夏時☆スリーパヴァ―
合宿と言って遊部がやってきたのは、レンちゃんの家でもある若葉園!
強引な成り行きでお泊り会をすることになり・・・・?
「ねぇねぇお兄さんたちどこから来たの~?」
「レン兄ちゃんとどんな関係?」
くりくりとした純粋な目を向けながら、先輩方の周りに寄ってくる。
不思議そうに首をかしげる子供達に、永遠さんはふうむと腕を組んで考えた。
「レンちゃんねぇ……そうだなぁ……結婚を前提にお付き合いさせてもらってるんです❤」
「何子供に嘘吹き込んでんの!?」
「えっ? レンちゃんと永遠先輩、付き合ってるの!? どんな感じ? A・B・Cでは、どこまでいった!?」
「付き合ってない! いちいち食いつかないでくれる!?」
相変わらずのハイテンションな先輩を、北城さんが一喝する。
俺―櫛崎輝はそんな光景を見ながら、ため息をつくばかりだった。
遊部として合宿に来てから、もうすぐ一日が過ぎようとしている。
合宿と聞くと強化合宿だとか、夏の大会に向けてやる部活の方が多い。
しかし遊部はその名の通り、遊ぶだけ。
来れないといった北城さんの家でもあるここ、若葉園にてお泊り会をしようということになった。
先生に交渉したところあっさりと通り、興味津々の子供たちに絡まれていた。
「紅葉お兄ちゃん! 大きくなったらあきと結婚してぇ~!」
「ずるい~! 私と結婚するのぉ!」
そんな先輩方の一方で、女の子の子供たちがある一人の男性を囲んで取り合っている。
無論、紅葉だ。
「いやぁ、初対面でこんなに気に入られるとは。人生、捨てちゃもんじゃないねぇ」
「その割には嬉しそうだな、紅葉……」
「これのどこがそう見えるんだよぉ。助けろよぉ」
「……一つ、聞いてもいいか?」
「ん? 何?」
「なぜ俺には、一人として子供が寄ってこないんだ?」
俺の言葉を聞いていたのか、先輩方三人の顔が一気にこちらを向く。
同じくらいの子供達であふれかえっているはずなのに、いまだ一人として俺の方には来ない。
北城さんはここに住んでるから仕方ないとして、初見である先輩と紅葉にまで寄っていくとは……
「そりゃお前、あれだろ」
「輝君が好かれない理由なんて、一つしかないよねぇ♪」
「初歩的の初歩ってやつだな」
「気の毒だけど……そう考えるのが妥当だよね」
「……え?」
「「「「「顔が怖いから」」」」
四人の声が、一斉に重なる。
何人かの子供達が、こちらをのぞきつつもさっと身を隠してしまう。
……予想はしていたが、やっぱりか。
この外見のせいで同級生だけでなく、小学生にも好かれないとは。
「あ、そうだ。ここ泊まるんだったら、ご飯作るの手伝ってくれる?」
「ご飯、ですか?」
「さっき直接会ったでしょ、先生に。最近調子が悪くてさ、泊まらしてあげるんだからそれくらいはしてってこと」
「ああ、そういうこと。何を手伝えばいいの?」
「うーん……例えば夕食の手伝いとか」
「おっしゃああああい! ここはおいらの出番だなあ!」
なぜ、そうなるのだろう。
そう思ったのは俺だけではないようで、北城さんが怪訝そうに顔をしかめた。
「出番だって……何、あんた料理できるの?」
「できるかできないか、それはやってみなければわからん!」
「不安要素しかないんだけど!!!」
北城さんはなぜか自信満々に、えへんと胸を張ってみせる。
どうやら自信だけはあるようで、やるぞ~と台所の方へ一人かけていく。
ため息交じりに俺達もついていくが、そこには未知の世界が広がっていた。
「へぇ。結構色々なものがそろってるんすね」
「そりゃあこれだけ子供がいれば、自然とそうなるでしょ。はい、キャベツ千切りお願い」
「千切り? それってキャベツを千個切ればいいの?」
「……まさかとは思うけど、颯馬……」
「うん♪ 料理全般やったことないよ♪」
「はぁ!? 学校で家庭科学んだはずでしょ!?」
「家庭科かあ。オレがやるとなんでか止められるんだよね~」
「どんだけ下手なの!?」
北城さんのつっこみを気にもしないように、へらへら笑う颯馬さん。
胸を張っていた永遠さんも、千切りってどうすんの? と俺達に聞いてくる。
俺も正直なところ、料理のセンスは全くない。
だから千切りと言われても、どうしようもないわけで……
「んで? そこの二人は? さっきから妙におとなしいけど?」
「す、すみません……あんまりやったことなくて……」
「基本オレ、スイーツ系しか作ったことないっす」
「ああもう! どうしてこの部活はこんなのばっかなの!? もういいよ! 僕がやるから!」
そういうと北城さんは自分の髪をゴムで一つに結ぶと、包丁を手にとり見事な手先でキャベツを切り出した。
