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エターナル・ウィズ・サウンド

生徒会側に言い渡されたのは、まさかの廃部命令?

部活の危機から守るため、体育祭で決着をつけることになったが・・・?

校庭に咲いている紅葉が、赤く色づいている。

窓から見える木々を眺めながら、黙々と走り続ける。


「今年も見事な紅葉だなあ、輝~。この美しさ、まさにオレにぴったりの植物だと思わね?」


隣で並んで走る彼―紅葉は、ふふんと鼻で笑いながら言った。

そんな彼に呆れたようにため息をつく。


「知るか、そんなこと。嫌味を言うのもいい加減にしろ」


「あっれ~? 輝君ってば嫉妬してんの~?」


「誰がするか」


「つれないこと言うなって~オレ的に輝って名前もいいと思うけどなあ。ねえ、レンちゃん先輩☆」


「……名前のことで僕に振らないでくれるかな」


俺達二人の前方を走っている、北城さんが怪訝に顔をしかめる。

髪を一つにまとめ、すっきりとした感じにしていた。


「なんでっすか~? 蓮華なんて、かわいらしくていいじゃないですか」


「よくない! この名前のせいで女の子に間違われるわ、女装させられるわで大変だったんだから! ていうかなんで僕達が、校庭走んなきゃいけないわけぇ!?」


「んも~うるさいわよ、レンちゃぁん。怒るとしわが増えて、余計ふけちゃうって颯馬も言ってなかった~?」


「知らないよっ!!!!」


北城さんより先を走っているのは、言わずと知れた永遠さんだ。

夏休みが明けた、九月中旬。

俺達遊部部員は永遠さんの強制連行で、尼川近くにある公園で走り込みをしていた。


理由はおそらく、体育祭に向けてなのだろう。

二学期に入ってすぐの部室には、「打倒・生徒会」という掛け軸までかけてあったし。

永遠さんの考えていることは、相変わらずわからない。

だが遊部を廃部にしたくない気持ちは、俺達も変わらないはずだ。

事実、あんな約束を受けてしまったわけだし……


「レンちゃん、分かってる~? 相手は生徒会なんだよぉ? おいらはまだしも、レンちゃんみたいな女の子がかなうわけないじゃあん?」


「女じゃないってば! 大体なんでこうなったわけ? 合宿届だしてないだけで廃部ってなくない?」


北城さんが、俺の思っていたことを代弁するかのように全部吐き出す。

先頭を切って走っていた永遠さんが足を止めたのは、その時だった。

彼は俺達に話しかけるように振り返ると、俺達も足を止めた。


「行動を冷静に分析しただけだって、あいつも言ってただろ? そういうこと」


「なんつうか、あの会長さんすっごくオレ達のこと嫌ってません? こんだけのことで廃部にまでするかなあ」


紅葉の言うことを聞きながら、ふと思う。

俺には、分からない。あの会長があそこまでする理由が。

時々見せる、永遠さんの切ない表情のことも。

そして……


「あとさ、ずっと気になってたんだけど。あの一件から颯馬の奴、全っっ然顔見せないんだけど! なんで何も言わないわけ?!」


生徒会と遊部の対決が決まってから、今まで。

颯馬さんが、俺達の前から姿を消した。

学校では見かけるから、部活に来ないだけなのだろう。

前のように絡まれもしなければ、話さえしない。

まるで、もともと知らない人だったかのように―


「颯馬は来ないよ。あいつは、生徒会のメンバーだから」


「はぁ? どういうこと?」


「生徒会は三人。颯馬があっちに入れば、四対四の直接対決ができる。つまりは、そういうこと」


「それと部活に来ないのと、どう関係あるわけ!?」


「オレはもともと遊部の人間じゃない。ただ、それだけの話だよ」


ふと、聞きなれた声が聞こえる。

振り返ると、公園の入口付近に颯馬さんがいた。

いつも見ていたはずのさわやかな笑顔が、妙に懐かしいような気もする。


「やあ♪ 久しぶりだね、みんな♪」


「颯馬……さん?」


「どうして、ここに……」


「体育祭での競技を決めたから、会長に届けてって頼まれてね♪ ついでに顔見に来たんだよ♪ みんな、オレに会いたくてしょうがなかったんじゃない?」


爽やかな笑顔、明るい声。

いつもの颯馬さんなはずなのに、どうしても違和感が抜けない。

颯馬さんの登場に驚きを隠せないのは、俺だけではなかった。


「やあ、じゃないでしょ! あんた今まで何やってたの!?」


「生徒会の仕事だよ。対決の時は生徒会の方でやるって、永遠先輩から聞いてない?」


「それと部活に来ないのとどう関係あるの!?」


「あと今、遊部の人間じゃないって……」


紅葉と北城さんは、じっと彼らを見つめる。

颯馬さんも永遠さんも、ただ黙っているだけだった。

しばらく顔を見合わせたかと思うと、颯馬さんが笑顔のまま静かに言った。


「そんなに知りたい? 知ってしまうともう、後戻りはできなくなるよ?」


「どういうことですか?」


「それだけ大きい事なんだよ。それを知ってるから、オレはここにいる。でもこんな状況になってしまった以上、話しておくべきじゃないですか? 永遠先輩」


話をふられた永遠さんが、ため息まじりにベンチに座り込む。

涼しい風が落ちていた葉を、どこかへ運んでいる。


「伊集院響が、伊集院財閥の御曹司ってのは知ってる?」


「あ、はい」


「その御曹司が、もともとは二人いたって言ったら?」


二人……?


