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コネクション・コンテスト in初戦

永遠と響、そして遊部の秘密を知り

さらに親睦を深めた輝たち遊部部員。

そしていよいよ、体育祭が幕を開けるー!

「宣誓! 我々生徒一同は……」


赤、青、白と色とりどりの鉢巻きをまいた上級生三人が、マイクに向かって叫んでいる。

かんかんと照り続ける太陽の光に目を細めながら、俺ははあっとため息をついた。


きたる、九月の末日。

俺達が通う早霧高校では、無事に体育祭が始まろうとしていた。

天気もすっかり晴れていて、まさに絶好のスポーツ日和。

うちの学校の組み分けは、学年もばらばらな構成になっている。

つまり……


「にしても、偶然とは思えないよなぁ。遊部全員、同じ組だなんてさ」


開会式が終わってすぐ、隣にいた紅葉が愚痴のように漏らした。

偶然か、必然か。

俺達二人をはじめ、遊部の先輩である永遠さんと北城さんまで同じ組だった。

そして生徒会であるあの四人も同じ組で、見事に敵という形で対峙することになる。


おそらく、会長の計らいなのだろう。

永遠さんの話を聞いたせいか、彼がどんなにこの学校で大きい存在なのかまでわかったような気がした。

この学校で一番の権力を持っている、と言っても過言ではないだろう。

そんな生徒会と、俺達が闘うことになるとは……


「うい~す、一年二人組~昨日はよく眠れたか~?」


と、そこに気楽そうな声が聞こえる。

振り返った先にいたのは、永遠さんだった。


「先輩、鉢巻き似合いますね! かっこいいですっ」


「ふっふっふ……この戦いで、どちらが新の王か決着をつけてやるぜ……!」


「なんですか、新の王って」


「紅組が勝ってほしいってのもあるけどさぁ。やっぱ生徒会だけには負けたくないんだよね。順番的においら最後だから、頼むぜ一年坊主!」


無邪気に笑う永遠さんの笑顔に、どう返事を返していいかわからずうつむく。先輩はのんきに鼻歌を歌いながら、そそくさとテントの方へと行ってしまった。


「なんていうか、永遠さん意外と明るくね? 戦い前だから、緊張してると思ってたのに」


「まあ、永遠さんだからな」


「ていうかさ、なんでオレ達二人三脚なの? 障害物とか、もっとちゃんとしたのやりた~い」


「知るか」


先日颯馬さんに言い渡された競技は、紅葉との二人三脚。

しかも相手は副会長の司先輩と、会計の雅先輩。

会長と永遠さんが戦う競技はなぜか明かされておらず、残った北城さんと颯馬さんはというと……


「借り物競争、五番目じゃん……颯馬と対決なんて、考えただけでも何か起こりそうだな……」


テントにつるされている生徒用のプログラムを見ながら、ぼそりとつぶやく声が聞こえる。

赤い鉢巻を額にまいた、北城さんだ。

彼の周りには相変わらずと言っていいほど、女子がたくさん囲んでいる。


「おはようございます、北城さん」


「……げ……。やあ、櫛崎君に高里君。君達と同じ組で戦えるなんて、僕嬉しいよ」


「先輩のそれ、オレから見たら違和感ありすぎなんだけどw 大丈夫? レンちゃ……」


「高里くぅん、ちょっと静かにしとこっか」


北城さんがにこにこの笑顔を浮かべる。

その表情から、絶対言うなと言わんばかりの剣幕が伝わってくる。

遊部での日常が当たり前すぎて忘れていたが、彼は学校生活では猫を被っている。

普段の彼を知っているからか北城大翔としての先輩とは、少しからみづらいな……


「プログラム五番、借り物競争に出る人は入場口にお集まりください」


放送部のアナウンス声が、聞こえる。

北城さんはヨシッと言いながら、こちらを振り返って一言。


「それじゃ、行ってくるねっ」


と、笑顔を浮かべて見せた。

彼はあんなに言っていたが、全然大丈夫そうに見えない。

北城さん……大丈夫だろうか……


「いっちょ前に人の心配してる場合かよぉ、輝」


「……黙れ、紅葉。馬鹿に仕切ったような顔はやめろ」


「大丈夫だって、レンちゃん先輩なら。オレの勘的に、今日のレンちゃん先輩は一味違うっていうか?」


