰が投げた? 今、石を投げたやつ、出てこい!」


 もちろん、誰も出て行かない。


「……誰も名乗り出ないか。安全圏から俺を攻撃しておいて、逃れられると思うなよ。絶対に特定してやる」


 こいつ、馬鹿なのか?


「いいだろう。全員、目をつぶれ! そして、犯人を指で差せ!」


 なんだこれ? 公立学校で性犯罪者となる教師がよくやる手口ではないか…。馬鹿馬鹿しい。俺は目をつぶらずに腕を組んで見据えた。周りを見れば、他にもは呆れている奴はいるようで、唾を吐く者すらいた。


「ほう……仲間を売ることは出来ないか。見上げた心がけではある。だが、それはイースタシア国家の統治機構への反逆である!」


 また、わけのわからないことを言っている。馬鹿なのか? こいつは。


「キサマらの仕事は何だ! おい、そこのデブ。答えてみろ……」


 小太りの男を指名して問う。


「除染作業であります!」


 ドスンッ!


 隊長は両手で電磁警棒を勢い良く地面に突き刺した。


「ち・が・う・だ・ろ! ちがうだろ!! キサマらの仕事は新自由主義国家イースタシアへ忠誠を誓う事だ!!」


 うぅ…うぅぅぅ……


 長老が呻いた。まだ、息がある! 「手当を」と叫び、いち早くトラック運転手が長老に駆け寄ろうとした。


「この、ハゲ----ッ! 俺は動いて良いとは一言も言ってない! どれだけキサマは俺を侮辱すれば済むんだ? どれだけ俺の心を叩けば気が済むんだ、キサマは!」


 隊長が運転手に向けて電磁警棒で殴り掛かる。そのときだった。


 コツンッ! コツンッ!

 コツコツンッ!


 複数の投石が、再び隊長を襲った。


「キサマら……キサマらだけでなく、キサマらの家族も皆殺しにしてやるっ!!」


 どう始末書を書くつもりか分からないが、俺たち除染士の集団へと隊長が襲い掛かってきた。もちろん、隊長は重武装であり、こちらは丸腰である。投石などで歯がたつはずがないのだ。


 バチバチバチバシィィィいいいッ!!!

 ギガガガッゴゴゴゴッッ!!


 電磁警棒の一振りで3人4人とまとめて除染士たちが吹き飛ばされる。あの宇宙服のような防護服はパワードスーツであり、常人の力の数十倍の力を発揮させるのだ。それに加えて、電磁警棒である。全く刃が立たなかった。足を掴んでも、手を掴んでも、背中から羽交い締めしようとも、びくともしなかった。10人の除染士を1度に敵に回しても、隊長は絶対的だったのだ。


「チクショウッ……!」


 ルール:3級は無資格に優越し、2級は3級に優越する。1級はその他に対して絶対的な優越権を持つ。


 このまま殺されるかもしれない。だが、そんな恐怖よりも、純粋な怒りの方が上回っていた。発ガンの危険を覚悟の上で、手作業している俺達を、ただ現場監督として見ているだけの一級除染士で正規公務員というだけの隊長が、虫けらのように殺す。そんなことはあってはならない。絶対に許さない! 命を冒涜したことへの怒りだ。俺達の人生を踏みにじった連中への怒りだ。だが、隊長は、絶対的な防護服によってその身を守られている。そして、強力な電磁警棒で武装までしている。


「ガスマスクだ! ガスマスクを剥がすんだ!」


 誰かが叫んだ。感電しボロボロになりながらも、皆立ち上がった。黒焦げになり、足や手がおかしな方向に曲がっても、皆が隊長に掴みかかる。背中に電磁警棒が直撃する者、顔面を殴られ歯が欠ける者もいた。その争いに向けて、誰かがピンク色の石鹸水をぶっかけた。


「足をつかめ! 転がすんだ!」


「クズどもめが! 近寄るな!」


 一面がヌルヌルし、立っているのが困難な状況に変わった。石鹸水の影響か、電磁警棒の放電が緩和されていた。隊長も石鹸水で滑るのかなかなか攻撃出来ないでいる。皆が一斉に足へ向けてタックルを開始した。


「取ったアッ!」


「ぬおおおおおッ」


 ズシンッ


 隊長の足を取り、持ち上げ、一気に転ばした。その四肢に皆が群がる。振りほどこうとする隊長。お互いが滑り上手くホールド出来ない。隊長は手が滑ったのか電磁警棒を落とした。その間隙をぬって、幾つもの手がガスマスクへと手をかけた。命がけである。皆必死だった。


「辞めろ! 取るな!! ぶっ殺すぞ!!!!!」


 隊長が暴れ回る。それほどにガスマスクが大事なのか、マスクを剥がされまいと防御へと向かう。が、少し遅い! ガスマスクと顔の隙間に手がかかった。


「オラァ! 素顔を晒しやがれ!! ぶっ殺してやる」


 ガスマスクが、宙に舞った。


「ぐぉぉぉおおおおお……! 許さんぞ、キサマら! 超許さん!!!!!」


 ガスマスクの下には激怒で顔を真赤にした中年男の顔があった。怒りの度が、もはや人外である。だが、それは俺達も同じだ。遂に表出した弱点である。間断のない連携で、容赦なくつま先蹴りとパンチを顔面にぶち込む。


 はぶぉっ!


 隊長の顔面は凹み、血と折れた歯が飛び散る。滑りからなかなか決定打が生まれない。まだ、まだだ…。俺たち除染士は顔面はおろか5体が正常に残っているものは誰もいない。倍以上の代償を、隊長には絶対に払わせねばならない。


「緊急事態発生! 至急応援を乞う! 除染士の反乱…」


 顔面に強烈な攻撃を受けながらも、手首に備え付けられた送信機で隊長は応援を呼んだ。自ら引き起こした災厄で、立場が悪くなれば助けを呼ぶとは…。応援が到着したら、絶望的だ。皆殺されてしまう。戦意が喪失する、そんな雰囲気が駆け巡った。

 しかし。

 ■■■■に■■■■■■義は■■■■■代■■■■望■■で■■■


 俺は医療大麻のケースからジギトツズマブを取り出して、隊長の内頚動脈に突き刺した。変化は即座に現れる。


「グッ……ギィガガァア……ガ……ギギゴゴッ……ギガッガッ!」


 喉から出る奇声。そして、デタラメに動く全身の筋肉。もはや声にならない。辺りを見回して被害状況を確認する。トラックを運転していた爺さんは頭を潰され、小太りの除染士は背中がおかしな方向に曲がり、ピクリとも動かず死んでいた。長老は虫の息だ。生き残った除染士も、俺を含めて顔や手足は原型を留めていなかった。


 隊長は死亡し、生き残った俺達はイースタシア国防陸軍によって連行された。

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