冬季新雪・降誕祭招宴
永遠がいなくなった遊部に入って来たのはまさかの女の子!
その名も、颯馬大好きガール辻村萌黄!
そんな中やってきたのはクリスマス♪
「ではみなさん! 明日からの冬休み、羽目を外しすぎないようにしてくださいね? では、よいお年を~」
担任の先生が優しげに笑い、そそくさと教室を出る。
同時に生徒達も冬休みが待ちきれないとでもいうように、みんなの顔には笑顔が浮かんでいる。
二学期も終わり、もうすぐ一年が終わろうとしているこの頃。
授業も一通り終わり、いよいよ……
「明日から冬休みだなあ! 輝!」
そうだ、こいつがいることを忘れていた。
「冬休みっつったら大みそかに、正月! 楽しいこと盛りだくさんじゃん♪ あ、今年も来るよな? 年末! 姉貴達がうるさくてさぁ」
「……どうせ、部屋の掃除に付き合わされるのがオチだろう?」
「んなこというなよぉ。お前一人じゃん? 一人年越しって寂しくない?」
「余計なお世話だ。お前じゃあるまいし」
「それどういう意味だよぉ」
まるでほしいものを買ってとせがむ子供のように、駄々をこねる。
このやり取り自体、毎年恒例のような気もする。
紅葉とは昔からの付き合いのせいか、親同士の仲もよくお互いの家に行き来したことがある。
俺の両親が昔に亡くなっているためか、年末年始はいつも紅葉の家族と一緒に過ごしていた。
今年もそうなるのだろうとは思っていたが……
「あ、いた。輝~、紅葉~ホームルーム終わったの~?」
と、そこに聞き慣れた声がした。
教室のドアの方に、北城さんと颯馬さんがいた。
何人かの女子が、彼の姿にキャーキャー言っている。
「こんにちは、北城さん。颯馬さん」
「わざわざ二人してお迎えなんて、どうしたんすか?」
「早く終わったのに、颯馬が部室に行くならみんな同時にってうるさくてさ」
「いいじゃない、たまには♪ こういうのも、いいきっかけだよ♪」
そういう彼は何かたくらんでいるかのような、笑顔にも見えた。
俺も紅葉も、何だろうといわんばかりに顔を見合わす。
北城さんははあっとため息をつくと、行くよと俺達の先頭を歩いた。
みんなでしゃべりながら歩いて、すぐ。
俺達はいつもの場所―部室へとたどり着いた。
ドアを開けた瞬間、そこにいたのはー
「メリィィィィクリスマァス!! イッツショ~~~タ~~~イム!」
赤い帽子に赤い服……サンタの格好をした、永遠さんだった。
今まで姿を現そうとしなかった彼が、突然部室にいるのだから誰だってびっくりする。
ただ一人颯馬さんだけは、笑みを浮かべていたけど。
「やあやあ諸君、久しぶりだね~元気だったか~?」
「元気だったか~……って、こっちのセリフだよ!! 部活抜けるって言ってから、姿一つ見せなかったくせに!!」
「ん~それはまあ、大人の都合で的な?」
「ごまかすなっ!!!!」
「いいじゃあん、せっかくのクリスマスくらい楽しくいこうぜ~れーんーちゃーん」
この人は本当、相変わらずだなと思った。
いなかったことがまるで嘘のように、楽しそうに絡んでくる。
これが永遠さん、か。
「じゃあ久々に全員集合したわけですし、いっちょぱーっとやりますか!」
「……全員? あの子はどうした?」
「おいらがいない間に、新入部員でも入ったのかね?」
「ああ、そうだった。永遠さんには言ってませんでしたよね、この前新しく入った……」
「皆様お待たせいたしましたぁぁ! 辻村萌黄、ただいま到着であります!!!」
噂をすればなんとやら、丁度良いタイミングで辻村さんがやってきた。
彼女もサンタのコスチュームをしており、何やら大きな袋も抱えていた。
「ああ! あなたはいつぞやの永遠先輩じゃないですか! おひさしゅうございます!」
「もしかして新入部員とはこの子のことかね」
「そうだけど……あんた、知ってるの?」
「颯馬と愛の追いかけっこ繰り広げてたら、嫌でも覚えるよ~まさかここまで来るとは、お主もなかなかよのう」