「よくわからん」


「まあ、そういうなって」


いつにもまして涼し気な笑顔を浮かべる紅葉を見ながら、呆れたようにため息をつく。

こいつがそう思う理由が、なんとなくわかる気がした。

今まで部活の先輩として、一緒にいたからこそなのだろうか。

北城さんなら何とかしてくれそうな、信頼感があるというか……


と同時に、ピストルが鳴り響いた。

女子の黄色い歓声が、これでもかというほどわく。

走る北城さんの顔は、俺から見てもカッコよくて見るものすべてを魅了させている。

借り物が書かれている紙を、一番乗りに取ったその時。


「はぁ!?」


彼の声が、こだました。

俺達が聞きなれている、北城蓮華としての声だった。

皆の視線で気づいたのか、彼はハッとしてコホンと咳払いをしてごまかしてみせる。

猫を被っているはずの北城さんの様子は、どことなくいつもの彼に戻っているような気もした。

時を同じくして、颯馬さんも二番目にあった紙を拾い、一直線に女子の方へ駆けつけた。


「ねぇ、須田さん。くし、持ってる?」


「ええっ!? も、もってないです!」


「でも昨日、デパートで友達と買ってなかった?」


「ひ、人違いです! 気持ち悪いから、あっち行ってください!」


随分とはっきり言うな、と思った。

どの女子も、どの先輩も、颯馬さんに貸そうとしない。

そのすきを狙ってとばかりに、他の走者が借りものを借りてゴールしていく。

颯馬さんはやれやれと、苦笑いを浮かべるばかり。


「須田さん、だっけ。くし持ってるなら、貸してほしいんだ。お願いだよ」


するとそこにやってきたのは、他でもなく北城さんだった。

彼の登場で変わるかとも思ったが、状況は同じだった。

女子達はひそひそ話しながら、颯馬さんを偏見の目で見ている。

どうにかしようと、俺も力になろうとしたその時だった。

と、その時だったー


「ごちゃごちゃうっさい!!!! くしを貸すこともできないの!? 文句ならあとで聞くから、早くしてくれない!?」


化けの皮がはがれた、瞬間だった。

夏祭りの時でさえばれるのを嫌がって、今の今まで北城大翔として演じていたのに……


「ひ、大翔様……?」


「何度言わせるつもり? 後でちゃんと返すから、貸してっつってんの!」


「はっ、はい! すみません!」


「な、なにしてるのレ……北城君」


驚きを隠せないでいる颯馬さんの横で、くしをさっと受け取ったかと思うと彼の腕を力強くつかむ。


「走って!!!!」


そういうが否や、北城さんは颯馬さんとともに走ってゆく。

二人で同時にゴールをするも、会場のどよめきは収まりはしなかった。


「はぁ……まったく、これだから女子は嫌なんだよ」


「あの、レンちゃ……」


「勘違いしないでよね、困ってる人がいたら助けるのはフツーでしょ?」


北城さんは息を整えながら、はあっと一息つく。

係りの人が、借り物が書かれた紙を受け取りながら、ポツリ。


「えっとぉ。北城さん、借り物は……」


「はぁ? あんたの目はどこについてんの? そこにいるじゃん。自分にとっての大切な友達」


「し、失礼しました!!」


「レンちゃん……今、なんて……」


「ここに連れてきたのも、こんな面倒ごとになったのも颯馬のせいなんだから! 最後まで付き合ってもらうってこと!! それくらいわかるでしょ!」


そういう彼の顔は、真っ赤に染まっていた。

よほど恥ずかしかったのか、退場を待たずして校庭から走り去っていく。

彼の後を追うようにこちらに来る颯馬さんに、紅葉が話しかける。


「ほんと、レンちゃん先輩は素直じゃないねぇ」


「あーあ……まさかレンちゃんに助けられるとは思ってなかったなぁ」


「……いいんでしょうか? 北城さん、あっさりとばらしちゃいましたけど」


「大丈夫だよ。そこまでレンちゃんはタフじゃないしね☆」


颯馬さんの顔には、いつもの笑顔が戻っていた。

最近、彼の笑った顔は見ていなかったから、なんだかすごく安心した。

これも北城さんのおかげ……なのだろうか。


「そういえば、次の競技二人三脚だよね!!?」


