表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CLUB♪ ~きっとそれは伝説になる~  作者: Mimiru☆
まだまだ続くぜ我ら遊部っ!
30/35

Dear,Cheri Mére

舞台は文化祭後。

みんながイベントごとを終え、一息ついていたころ。

一人の若者は、悩みを抱えていたー


☆永遠side☆


「あー……こりゃ終わったな~」


模擬結果と書かれた紙を眺めながら、見なかったことにするファイルの中に突っ込む。

眠くなったので、そのまま地面に転がり一息つく。

あんなににぎわっていた文化祭も、体育祭も終わったころ。


三年生にとっては勝負の時期が、幕を開けた。

終わってからというもの対策のテストやら、模擬試験やらで休日をつぶされることがやたら多い。

それでもしょっちゅう遊部に顔を出していたのは、おいらにとって唯一の至福の場だったから。

出禁くらったせいで、文化祭終わってから顔だせずにいるけど。


あーあ、なんで就職なんてあるんだろ。

なんで進学なんてあるんだろ。

先生との二者面談を、幾度となくやらされた。

それでもぱっと答えが出ないのは、特にやりたいことがないから。

学校にいる大人は、おいらが伊集院家の人間だとは知らない。

それだけ隠ぺいしている事実なことだし、今となっては「伊集院家といえば響」が当たり前だ。

いいよなあ、あいつは。迷うまでもなく当主って道があって。

どうせ難なく、大学受かっちゃうんだろうけど。


暇だし、なんかテレビでも見ようかとリモコンに手を伸ばした時だった。

携帯のバイブが、床の振動から伝わる。

画面に触れるとそれは、知らない番号からの電話だった。

間違い電話か何かだと思い、相手を煽るつもりで電話にでた。


「もしも~し、どちら様で……」


『おー、ほんとに出た。俺秋山だけど、これ中江の携帯であってるよな?』


出なきゃよかった。心の底から、そう思ってしまう自分がいる。

秋山司。隣のクラスにいる、三年生の中で「イケメン」と呼ばれる類の人間。

生徒会副会長であり、あいつのそばにいるから直接話したことはほとんどない。

どんだけ嫌ってるんだよって、自分でも呆れるけど。


「あってるけど、なんでちみがおいらの番号しっちょるの?」


『なかなかかけねぇからじれったくなってな。かわりに俺がかけた』


「かわり? 誰の」


『決まってんだろ? 響』


聞かなきゃよかった。

まあ、そうなんじゃないかなあとは思ってたけどさ。

伊集院響、おいらの実兄。

昔に別れたというのに、神様の悪戯かで再会し、束縛の日々を過ごしていた。

体育祭で何か吹っ切れてくれたのか、今はそうでもない。

というか、すれ違っても相手にさえされなくなった。

そんな響がおいらに電話、ねぇ……また嫌味でもいいに来たのかね~


「その響ぼっちゃんがわざわざおいらに何の用~? おいらも暇じゃないのよ~?」


『電話じゃらちあかねぇしさ、ちょっくら出かけねぇか? 俺含めて三人で』


え、何この急展開。誰得よ。

もちろん答えは、NOの一つしか出てこない。

あの二人と一緒に出掛けるのは、まっぴらごめんだ。

でも気にかかるのは、おいらと関わるのでさえ拒んでいたあの響がそんなことを言ってきた理由、だ。

嫌味を言うなら、電話でいい。

何なら、学校でもできる。

それなのにわざわざ……相変わらず、意味が分からないやつだな。


「いいよ、いってあげてやらんこともない」


『お、マジ~? 断るかと思った』


「そのかわり成績落ちたら責任とってちょ」


『へいへい。んじゃ、駅前に十一時な~』


つーつーと通話がきれる音が聞こえる。

やれやれとため息をつきながら、重い腰を持ち上げた。



「やぁ、随分とゆっくりなご到着だね。こういう時は、急いでくるのが礼儀ではないのかい? 永遠君」


スマートに着こなされた私服に、堂々とした態度。

なんでおいらはここにいるんだろうと、つい自問自答してしまった。

つけている洋服はほとんどがブランド品、一目見ただけで分かるほどのもの。

それをわざわざご丁寧に着てくるってことは、おいらへの見せつけの意味も兼ねているのだろうか。


昔からこういうところは何一つ変わらない。

だから苦手なんだよなあ、こいつは。


「いやあ、信号に引っかかりまくってさぁ。めんごめんご」


「まあいい。司、次の電車の時間には間に合いそうかい?」


「ああ、ギリセーフってとこだな。ほい、中江の分」


響と同じくらいか、いやそれ以上におしゃれに私服を着こなしていた秋山が、一枚の紙を渡す。

それは電車の切符だった。

この地名は、学校と同じ駅だな。

休日だっていうのに、おいら学校に駆り出されちゃうの?

うわぁ、来なきゃよかったぁ……


「この駅、学校の近くだよね~? 何? 学校でも行かされちゃうわけ?」


「さすがに休日に開いてるわけねぇだろ~?」


「詳しい話はまたするから、今はとりあえずついてきてくれないかい?」


響と秋山が、おいらの答えを待つように見つめる。

仕方なくおいらは、分かったと短く返事をした。

電車の中での会話?

