スマイル・バック・フォンセ
バレンタインで憧れの人と再会することができた蓮華。
それぞれの思いがつながる中、刻々とあの時が近づいているー
「紅葉っち! このお花はどこにおけばいいんでしょう!」
「ああ、それはあそこの開いてるとこにぽんって」
「おい紅葉、白い布が足りんぞ。予備はどこだ?」
「え? そっちにねぇの? 待って、今取りに……」
「大変です、紅葉っち! このお花さん、居場所がナッシングです!」
「画鋲も足りないから、ついでにそれも頼む」
「ちょっ、ストップストップ! 二人いっぺんに話しかけてくんなよぉ!」
そういいながら、紅葉は逃げるようにそそくさどこかへ行ってしまう。
それを追いかける辻村さんの背中を見ながら、やれやれと肩をすくめるばかりだった。
梅の花が咲き始め、次第と気候が温かくなるこのころ。
早霧高校では着々と、卒業式の準備が始まっていた。
来る三月十五日に俺達の先輩である、永遠さんも卒業してしまう。
そんな感傷に浸っている暇もなく、なぜか遊部は卒業式の準備にかりだされている始末で……
「ちょっと紅葉! 逃げてないで、ちゃんとやってくれる!? 他にもやることたくさんあるんだからね!?」
「無茶言わないでくださいよぉ。紙一枚把握するので手一杯なんですから~」
「はずれを引いたのが君達だったってだけでしょ。どうせ僕は生徒会であったし、自業自得なんじゃない?」
北城さんが式台に置く花を用意しながら、ため息まじりにつぶやく。
彼の言うとおり、卒業式準備自体は強制ではない。
しかし生徒会だけでは準備が間に合わないということもあり、たくさんの部活動がある中でくじ引きでどこかがすることになった。
その結果、紅葉が見事にひいてしまい現在に至るというわけだ。
「しっかし卒業式って大変なんすね~オレ掃除しかしてないから、こんなことしてたなんてびっくりっすわ」
「毎年生徒会中心にやってるんだって。ほら、わかったら手を動かす!」
「そんなことより質問です! れんちゃん先輩!」
「も~今度は何? 辻村さん。大声でその名前呼ばないでくれる?」
「今朝がたから颯馬先輩の姿が見えないのはなぜでしょうか!!」
辻村さんが、手をあげて発言する。
そういえば朝から颯馬さんの姿がないなと、いわれて初めて気づく。
改めて周りを見渡してみるが、どこをみても颯馬さんは見当たらなかった。
俺と同じように見ていた北城さんも、はぁっと深いため息をつく。
「どうせBL雑誌でもみながら、のほほんとしてるんじゃないの? 休むって連絡は来てないし」
「まあ颯馬さんですし、そこらへんの男子見ながらゆっくり来てるっしょ」
「へぇ~~~~二人とも、オレのことそういう風に見てたんだぁ~」
急に声が聞こえてびっくりする。
俺達の間後ろには、颯馬さんがいた。
しかしよくよくみると、違うところが一か所あって……
「今日もいい天気だね♪ 本番は絶好の卒業式日和になりそう♪」
「あの~……颯馬?」
「特に桜の咲き具合が楽しみだよね~♪ 今年はつぼみの数が多かったから、いつも以上にキレイそう♪」
「颯馬ってば!!!」
北城さんが、勢いよく彼の名を呼ぶ。
相変わらずの微笑みを、彼へと向ける。
「なあに? レンちゃん」
「なあに、じゃないよ! なにそのふざけたもの!」
「ふざけたもの? 何のことかな?」
「とぼけないでっ! いくらなんでも、学校にサングラスかけてくるのはおかしいでしょ!? 馬鹿なの!?」
北城さんの言う通り、なぜか彼はサングラスをかけていた。
しかも真っ黒の、目が見えるか見えないかぎりぎりの濃い目の奴を。
ああ~と思い出したように、颯馬さんはえへっと笑って見せた。