感心しているのか呆れているのかわからない声で、永遠さんはつぶやく。
そんな彼にも動じず、辻村さんはいつもの調子で話し出した。
「これも何かの縁です! 皆でクリパしましょう! この日のために私、お菓子いっぱい買ってきたんです!!」
「重そうな袋持ってると思ったら、中身全部お菓子なの!?」
「颯馬先輩のためなら、いくらでも貢げます!」
「ある意味すごいね、その執念!」
「んじゃそういうわけで、遊部inクリスマスパーティー開幕じゃああああああああああ!」
永遠さんの掛け声の下、久々に集まった遊部面子でのパーティーが始まったのだった。
それからはもう、いつもの遊部そのものだった。
永遠さんと颯馬さんが悪ふざけして、それに北城さんがつっこんで。
それに楽しそうに参戦する紅葉に、苦笑いを浮かべるしかない俺。
前と変わったことと言えば、ノリに乗りまくる辻村さんがいることだろうか。
この前まで失われた時間が戻ってきたみたいで、それが妙に懐かしくて……
「そういえばみんな。プレゼント、ちゃんと買ってきてくれた?」
颯馬さんが笑みを浮かべたまま、言う。
その言葉を聞いてすぐ、紅葉がごそごそと何かを取り出しながら話し出した。
「もっちろん準備オッケーですよ~。プレゼント選びは女子とのデートじゃ定番っすから、楽勝でした☆」
「いいよねぇ、そういうことに慣れている人は。急に言うから、ろくに考える時間なかったよ」
「へぇ、レンちゃんも用意してくれたんだ?」
「た、たまたま暇だったの!」
前々からうちでは、クリスマスパーティーの話はあがっていた。
その中で颯馬さんから、プレゼント交換をしようということになったのである。
しかもその話が出たのは、今日からわずか三日前。
友達ともプレゼント交換なんてやっていなかった俺にとって、すごく難しかったが……。持ってこれただけましか。
「永遠先輩も持ってきてくれました?」
「もっちのろん。おいらのセンスに腰抜かしても知らねぇぞ~?」
「君がそういう時って、まともなことないよね……」
「ひどいなぁ、レンちゃんは。ってなわけで早速やろうぜい、皆のもの! プレゼントよ~~~い!」
永遠さんに言われ、自分のプレゼントを手にもつ。
全員適当な位置につき、輪になって立つ。
「って、肝心な曲は? 流すのとか持ってきてないの?」
「んじゃあおいらの十八番を聞かせてやるよ~。おいらの美声聞けるんだから、ありがたいでしょ?」
「全然ありがたくないけど……」
「んじゃいくよ~ちゃらちゃっ、ちゃっちゃちゃらちゃらちゃっちゃっちゃ♪」
フォークダンスでよく聞くような音程を、永遠さんが口ずさむ。
なぜその曲をチョイスしたのかはわからないが、本人が楽しそうだから何も言わないことにした。
ぐるぐると、プレゼントだけがまわっていく……
「ちゃっ、ちゃららら~ら、ちゃんちゃん♪」
無理やり終わらせるように、彼の歌が止まる。
俺の手には自分のものではない、装飾された袋が届いていた。
「みんな渡ったね~さぁて、おいらのこれはだ~~れだ」
「あ、それオレっす。よかったっすね、永遠さん。ラッキーですよ」
紅葉がうれしそうに、ニコニコ笑っている。
包まれた包装紙を取ると、そこにはドーム状のものの中に何輪かの花がきれいに咲いていた。
「これ、ブリザードフラワーっていうんです。凍らしてるんで永遠に枯れないって話題なんすよ」
「ほぉ~紅葉らしいチョイスだね~こういうの女子が喜びそうだけど」
「プレゼント選びは基本中の基本っすからね。気に入ってもらえました?」
「まあまあってとこかな~おいら女子じゃないし、レンちゃんならまだ喜んだんじゃね?」
「なんで僕が! 何回も言うけど、僕女じゃないからね!?」
北城さんのつっこみも気に留めず、永遠さんはどや~と颯馬さんに見せびらかす。
文句交じりではあったが、内心喜んでいるようにも見えた。
「さて、オレのは何が入ってるかな~っと♪ ああ、これ! 如月先生の新作!」