……あ、これはまさか……


「二人で一緒に出るんでしょ!? 息ぴったりに、肩なんか組んだりするんだよね? ね?」


「さ、さぁ、どうですかねぇ」


「安心して、二人とも! 二人のシャッターチャンスは、このオレがしっかり一眼レフカメラに収めとくから♪」


「「撮らなくていいです」」


俺と紅葉の声が、重なった瞬間だった。

前言撤回。やはり、安心できない。

元気になったと思ったらこれか、予想を裏切らないというかなんというか……


「そんじゃま……行くとしますか、輝」


「ああ」


紅葉の呼びかけに、俺は重々しく返事をしたのだった。



そこからのことは正直、説明もしたくない。

幼馴染と言っても、しょせんその程度の関係。

息を合わせて何かをするということも初めてだった俺達は、うまく呼吸を合わせることすらできなかった。

逆に、先輩たちはすごかった。


「ちょっと司先輩、走りながら寝ようとしないでくださいよ~僕まで巻き込まれちゃうの、嫌なんだけどぉ」


「だってさあ、今日朝から準備とか色々あったじゃん? 全然寝れてねぇんだわぁ」


「それこの前も言ってたぁ。さっき、寝てませんでした?」


「いやあ、すげえいい枕を颯馬が持ってきたもんだからつい……」


「じゃあ今度は僕の膝で、寝てもいいですよ?」


「お、マジか。なら、飛ばしてくぞ~雅」


「もっちろんです!」


それがもう、速いという言葉でしか言い表せれなかった。

正直、勝負にもなっていない。

このままじゃ、勝つどころかビリではないか……!


「紅葉! 遅いぞ! もっとペースを上げんか!」


「お前が早すぎるんだよ、輝! もう少し相手のペースにあわせろよ!」


「俺がお前にあわせろ! このままでは負けるぞ!」


「わかってんよ! んじゃあ、それっぽい掛け声でも出すか~? せぇのぉ、1,2,1,2!」


紅葉の掛け声にあわせ、右と左を合わせてゆく。

だんだんとペースに乗ってきて、ようやくトップの二人が見えてきた。


「おっ、追い付いたぞ輝! こんにちはっす~生徒会の先輩方~」


「おーお前が颯馬の後輩かー?」


「ども~挨拶ついでで悪いんすけど、遊部がなくなるの嫌なんで抜かしてもらってもいいっすか?」


「えー?よく聞こえなかったなぁ。負け組は負け組らしく、おとなしく負けてればいいのっ!」


と、その時だった。

先輩たちのペースが、急に上がった。

びっくりしたせいか、ペースに少し乱れが出る。

このままじゃ……


「おい紅葉、肩組むぞ」


「はぁ!? なんで!!」


「ここまで来て、負けるわけにはいかんだろう! これも勝つためだ!」


「ああ、もうわかったよ! お前の案にのっかってやる!」


やけくそのように叫んだ紅葉の肩に、右手を回す。

紅葉の顔が、ものすごく近くに感じられる。

必死に息を合わせながら、やっとのことでゴールを目指す。

しかし、一歩及ばずといったところで先輩方が一位でゴールしてしまった。


「おーあぶねぇ~ナイスファイト、雅」


「そんなぁ~司先輩のおかげですよ~」


「ち、ちくしょう……あとちょっとだったのになぁ……」


「これで引き分け……というべきか……」


肩で息をしながら、係りの人が俺と紅葉のひもを解く。

ようやく楽になれたと思い、ふうっと一息ついた。


「お前、ほんと負けず嫌いだな。まさかお前から肩組もうなんて、言い出すとは」


「黙れ、馬鹿め」


「まあどっちにしろさ、次で勝負決まるのは確定ってことだな」


「次……」


「永遠さん対会長さん。正真正銘のラストバトルだよ」


紅葉の笑みを眺め見ながら、オレはひそかにため息をつくばかりだった。


(続く・・・)

今回の話は、私の中で神回と言っても過言ではありません。

色々二人組ができる中で、私の推しが颯馬さんとレンちゃんです。

この回は書いていて、ほんとに楽しかったです。読者の皆様にも届くといいな、なんて。


次回、ついに決着か!?

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