「いやあ、実は眼鏡が壊れちゃって♪ 今日眼鏡屋寄るから、それまでこれで乗り過ごそうかなって♪」
「わけわかんない……大体そのサングラス、度入ってないでしょ? 黒だから見えにくそうだし、第一校則違反だから! 今すぐとって……」
「だめ! とるのは絶対だめ!!!」
いつも笑顔しか見せてこなかった颯馬さんが、らしくないように叫ぶ。
北城さんが眼鏡を取ろうとする直前、彼はオーバーな態度を取って見せるとまた笑みを浮かべた。
「今日だけ! 今日だけだからさ! 見逃してよぉ、レンちゃぁん」
「いいから取って! コンタクト貸してくれる人探すから!!」
「あっ! だめっ……!!!」
北城さんが力づくで、彼のサングラスを取ってみせる。
彼がおそるおそる目を開けた表情は、まるで別人のように見えた。
「へぇ~颯馬さんって眼鏡とるとめっちゃかわいいんですねっ」
「レアです! レアすぎます!!!」
「撮ろうとしないで! お願いだから、そんなに見ないでください……!」
そういうと颯馬さんは体を丸めるように、縮こまってしまう。
おかしい。
俺達がその判断に下すまで、十分もかかったのだった。
「「「「眼鏡じゃないと嫌だ????」」」」
俺達遊部員の声が、一つに重なる。
部室にあったタオルで頭巾のように顔を覆いながら、颯馬さんは「うん」と気のない返事をした。
「どういう意味? 眼鏡かけてないと、目見えないじゃん」
「なん……ていうか……なれ……なくて。直接、人から見られるのが……」
いいながら、颯馬さんはまた体を丸めてしまう。
初めての光景に、俺達はどうしようもなく見入ってしまう。
その視線が痛いのか、颯馬さんはなかなか顔をあげようとはしなかった。
「つうか颯馬さんって眼鏡でしたね~描写なさ過ぎて、忘れてました」
「紅葉、何気に失礼だぞ」
「だって眼鏡イコール颯馬さんっていうか……あることが当たり前みたいな!」
「訳が分からん」
「んでどうするの? それで仕事できる?」
北城さんが言っても、彼は横にフルフル首を振る。
とてもじゃないが、できる状況ではなさそうだ。
そう思って俺達も部室に連れてきたわけだが……
「ああ、もうしょうがないな! 輝、紅葉、辻村さん! 行くよ!」
「えっ? 行くってどこに?」
「決まってるでしょ! 体育館だよ! 颯馬がいない分、僕達ですぐに終わらせるの!」
「いいの……? レンちゃん……」
「やりづらいの!! 準備が終わったら、眼鏡でも何でも選びにいってあげるから」
そういって北城さんは、恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら去ってゆく。
「やれやれ、相変わらずっすね。んじゃぱぱっと終わらせてくるので、待っててくださいね颯馬さん」
「みんな……ありが……」
「颯馬先輩! 準備が終わったら、ぜひぜひ素顔を写真で撮らせてほしいのです!」
「……それだけは勘弁してください……」
布団の中に丸くなった彼の姿を見ながら、俺達は北城さんの後を追うように部室を後にしたのだった。
「しっかし意外だなあ~颯馬さんにそんな弱点があったなんて」
感心しているのか、呆れているかわからない声を紅葉が出す。
数時間後、言葉どおりすぐに準備を終わらせた俺達は、颯馬さんを連れて学校近くのショッピングセンターに来ている。
おしゃれな洋服屋さんもあり、雑貨屋さんなど様々なお店もある。
その中に眼鏡屋さんも備わっていて、みんなで行くことになったのだが……
「あのさ、僕の服つかむのやめてくれない? のびるんだけど」
「だ、だって……人に見られて落ち着かないし……つかんでないと、迷子になりそうで……」