それはもう、言葉では言い表せないほどきれいなものだった。
ものすごいスピードで、あっという間に人玉半分切り終わった。
「はい! これ皿に盛って!」
「えっ」
「次! 卵二個! 後砂糖と塩も! 君達は何もしなくていいから、子供達の相手でもしといて!」
「は、はい……」
北城さんの勢いに負け、俺達四人は何も言うこともできないまま台所を立ち去ったのだった。
彼が作った料理は、本当にすごかった。
ほっぺがおちるほど、といっても過言ではないだろう。
颯馬さんや永遠さんも、おかわりを連発したほど。
おなか一杯になるまで食べた後は、すっかり眠くなったということで布団を敷いてもらったのだが……
「ふむ……これが布団というものか……」
部員の数だけ敷かれた布団を目の前に、永遠さんはつぶやく。
難しそうな顔をしながら、何を考えているのかあちらこちらを見て回る。
やんわりとした布団をふにっと手で押すと、彼は一人うなずき一言。
「おもらしした形跡がない!!!!」
「あるわけないでしょ!? なんで探してんの!」
「何を言ってるんだ、レンちゃん! 布団と言えばおもらしだろ!」
「聞いたことないけど!?」
相変わらずのきれきれのつっこみの北城さんに、さも気にしない様子の永遠さん。
そんなことも気にせず、紅葉も布団に触りながら言った。
「思ったよりふかふかなんすね。オレんちベッドなんで、布団にちょっと憧れあるんですよ~」
「ああ。紅葉君には、お姉さんが二人もいるんだったよね」
「そうそう。父がいないから、男はオレ一人で苦労ったらありゃしませんよ」
なぜ紅葉の家庭事情を知っているんだ。
そう突っ込もうとも思ったが、正直慣れてしまった。
はっきりといって颯馬さんが知らない、ということは多分この先もないんだろうな。
一体どこからどうやってその情報を得ているのか、そっちの方が気にかかるんだが……
「うーん、でもさぁ……も~ちょっと布団の間隔を近くしてもいいんじゃないかな?」
「はぁ? なんで? ただでさえ君達と同じ空気吸うのもいやなのに」
「ひどいなあ、レンちゃんは。オレはただ……たくさんの子供達に、ひろぉいところでゆっくり寝てほしいなって思っただけだよ……」
「颯馬……」
「別に、抱き枕になってくれないか? とか、お前の隣は俺だろ? とか、そういうのが見たいわけじゃないからね♪」
「明らかにそっちが目的でしょ! 感心して損したじゃん!」
いつも通りの三人だ、と思った。
過去のことを聞いて気まずかった空気が、まるで嘘のように明るくなっている。
もしかして、北城さんに気を使って……?
いや、考えすぎか。
「でもこれ、誰がどこに寝るんです? オレはどこでもいいけど、輝は?」
「俺も特に希望はないが」
「紅葉、輝。遠慮しないで何でも言っていいんだよぉ? どこでもいいって、一番困るし」
「はい! おいら隅っこ希望!」
「じゃあオレは、レンちゃん真ん中希望で!」
「君達は少し遠慮って言葉を知ろうよ!!!」
「誰が何と言おうと、すみっこは渡さん! どうしてもというなら……」
そういうと、永遠さんはそう言ってその場にあった枕を持つ。
と次の瞬間、その枕を北城さんに投げつけた。
「いっだ!!! 何すんの!?」
「そんなに嫌なら枕投げで勝負しようぜぇ、レンちゃぁん? そしたら言うことぜ~んぶかなえてやる」
いつにもまして、何かたくらんでいるような笑みを浮かべる。
まるで勝ちを確信しているような、余裕の笑みだ。
「はぁ? なんで枕投げ? 小学生じゃあるまいし、そんなのするわけ……」
「へぇ~~~じゃあレンちゃんは逃げるんだ~?」
「……っ! そんなんじゃな……いっで!」
すると紅葉と颯馬さんまでにやりと笑い、枕を投げる。
北城さんは怒ったようにその枕を投げつけると、こちらを睨みつけた。
「売られたけんかは買うってのが男の流儀って奴っすよ、先輩」
「そーそー♪ ここは正々堂々といかなきゃ♪」
「まっ、勝つのはおいらだと思うけどなあ」
無邪気に楽しそうに笑う三人。
その中にいた紅葉が、俺の方に目線を向ける。
お前はどうする? そう聞いているようにも見えた。
やれやれ、やっぱりこうなるのか……
俺はそう思い、静かに枕を持ち北城さんの方を向いた。
「ああ、もうやるよ! やればいいんでしょ!?」
「よっしゃあ! それじゃあ陣取り合戦、In枕投げ合戦! 開幕じゃあ!」
永遠さんの叫びを合図とし、枕を一斉に投げ始めたのだった。
それからはもう、時間を忘れてしまうくらい楽しかった。
まるで子供の頃に戻ったかのような、不思議な感覚。
枕投げなんて、いつ以来だろうか。