そんなの、ないにきまっている。

秋山の奴が寝やがったから、気まずいの一言に限ったわ。

響はずっと外を眺めているだけで、何も言わなかった。

おいらもおいらで携帯いじくってたから、つくまであっという間だったけど。


早霧高校より少し離れた、団地。

そこから少し行った先にあったのは、墓地だった。

なぜここに連れてこられたのか、全然わからなかった。

でもそれが、やっとわかった気がする。

二人に連れてこられた墓石に彫られていた、その名前はー


「綺麗にしてあるだろう? 毎日のように、彼が手入れをしているようだよ」


「彼……」


「颯馬が言ってた。この近くなんだろ? あいつの家」


色とりどりの花に、水かけされた後のような水滴。

火がついた後の線香が、たった一本だけたてられている。


櫛崎家。

名字だけで分かる、これがあの人の墓だってこと。

ご先祖の名前の中に、あかりという文字。年代が最近だったから、すぐにピンときた。

遊部の一員である輝の母親は、以前おいらのお世話を焼いてくれた家政婦だ。

今まで名前も知らなかった、突如姿を消した彼女。

おいらにとってかけがえのない、忘れられない人―


「どうして、おいらをここに?」


「今年で三年忌、だと聞いてね。父上から、君も誘って行って来いと言われたんだ」


「わざわざおいらまで、誘う必要はあったのかね~」


「君の方が、僕より世話になったのは事実だろう?」


そんなの、そっちが捨てたからだろう。

相変わらず無神経な人が多いな、伊集院家は。

父なりのおいらへの気遣いなのか、いまだに謎が多いのも変わらない。

まさか、こんなところで昔の縁に助けられるとはねえ。


「永遠君。君は早霧を卒業した後、どうしたいんだい?」


いきなり聞かれて、彼の方を振り向く。

いつもの憎たらしい表情は、いつしか不安げな顔に変わっていた。


「こんなことを僕が言うのは、どうかと思う。今までしてきたことが、許されるとも思ってはいないさ。だが一つ、聞きたいことがある。君は本気になれば当主になれた。なぜ身を引くような真似をした?」


「……全部見透かされてたってわけね」


こいつは、本当にすごい。

それは紛れもない事実。

こいつの言う通り、その気になれば当主になれた。

追い出されてからも、戻ろうと思えば力を見せることだってできた。

でも……


「そんなの、面白くもなんともないじゃん。前代未聞な人生を送ってこそ、生きてるってことっしょ?」


こいつのことが、嫌いだった。

考え方も、何もかも違ったから。

こいつの努力なんて、嫌というほど見ている。

そんな努力を否定してまで、当主にはなりたくない。

ただ、それだけでいい。そう思って、何が悪いんだろう。


「……ほんと、お前ら全然似てねぇよな。色々な意味で」


「それはどういう意味だい? 司」


「中江といえば、文化祭での勇士っぷりすごかったよな~。あれって、英才教育の名残?」


「いや、あの演技力は僕にはできない。永遠君の実力さ。正直、僕も驚いたよ。君が、あそこまで堂々とした人だったとはね」


演劇、か~。

考えてみれば、それもこの人が影響だったんだよなあ。

ただ面白そうってだけではいってみた、中学時代。

練習量えげつなくて、めんどくさくて、セリフ覚えられなくて。

そんな時、彼女は言った。


『永遠君には演劇の才能があると思うわ。演技をしてる時の永遠君、すっごくキラキラしてるもの』


ってね。


「それで、卒業後の進路は? まだ答えてないと思うのだが?」


「そんなの、ここに連れてこられた時点で決まったようなもんっしょ。続けるよ、演劇。本格的に」


「そうか……なら、ここを出ることになるね」


「確かアメリカになかったか~? 専門の学校か何か」


「んじゃおいらが恥をかかないように、合格するまで付き合ってよ。それくらい、いいでしょ~? 成績トップの響おにーさん」


嫌味交じりに、彼を煽るように行ってみる。

響は少し笑って、


「いいだろう。僕の教育は、厳しいぞ?」


と言って見せた。


拝啓、あかりさん。

くっしーの名前、あかりっていうんだね。

あんたの話してた通り、輝はいい奴だよ。ちゃんとまっすぐ育ってる。

できたらもっと話、聞かせてほしかったな。輝のことも、あんた自身のことも。

あんたの言葉を信じて、おいらはおいらの道を探します。

もしどこかで見ているのなら、また背中を押してください。

あんたと過ごした短い時間、嫌いじゃなかったよ。

どうか安らかに、お眠りください。

       あなたのもう一人の息子、永遠より


fin

今回のタイトルは、和訳すると愛しい母へ、となってます。

永遠の進路を決めるといったとき、演劇の一択しかないだろうなと思ってました。

それにあたり、彼にとって重要な存在ー輝のお母さんがいるわけです。


これを読んだ友達が「響何があった!?」と言われました。

ごもっともですよね。でもこれが素なんですよ、一応。

響に関しては、生徒会を含め色々明かしていこうと思ってますので

しばらくお待ちくださいませ。


次回、きになるカップルのその後を追跡!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