「永遠先輩と響先輩。二人は血がつながった、れっきとした兄弟なんだよ」


頭をトンカチで殴られたような、衝撃が走った。

そういわれても、全く実感が持てない。

響先輩のことを昨日見ただけだから詳しくは知らないが、永遠さんとは全く正反対ということは雰囲気からして分かる。


しっかり者かつ何でもできて、でもどことなく不気味に感じる会長・響先輩。

何でも楽しそうに遊んでいるようにみえて、しっかりと考えている永遠さん。

この二人が、兄弟なんて……


「正確には異母兄弟なんだ。先に生まれた響先輩のお母さんは、病気でなくなって。その数か月後に後継者を探すために再婚したのが、永遠先輩のお母さんなんだよ」


つまり響先輩のあとに、永遠さんが生まれたってことなのか……


「あいつとおいらの差は、あっという間についた。おいらと違って、あいつは優秀だから。父もそれが分かってて、彼を当主へ選んだ。その後おいらはどうしたと思う?」


「もしかして……家から出たんですか……?」


「そ。伊集院家の縁を断ち切ったんだ。あいつのたくらみに、はめられてね」


なんとなく、合点がいった気がする。

響先輩が遊部を敵にしているように見えたのは、きっと永遠さんに対して憎悪を抱いているからだ。

ただでさえ母を亡くし、そのうえ自分とは正反対の人間が当主になるかもしれないという恐怖で。


「まあおいら的には、それでよかったよ。解放されたしね~この高校で再会してから、束縛の身になったけど」


「そ、束縛!? 永遠さん、会長に何かされてるんすか?!」


「もともとこの部活を作ったのはおいらが束縛の身から逃れるため。だけどあいつはそのことさえ、許し

てはくれなかった」


「そこで! 遊部での活動を監視する役とし、オレがここに来たってわけ♪」


俺は、どう声をかけていいかわからなかった。

想像していた以上に、彼の過去が壮絶だったから。

俺達が知らないところで、そんなことがあったなんて……


「……話は大体わかったよ。あんたたちがお互いに憎み合ってることも、ね……颯馬はこのこと、全部知ってたの?」


「知ってた、というより知っちゃったかな。実はオレ、裏で情報屋やってるんだよね。君達が秘密にしているようなことも、オレは簡単にわかっちゃう。だから……ごめんね、レンちゃん」


だからさっき、知ってしまうと後戻りができないって……

颯馬さんは多分、知ってはいけないことを知ってしまったのだろう。

それが響先輩に分かってしまった。

だからこうして、永遠さんと一緒に……


「おいらは、この遊部がなくなるのだけは避けたい。自由になりたいとか、そんなのどうだっていい。今はただ、このメンバーと一緒にいるのが楽しい。ただ、それだけなんだ。だから、生徒会長をぶっ飛ばしたい!!!」


今までに聞いたこともないような、凛とはっきりとした声。

幼い容姿に見合わない、なんともたくましい表情―。

いつもの彼じゃないようで、いつにもまして頼もしく見えて……


「はぁ……何を言い出すのかと思えば、そんなことか……」


と、呆れたように北城さんがつぶやく。

彼は横髪を手でくるくる回しながら、相変わらずの態度で言って見せた。


「君の秘密を知らなくても、僕はやるつもりだったよ。ここまで僕を連れてきたのは、君達でしょ?」


「……怒って、ないの?」


「秘密を打ち明けなかったのは、お互い様だしね。ここがなくなったら、また窮屈な暮らしに逆戻りじゃん。仕方ないから、やってあげるよ。その対決」


「オレもやりますよ、対決。ここにいると、すごく楽しいですしね。先輩方とももっと色々な話したいし♪」


「レンちゃん……紅葉……」


二人の言い分に、俺も賛同するかのようにうなずいて見せる。

正直俺も、最初はこんな部活嫌だった。

今すぐにでもやめたい、そう思っていたのに。

いつの間にか先輩達といるのが、楽しくなっていた。

遊部に入ったからこそ、こんな素晴らしい人たちに会えたんだから。


「おっしゃあああああああ! やる気全っ開!!! そうときまれば颯馬ぁ! 試合中手は抜くなよぉ! やるなら正々堂々とやりたいんだからなぁ!」


「もちろん! オレだって負けません!」


「打倒生徒会を目指して! 遊部部員全員、ファイヤ――――――――――!」


永遠さんの掛け声が、公園中にこだまする。

遊部部員が初めて一つになったような、そんな一日だった。


(続く!!)

今回のタイトルは、和訳すると「永遠と響」になるようになっています。

こんな感じで結構タイトルにはこだわっているので、そちらもぜひ。


余談ですが、永遠さんと響は年が丸々一年離れてます。

永遠が三月三十一日生まれで、響は四月二日生まれです。

ほんと、我ながらよく考え着いた設定だなと自画自賛ばかりですね。うんうん。


次回、生徒会と対決します。

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