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戯れ交じりのコンペティション

なんだかんだありつつも、輝は遊部に入部することに!

今日の遊部はまたもにぎやかのようで・・・?

「総体速報……男子テニス団体、惜しくも予選落ち……か。くっそだっせ」


携帯の画面をスライドさせながら、ほおずえをかいた永遠さんがつぶやく。

だんだんと気候も暖かくなってきたこのころ、ちまたでは高校総体というものが行われているらしい。

各体育系の部活が、他の高校と戦い、全国へ行ける切符を争う……

当然、部活に疎い俺が詳しくは知らない。

それに、遊部ではそんなこと関係あるわけがなく……


「弱すぎだろ、うちのテニス部。つうか速報っつってそんなたいしたことでもないのに、生徒全員に送る必要ある? 何がしたいの、ティーチャーたちは」


「うちの高校って部活、強いとこあるんすか?」


「あるわけないだろ~どこもかしこも平凡か、それ以下だよ」


「オレもあんまり聞かないなあ。先生達としては校則がある以上、何らかの功績は残したいみたいだけどね♪」


呆れかえるようにつぶやく永遠さんの会話を聞いていたのか、颯馬さんが話を続ける。

彼は自分の携帯を眺めながら、俺達ににっこりと笑ってみせる。


「ここ校則で決まってるわりによわいんだよねぇ。だらしないったらありゃしねぇ。ここはひとつ、伝説のプレイヤーとよばれたこのおいらが……!」


「は~い先輩、おとなしくしましょうね~」


「んだよ~けちくせぇ」


永遠さんの悪ノリは、ものの数秒で颯馬さんに止められる。

まるでいつものことかのような、手慣れた感覚で。

この二人、先輩後輩の関係なのに仲いいんだな。

一年間、一緒に部活していたからなのだろうか……


「あーもーさっきからメールうっさいなあ。あれ、なんだあんた達きてたの?」


「あ、レンちゃん先輩。遅かったっすね」


「取り巻きをまくの大変だったんだよ。まったく、こっちの身になってほしいっつうの」


携帯のバイブに顔をしかめながら、北城さんが部室に入ってきた。

自分のバッグをすみにおくと、部室に用意してあるソファへだらんと座り込んだ。

彼は普段、北城大翔として学校中で話題の美男として有名だ。

そのため爽やかな好青年を演じており、彼の本性を知っているのはここの人たちだけ。

見かけるときは常日頃女子に追われている。おかげで、いつも彼が来るのは最後になるわけだ。


「こら~レンちゃん。そこはおいらの特等席だよ~? どきなさい」


「疲れてる時くらいいいでしょ? ていうか、レンちゃんって呼ぶなって何回言えばわかるわけぇ?」


「別にいいじゃん、呼びやすいし」


「僕がよくないの!」


「あれ、レンちゃん先輩。その袋なんすか?」


「言ってるそばから……これは女子からもらってきたお菓子だよ。バレンタインでもないのに、ほんっと女子は甘いもの好きだよねぇ」


文句をぶつくさ言いながら、袋から次々にお菓子を取り出していく。

一つ、二つと次々に種類が違うビスケットやキャンディーが並べられる。


「ちょっと待って! それ、リファーナで売ってるお菓子じゃない!?」


突然、颯馬さんが大声をあげた。


「何、リファーナって」


「リファーナって言ったら、一般人じゃ買えないちょ~~~~~~高級お菓子店だよ!? レンちゃんずるい!」


「勝手に女子が買ってきたんだし! そんなに叫ばなくても……」


迷惑そうに顔をしかめる北城さんだが、颯馬さんが叫びたくなる理由もわかる。

甘いものが苦手な俺でも知っているほど、かなりの有名なところだ。

おいしいとは聞いたことあるが、実際に高級と言われるものを買うだけでなく人にあげるとは……

相変わらず女子はよくわからんな、ある意味すごい……


「ねぇレンちゃん、それもらえない? 半分でもいいからさっ」


