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アサインメントリサーチ・inサーベイランス

合宿に夏祭り・・・思う存分夏休みを満喫した遊部。

しかしなにやら、不穏な影が・・・?

「世は残酷なものだ……我の力をもってしても、この程度とは……」


ブラインドを指で少し開き、そこから見える景色を見ながら彼はつぶやいた。

妙に深刻な顔つきで、なにか思いつめたような表情を浮かべている。


「……ねぇ、そこで何してんの」


「ここから見える夕日を眺めているのさ……」


「そんなのみればわかるから! ていうかまだ昼だし! さっさと自分の宿題終わらせなよ!」


「だってぇ宿題多すぎるんだもん、めんどくさいんだもん、やりたくないんだも~ん」


「子供みたいに駄々こねるなっ!!!」


北城さんが一喝しながら、永遠さんの首根っこをつかんでテーブルの近くまで持ってくる。

そんな光景を眺めつつも、俺は自分の宿題をやろうと目線を下に落とした。

あんなに楽しかった夏休みも、もう終盤へと近づこうとしている。

この遊部の面子で色々やったことが、嘘のようにあっという間に過ぎていった。


そして学校が始まるまで、あと一週間。

いつものようにだらだら過ごしていると、永遠さんから緊急招集と書かれたメールが届いた。

『宿題なんて存在価値があるのか』、と。

意味が分からなかったがとりあえず部室にやってきた俺達の目に入ったのは、机の上に広げられた先輩の宿題の山だった。

そのことを把握していた颯馬さんと北城さんが、すでに彼の宿題を手伝っている。

俺も紅葉も自分のをしながら、それを眺めているわけだが……


「もーなんでこんな多いわけぇ? 宿題とやらは。三年生は受験~とか言ってるくせしてひどくね?」


「受験勉強も兼ねてですからね~先生方も張り切ってますし♪」


「それに宿題っていうのは、前から計画持ってやるものでしょ? 残り一週間なのに、なんで一つもやってないわけ!?」


「宿題なんてもの、存在してないと思ったからだ!」


「馬鹿なの!? それくらいわかるでしょ! 高三なんだから!」


北城さんが言っても、永遠さんはぶーぶーと口をとがらせている。

何も言えず、俺はため息ばかりで見つめるばかりだった。


「なあなあ輝~あと宿題、どれくらい残ってる?」


「社会の問題集が少しあるが」


「何、お前五教科それぞれ、全部終わったわけ? 化け物かよ」


「計画的にやっていないお前が悪い」


「ひっで~。他の先輩方はどうなんですか?」


「ちょっと手こずっちゃったけど、無事に終わったよ♪」


「僕は初日で終わらせたけど?」


「なんでそんな終わるんすか、すごいっすね」


「ほんとほんと。おいら達の気持ちも知らないで」


どうやらほどんど終わっていないのは、紅葉と永遠さんの二人だけのようだ。

北城さんは当日で終わらせたのか……本当にそんな人、いたんだな。

さすが優等生、というべきか。颯馬さんが終わってるのも意外だが。


「輝くぅん。今オレが終わってるの意外だなって思った?」


「人の心を読まないでください」


「まあ確かに、今年は珍しかったよ? いつもは永遠先輩のように、ためちゃうからね~」


「よくいるよねぇ、終盤になって焦る人って。まさか全部やってないとは……」


呆れたようにつぶやく北城さんの目線には、やはり永遠さんがいる。

永遠さんはめんどくさーいとか文句を言いながら、宿題の方にゆっくりと戻っていく。


「しかし、よくもまあこんなに残せますね。先輩に言える立場じゃないっすけど、この量どうするんすか?」


「なせばなるのさ、何事も! やってみなければわからん!」


「あいっかわらずポジティブだね、君は。この課題研究とかどうするつもり?」


「ふっ、そこはぬかりなく……すでに手はずは整っている」


そういうと永遠さんは、A4のレポート用紙をどんっと机に置く。

彼は一枚めくったかと思うと、さらさら文字を書くと俺達に見せながら一言。


「名付けて!!!!! レンちゃん活動日誌!!!!!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


また妙なものを思いついたな、この人は……

俺が呆れていると同時に、いち早く北城さんが突っ込んだ。


「ふざけんのもいい加減にしてよ! そんなもん提出できるわけないでしょ?!」


「颯馬~! 今日のレンちゃんの日程は~?」


「えーっと……今日は六時に起きて、いつも通りお弁当を作ってますね。それで駅のところで、たくさんの女子に囲まれながら登校して……」