そんなことも忘れてしまうくらい、このメンバーとやるのが楽しかった。
ひょうひょうとしながらも、投げる枕は百発百中の紅葉。
ほとんど観戦していたと思いきや、いきなり攻撃してくる颯馬さん。
卑怯ともいえる枕二個投げを連発する、永遠さん。
全員からの攻撃にも動じず、一番楽しそうにはしゃぐ北城さん。
若葉園の先生が止めに来なければ、多分延々とやっていただろう。
それで疲れたのか、北城さんが折れて先輩方の希望はあっさり通った。
右端は永遠さん、左端は颯馬さんが寝て、オレと紅葉が真ん中の北城さんを挟む形で寝ることになった。
はしゃぎ疲れたのか、颯馬さんと永遠さんはすぐに寝息を立てて眠ってしまっていた。
なかなか寝付けない俺は、静かに寝返りを打った。
「……まだ起きてる人、いる?」
そんな中、北城さんの声が聞こえる。
起きてますよと返事すると、同時に紅葉も同じように返事した。
「あいつらには言わないけど、君達には苦労かけたね。僕が来れなくなったせいで、わざわざこんなとこに来させられて」
「そんな……気にしてませんよ」
「そうですよぉ。謝るなんて、レンちゃん先輩らしくないじゃないですか」
「正直さ、君達とつるむ気なんてなかった。こんな部活早くやめようって、そう思ってた。でも、今は違う……」
北城さんが寝ている布団が、もぞもぞ動く。
彼は顔を隠したかと思うと、ぼそりとつぶやいた。
「この部活に入ってよかった……誘ってくれて、ありがとう」
初めて彼の本音を聞けた気がする。
猫かぶりでもない、誰にも見せようとしなかった本音を。
北城さんは学校では猫を被り、この部活ではからかいの対象となっている。
正直、どこか距離を取っていたようにも見えた。
だが今、少しだけ近づいた。
少なくとも、そんな気がした。
「お礼なら俺達じゃなくて、永遠さんに言ってください。先輩に誘われてはいったのは、俺達も一緒なんですから」
「ふん。この人達には死んでも言わないね!」
「まあそういわずに。永遠さんがいたから、ここにいれるんすよ? オレ、レンちゃん先輩に会えてよかったよ☆」
「いきなり何言ってんの、紅葉」
「先輩は頑張ってる。その姿はきっと、助けてくれた人にも伝わってると思うよ」
紅葉はいつも、何気なく言う。
それがたまに人の助けになる。俺もそうだった。
多分それは、北城さんも感じ取ったのだろうか。
なぜかバッと起き上がり、紅葉の方に枕を投げ……
「うぉ!? 痛いじゃないですか、先輩!」
「うっさい! 馬鹿! 死ね!」
「え~オレ、気に障ること言った~?」
「言った!」
「もぉ~うるさいなぁ……こんな夜中に大声出さないでよぉ、レンちゃぁん」
「うるさい! ばぁか、ばぁか!」
すっかり起きてしまった颯馬さんと永遠さんが、眠たげにあくびをする。
何があった? と言わんばかりに、二人は首をかしげていた。
それでも北城さんは怒りをおさめることもないまま、布団の中にもぐってしまう。
「あ、大事なこと忘れてた。言っとくけどぉ、これで合宿が終わりだと思ったら大間違いだからな?」
いきなり、何を言い出すかと思った。
永遠さんは相変わらずの、何かをたくらんでいるような笑みを浮かべている。
その言葉に驚いたのか、北城さんは布団から顔を覗かした。
「花火にプールに祭り……やりたいことは山のようにあるんだぜ? 思いっきり遊んで思いっきり楽しもうじゃん。なんたっておいら達は遊部なんだし?」
「もうこれで十分でしょ~? まだやる気~?」
「そんな言わないでよ、レンちゃん。今度は、レンちゃんも行けるような場所にするからさ♪」
「にしてもないわぁ。一年には礼言ったくせに、おいら達には言わないって」
愚痴のようにぼやく永遠さんに思わず、ん? となる。
状況が把握できたのか、いち早く北城さんは布団をめぐり胸ぐらをつかむような勢いで彼に近づいた。
「聞いてたの!?」
「おいらを誰だと思ってる」
「たっ、狸寝入りとか卑怯じゃん!」
「大丈夫だよ、レンちゃん♪ ばっちり録音しておいたから♪」
「全然大丈夫じゃないっ!!!!!」
楽しそうにからかう二人を、北城さんが顔を赤くしながら必死に抵抗する。
面白く、楽しくもあった合宿一回目はあっという間に夜が更けていったのだった。
(続く!)
とある友人にこの作品を読ませたら、
「レンちゃんかわいい!」とすごく言うようになりました。
私の周りはレンちゃん推しが非常に多いです。まあ私も好きなんですけどね。
ツンデレ最高ですよね。うんうん、分かる分かる。
次回、ちまたは寒い時期到来だと? そんなの関係ない!
夏と言えば? 答えは三日後で!