「まてぇぇぇぇぇい、颯馬! そう簡単にとらせてたまるかあ!」


とそこに、おとなしくしていたであろう彼が立ち上がる。

颯馬さんと北城さんの間に割って入ったのは、言うまでもなく永遠さんだった。


「そんな高級なクッキーを、このおいらが譲ると思うか!? 後輩は、先輩に譲るのが常識なんだぞぉ?」

「永遠先輩、卑怯ですよ!」


「そもそも僕あげるなんて一言も言ってないよね!?」


「シャラップ! 誰が何と言おうと、これは先輩であるおいらが!」


「先輩方、やめてくださいよ。ここは公平に、勝負といきませんか? このクッキーをかけて、とか」


紅葉の唐突な提案に、俺は顔をしかめる。

もちろんあの永遠さんが、嫌だというわけがなく……


「よかろう! このクッキーをかけて、上下関係なく勝負だぁぁぁぁぁ!」


こうして、俺達遊部同士の戦いが幕を開けたのだった。



「……で……なんでクッキーを中心に、輪になんなきゃいけないわけぇ!?」


俺が胸中で思っていることと同じ文句を、北城さんが怒ったようにぶつける。

そんな彼を見ながら、俺はひそかにため息をついた。

クッキーをかけた戦いは、もらった本人でもある北城さんの反論もむなしく始まってしまった。

参加なんてしたくもなかった俺がここにいるのも、紅葉の無言の圧力に負けたからで……


「でぇはぁこれより、遊部の遊部による遊部のための対決を行う! バトルはずばぁり! ライアーゲームだ!」


「ライアーゲーム?」


「今から一人ずつ、嘘を言ってもらう。ただしそれが必ずしも本当かはわからない。真偽を問われる、おいら考案のオリジナルゲームだ!」


なんてシンプルなゲームだ、とも思った。

だがそんなゲームで勝敗が付くのだろうか。

もし当たった人が数人出たら……


「じゃあ順番で、トップバッターは輝君に任せようかな♪」


そしてなぜ俺がトップバッターなのかにもつっこみたい。

しかもオレが嘘をつかなければならないのは、まさかの颯馬さんだ。

誰が決めたんだか、この順番はあまりにも不平等すぎる。

何か言えば、すぐに嘘か本当か見極められてしまいそう……

こうなったらやけだ。勝負となった以上、見破られないようにしないと……


「俺の家の近くに、公園があるんです。よく、小さい子が遊んでいて」


「へぇ~そうなんだ~」


「たまに通るんですが、そのたびに子供からおじさんって……言われます……」


なぜか、場内がシーンと静まりかえる。

しばらくすると、颯馬さんは


「仕方ないんじゃないかな、その通りなんだし♪」


と笑顔で俺に……って……


「あの、これ嘘なんですけど」


「だって輝君、本当は四十代なんでしょ?」


「まだ十六にもなってないんですが」


「まあ颯馬の言い分はちょっち分かる気するわぁ」


「とてもじゃないけど一年には見えないよねぇ、君」


「昔から老け顔だもんな、お前w」


次々と先輩方が、俺に向かって物を言う。

紅葉も笑いをこらえながら、俺にドンマイと付け足す。

それが何だか癪に触り、俺は紅葉の頭を少し叩いた。


「ほい、てなわけで見極められなかった颯馬は負け確定~」


「え~オレだけなんかひどくないですか? まぁいいや。次はオレの番だし、ちょ~~~~難題だしてあげるね♪」


「うえ~嫌なんだけど……」


颯馬さんの嘘を聞く側の北城さんが、露骨に嫌そうな顔をする。

正直、彼が言うことが嘘か本当か俺でも見分けにくい。

そんな颯馬さんはどんな嘘をつくのか……

彼は相変わらずにっこりとした笑顔で、北城さんだけでなく皆に向かって問いかけた。


「みんなはさ、腐ってるってどういうことか知ってる? 男同士みたいな同性愛が好きな人のことを言うんだけど。実はオレもそうなんだよね」


「へ????」


「オレ、腐男子なんだ♪」


一瞬、耳を疑った。

何が起こったのか、俺は全く理解できなかった。