「それ私のです! 文庫本だけの書き下ろしが入っていたので、買っちゃいました! 颯馬先輩にあたるなんて、光栄です!」
「この先生の作品いいよねぇ。TRIBE・STARの四人の絆が萌えて萌えて」
「分かります! 中でも二人ずつペアにできるってのが最強ですよね!!!」
颯馬さんに当たったのは、辻村さんチョイスの小説のようだった。
彼らが話していることにはよくわからなかったが、盛り上がっていたので何も言わないことにした。
「そういう辻村さんは、何が当たったの?」
「私はお菓子の詰め合わせです! いかにもクリスマスって感じですね!」
「クリスマスにお菓子……無難っつうか普通だな」
「このチョイス的に、お前が選んだんだろ~? 輝くぅん」
「黙れ、紅葉。これしか思い浮かばなかったのだ」
俺がそういっても、彼は馬鹿にするようにくくくと笑っている。
その笑い方が気に食わず、思いきり足を踏んでやった。
「んで、僕のこれ何? いかにも颯馬が好きそうな絵の冊子みたいだけど」
「レンちゃんお目が高~い♪ オレオススメ、LAPIS・JOKERの瑠×伊だよ♪ R18の♪」
また妙なものをプレゼント交換に出したな、この人は……。
北城さんはその絵をいかがわしいような眼で見ると、ため息をつきながら袋ごとゴミ箱へ放り投げてしまった。
「ああ! ひどいよ、レンちゃん! オレからのプレゼントなのに!」
「プレゼントならまともなのにしてくれる!? 僕も君も十七なのに、よくかえたね!?」
「それはほら、オレの巧みな人心掌握で♪」
「あんた店員に一体何したの!?」
彼のつっこみにも物おじせず、アハハと颯馬さんは笑顔で笑う。
捨てられた本をゴミ箱から戻してもなお、受け取ってよ~と北城さんに押し付けている。
正直、当たらなくてよかった……
「颯馬は相変わらずだねぇ~んで、一年組は何だったん?」
「オレはマフラーでしたよ。この出来具合的に、レンちゃん先輩でしょう?」
「さすがレンちゃん♪ 料理だけでなく、裁縫も得意なんだね♪」
「う、うるさいな。どういうの選んでいいかわからなかったから、仕方なくね」
「手編みのマフラーなんて羨ましいです! 私も編んでくればよかったなぁ」
「あと残ってる永遠さんのが、輝にってことか。なんだったんだ?」
「俺は……これが……」
包装紙を開けながら、出てきたものに少し驚く。
そこに入っていたのは、冬をモチーフに絵が書かれているマグカップだった。
もらった時から、なんか重いなとは思ったが。
「君にしてはまともなチョイスだね」
「さすが永遠先輩♪ もしかして先輩とおそろいだったりとかしちゃうんですか? これは俗にいう結婚記念で的な!」
「なわけあるかい。昔親せきからもらったんだけど、おいら一人暮らしだしそんなコップいらねぇしなあと思って。これなら男女ともに使えそうっしょ?」
「なるほど~よかったな、輝!」
「……ああ」
正直、びっくりした。永遠さんのことだから、奇抜な何かでも来るのだろうと思っていたのに。
もらってから一度も使っていなかったのだろうか。買ったものをあげないところは、永遠さんらしいなとも思った。
「そんなわけでっ、まだまだ盛り上がっていこうじゃないの~。おいら達のクリスマスは、これからだ!!!」
相変わらずの彼の掛け声で、再び盛り上がりを取り戻す。
皆と過ごした最初で最後のクリスマスは、あっという間に終わりを告げていくのだった……。
(続く・・・)
スライディングセーフともいえるのでしょうか。
時期はずれちゃいましたが、みなさんメリークリスマス!
遊部面子の中でもらいたいプレゼントは
個人的にそう‥‥ではなく、れんちゃんの手編みですかね笑
みんなチョイスに個性が出てて、作者側としても楽しんでかいてました。
次回は年末年始のためお休み・・・すると思いきや
31日に更新します! なぜかって? それはちょうど時期が一緒だからだ!!
お楽しみに!