「なら颯馬さん! 私の腕をつかんでください! この辻村萌黄が、颯馬先輩をエスコートして見せます!」
「……あー……ご遠慮します……」
「なんでですかっ!!! 彼氏彼女ならやって当然の行為ですよ!!?」
「まあまあ萌ちゃん、少し抑えてよ」
紅葉が子供を慰めるように、辻村さんを落ち着かせる。
見られるのが嫌、ということもあってかなぜか部室にあった帽子を深くかぶり北城さんの服の裾をつかんでいる。
こんな颯馬さんは、正直新鮮だ。
いつも笑って、腐発言をぶちかましているのに。
「眼鏡なら、なんでもいいんだよね? 黒縁とかでいいんじゃない?」
「うーん……よく見えないから、レンちゃんのセンスに任せるよ……」
「僕眼鏡じゃないからわかんないんだけど。試しにかけてみたら?」
そういって黒縁や、色とりどりの眼鏡を北城さんが颯馬さんにかけていく。
その二人の姿はまるで、仲のいい友達みたいでほほえましかった。
「はうわぁぁぁ……❤ どの颯馬先輩もす・て・きですぅ❤」
そんな光景を見ている辻村さんは、携帯を片手に写真を撮っている。
さながら、カメラマンのように。
止めるべきか、止めないべきか……
「わぁ! お似合いですよ、お客様」
「そんなことないですよ。オレなんかより、君がかけてあげたほうがさらにかわいくなりますよ?」
「い、いえ……そんな」
「よかったら後で、お茶でもします?」
眼鏡屋の一角に、女の店員や客たちが何人かで囲っているところがいる。
無論、中心はあいつだ。
こっちは迷うこともなく、選択肢はスルーの一つに限る。
全く、呆れたものだ。
「……って……紅葉! 女の子と戯れない! 辻村さんも! 写真撮ろうとしないで!!」
「え~これからティータイム行こうとしてたのに~」
「君はいったい何しに来たの?!」
「写真を撮らないなんてできません! これは私にとって宿命なのです!」
「知らないよ、そんなの!!」
きれきれのつっこみが、冴えわたる。
こういうやりとりを見ること事態、懐かしい気もする。
まるで、永遠さんがいたころを思い出すようで……
「ふふっ。相変わらず自由だね、この部活は」
気が付くと、みんな振り返っていた。
いつの間に買ったのか、店員からもらった眼鏡をかけた颯馬さんの顔には、いつもの笑顔が戻っていた。
「夢を見てるみたいだ。こんなふうに誰かと店を回ったり、楽しくおしゃべりしたり。オレ、友達いなかったから」
「颯馬さん……?」
「もう君は一人になることはない……あの人の言ってた通りだったな……ありがとう、みんな」
そういって笑った彼の顔はいつにもましてうれしそうで、幸せそうで。
見てるこっちが見入ってしまうほど、きれいな笑顔だった。
「そーだ! 今日の部活動、ここみていきません?」
「ここをぉ?」
「そっ。買い物したり、なんか食べに行ったり! そういうの、なかったきがするし?」
いつにもなく唐突な提案だ、と思う。
しかし今回は、誰一人嫌な顔をしなかった。
「賛成です! 私、いいお店屋さん知ってますよ!!」
「……まあ、今日くらいは」
「あーもー仕方ないなあ。分かったよ、行けばいいんでしょ。んで、颯馬は?」
「……うん。オレもいくよ♪」
颯馬さんの笑顔はいつも通りで、俺達は心底ほっとする。
遊部員の結束がまた一つ縮まった時、いよいよ運命の時が近づいてくるー
(つづく・・・)
この話を読んだ友人から、颯馬さんって眼鏡だっけ? と言われました。
最初から眼鏡なんですよ、一応。ただそういう描写がないというかなんというか。
とりあえず颯馬さんかわいすぎ、ってことでしめておきます笑
次回、颯馬が言っていたあの人とは? 謎に包まれていた颯馬の過去を大公開しちゃいます。