言った本人である颯馬さんは、物おじしない笑みを浮かべている。


「え……何……冗談だよね?」


「へぇ。レンちゃんは、答えは嘘だっていいたいんだ?」


「いや、嘘じゃないと困るし! 同性愛って何!? そんなのが好きなの!?」


「そんなものとは失敬だな! 同性愛ってのは素晴らしいものだよ!」


すると颯馬さんは、勢いよく立ち上がり、まるで人が変わったかのように熱く語りだした。


「同性愛こそ正義! 無敵ともいわざるものなんだよ! 特に輝君と紅葉君! 君達は幼馴染で親友という、素晴らしい関係じゃないか!!!」


「……何を言ってるか全然わからないんですが」


「女の子は好きですけど、オレそういうの興味ないっすよ」


「いいや、オレは騙されないよ! 一般的には輝君が攻めに見えるけど、あえての紅葉君が攻めを推したいな~きっと、一夜を共に過ごしたことも!」


「「ないです」」


俺と紅葉が声をそろえて言っても、彼はびくともしない。

こんなことが、あっていいのだろうか。

ちょっと変わった人だなとは思ってたが、まさか颯馬さんにこんな秘密があったとは。


「こんなの分かるわけないじゃん! ずるいよ、颯馬!」


「同学年なのに知らなかったの~? おいらは知ってたけど?」


「嘘でしょ!?」


「ほら~次はレンちゃんだぞ~クッキー腐れたらどうするんだ」


「いや、クッキーは腐りませんけど……」


と思わずつっこんでたが、永遠さんが気にもしていないように床をバンバン叩く。

北城さんもさもめんどくさそうにため息をついたが、一瞬で真顔になり永遠さんの方を向いた。


「僕……実は……女なんだっ!」


「……え?」


「だから、その……さっき腐ってるとか聞いて、どうすればいいか分かんなくて……」


「え、最初から女でしょ。何言ってんの急に」


「そっちが何言ってんの!?」


北城さんの嘘を、永遠さんは真顔でさらりと言いのけた。


「いやいや、北城蓮華って名前だけでそうにきまってるし。やっぱおいらの目に狂いはなかった。そうか、そうか。やっぱり女の子だったかあ」


「ち・が・い・ま・す~! 嘘に決まってんじゃん! う・そ!」


どんなに北城さんが言っても、永遠さんは全く信用しない。

まあ俺も初めて見たときは、女なんじゃないかと思ってしまったが。

結果、女子にもてるほどの美形……同じ人間とは思えないな……


「そんなこと言ってる間に、先輩の負け決定ですよ♪ 残念でしたね☆」


「ばかな……レンちゃんが男だと……?」


「今更おちこまないでくれるかな!?」


「んで、次はおいらが嘘つけばいいんだよな。えっと、紅葉だっけ」


「言っときますけどオレ、そんな簡単に騙されませんよ?」


「ふん、そんなことが言えるのも今のうちだ……。最近、大通りでひき逃げ事件があるのは知ってるかね」


いきなり時事問題が出てきて、返答に戸惑う。

何を言い出そうとしているのか、永遠さんの顔は深刻ですごく切なさそうな表情を浮かべた。


「あれをやったのは、おいらだ。あの事件の犯人は、おいらなんだよ」


……先に確認しておくが、これはあくまでもゲームだ。

仮に嘘だとして、ついていいものと悪いものとある。

こんなの誰だって嘘だって、そう思うかもしれない。

が、先輩の目は本気だ。

罪悪感にさいなまれた切なげな目が、俺の心に痛いほど突き刺さる。


「マジで……先輩がやったんすか……?」


「……」


「なら、今すぐに警察に話しましょうよ。素直に話せばきっと……」


「うっそだぴょーん。そんなことしてたら、即退学だっつうの」


で、ですよね……

俺だけでなく、紅葉と北城さんも同時に息をつく。

ただ一人、颯馬さんだけが笑顔で「演技うまいですね」と永遠さんに言っていた。

正直、俺でもびっくりした。

誰だってこんなの、嘘かどうかの見分けがつかない。


「先輩、マジですごかったすね。お手上げっすわ」


「ふっふっふ。おいらの力を襲い知ったか、後輩め」


「でもさぁ、これで四人は負け決定じゃん。輝が負けたら、このクッキーどうするわけぇ?」


「その時はじゃんけんでもしたらいいんじゃない? 公平だし」


「今までのこのくだり何だったの!?」


「じゃあオレも、とっておきのをだしちゃおっかな~」


そういいながら、紅葉はぺろりと舌を出す。

悪戯をたくらんでいる子供のような表情を浮かべた紅葉は、俺にこう言った。


「オレ、小さい頃に輝が大事にしてたもの壊したことあるんだけどさ」


「大事なもの?」


「お前がおふくろさんからもらったオルゴールだよ。全然直んなくてさぁ」


「知ってる」


「え、なんでしってんの」


「オルゴールが壊れてお前が直そうとしていたことくらい、気づかないとでも思ったのか。紛れもなく、それは本当の話だな」


ため息まじりで言いながら、昔のことを少し思い出す。

昔のこいつは悪戯好きで、まじめだった俺にちょっかいを出してくる奴だった。

まるで、かまってほしいとでもいうように。

それの一つがオルゴールのことで、本人から言うのを待っていたが……まさかこんな形でばらしてくるとは……


「さっすが輝君。やっぱり幼馴染って素晴らしい!」


「これで勝ちは決まったね。仕方ないから、あげてもいいよ?」


「存分に味わって食うんだぞ~? おいら達の分まで!」


三人の先輩方が言うのを聞きながら、俺は真ん中においてあったクッキーを手に取ったのだった。



「あーあ、負けちゃったなあ。あんなの、マジにしか聞こえないって~」


ぶつくさ文句を言いながら、紅葉が俺の少し先を歩く。

時間が過ぎるのはあっという間で、ゲームが終わってすぐに帰宅時間となった。

結局あのゲームに勝ったのは、俺。

先輩達からは味の感想文を書けと言われ、相当悔しかったことがうかがえた。


「にしてもみんなすごかったなあ。輝以外玉砕だったし」


「さらりと変なことをぶっこむ颯馬さんもどうかと思うがな」


「オレ的には、レンちゃん先輩のは本当だと思うんだけどなぁ。あれが女だったら、絶対彼女にしたい逸材なのに」


「お前のその女好きはどうにかならんのか」


「ははっ、冗談だよ。にしても永遠さんのあれにはやられたわ。勝てるわけがねぇもんなぁ」


負けを惜しむようにして、紅葉が言う。

そんな彼の後ろ姿を見ながら、俺ははあっとため息をついた。


「そういうお前は、どうしてあの場でオルゴールのことを言ったんだ?」


俺が言うと、紅葉は気まずいようにほほをかく。

少し俺から目線を外し、苦笑いを浮かべた。


「ずっと言おうって思ってたんだけど、いざってなるとダメでさぁ。お前きれるとこえぇから、年数立った今なら笑って許してくれるかなあと?」


「まったく、軽いやつめ」


「まさか気づかれてるとはな。なんで今まで、知らないふりしてたんだ?」


「伊達に何年もお前と付き合っていない、お互い様だ」


そういうと、紅葉は少しびっくりしたような顔を浮かべる。

彼の顔を見ながら、俺は持っていたクッキーを半分に割りすっと前にだしてみせた。


「そんなに食いたいんなら、やる」


「えっ、いいのかよ」


「参加する気もなかったしな。そもそも、甘いもの苦手だし。昔のことは、チャラにしてやるから」


ふっと笑いながら、紅葉の方にクッキーを差し出す。

紅葉は照れたたように笑いながら、「サンキュー」と言った。

ほんの少しだけ涼しい風と赤く染まる夕焼けが、俺達二人を見下ろすように見つめていたー


(続く・・・)

お察しの通り、この回からBL要素が入ってきます。

というのも颯馬さんがいるからなんですけどね。

颯馬さんが作者の代弁者、とでもいっておきます笑

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