「なんで君が僕の一日の流れ把握してんの!? 気持ち悪いんだけど!!」


北城さんが何を言っても、二人はやめようともしない。

いつもの、北城さんいじりだ。

なぜかはわからないが、二人は北城さんをからかうのが好きらしい。

紅葉もたまに面白いからと言って混じっているが、俺には到底理解ができんな。


「ていうか、なんで僕ばっかり!? 颯馬でもいいじゃん! 君達、仲いいんでしょ!?」

しびれを切らした彼の言葉に、わずかだが二人の顔がこわばる。


二人はお互いに顔を見合わせたかと思うと、先に颯馬さんがにこりと笑って告げた。


「オレのことなんて、レンちゃんよりつまんないと思うよ♪」


「そんなの分かんないじゃん! 大体君は人のことばっかり話して、自分のことを話さないってのはどうかと思うけど!?」


「だって一回も聞いてこなかったじゃない♪」


「じゃあ今聞くけど、なんでそんなに他人に詳しいの!? よくもそんな所かまわずペラペラしゃべれるよね!」


彼の怒ったような叫びが、響き渡る。

答えてくれるのかとも思ったが、颯馬さんは何も言わなかった。

少し困ったような微笑みを浮かべ、こちら側を見渡す。


「あ、オレ生徒会室に呼ばれてるんだった。行ってくるね」


「颯馬……さん……?」


「ごめんね、レンちゃん。君の気持ち、わかってあげられなくて」


去り際にそう言いながら、颯馬さんは部屋をそっと出てしまう。

待ってと止めた北城さんの声が、むなしく室内にこだまする。


「あーあ、地雷ふんじったねぇ奥さん」


すると、今の今まで黙っていた永遠さんが宿題をしながらぽつりと言う。

彼はシャーペンの芯を取り換えながら、めっとばかりに言った。


「そういうのは思ってるだけで、いっちゃあかんやつよ~? 颯馬だって、何かしら事情があるわけだしぃ」


「そんなこと言われたって……じゃああんたは、何か知ってるわけ?」


「おいらは本人から聞かないと信じない主義なんでね。颯馬のことを知ってるのは、ここじゃ会長くらいじゃね?」


「そういえば颯馬さんって生徒会なんですよね。この機会だし、颯馬さんを尾行してみる! ってのはどうですか?」


何を言い出すかと思えば……

永遠さん達といるせいか、紅葉まで悪知恵が働くようになった気がする。

呆れている俺のことなんて考えてもいないのか、相変わらず無邪気に笑っている。


「つけたら先輩のこと、少しはわかるかもっすよ?」


もちろん、彼の提案を断らないわけがなく……


「グレイトだよ、紅葉! おいらもそう言おうと思っていたぜぇ!」


「たまには意見が合うじゃん。この機会、生かさなきゃ損でしょ!」


「もちろんお前も来るよな? て・る☆」


三人の視線が、痛いほど突き刺さる。

これは、断れる空気ではないな……

そう悟った俺はため息をつき、分かったとだけ返したのだった。



ついていったはいいものの、颯馬さんの行動は読めなかった。

生徒会の仕事なのか、紙を教室においたり職員室で先生と話したりしていた。中でも奇想天外だったのは、すれ違う人々に


「あれ、田中君髪切った? 店員がいつもの和田さんじゃなくて大変だったね~」


とか。


「太田さん、水野君が駅前で他の女の子と話してたの見たよ~。あの制服からして静蘭高校かな~」


さらには、


「先生、大変ですね。出張と偽って漫画喫茶でマンガ読んでたせいで、仕事増やされるなんて」


と、本人が決して言えないようなことをぺらぺらしゃべっていた。

何でも知っている、という域ではない。

てっきり俺達遊部の面子だけかと思っていたが……

知らないことなんてない、そう物語っているのかのように見えた。


「どんだけ人のこと知ってんの、颯馬の奴……気持ち悪い……」


「物知りってレベル越えてますよね~ますます謎だ……」


北城さんと紅葉も、呆れたように物を言う。

周りの人達は彼を怖がっているように道を開けたり、ひそひそ話したりしている。

開いた道を一人颯馬さんは、涼しい顔をしながら淡々と歩いている。

涼しい顔……なはずなのに……なんだろう、この違和感……


「輝りんは、颯馬のことどう思ってんの?」


不意に永遠さんに聞かれ、えっと声が漏れる。

突然のことにどう答えればいいか迷っていると、彼は自分にも言い聞かせるように言った。


「颯馬は悪い奴じゃない。ただいいように使われてるだけだ。あいつも、おいらも」


「永遠……さん……?」


「目に見えてるものが、真実じゃないってことだよ」


永遠さんの言葉が、オレの心に重りのようにのしかかる。

前から感じていた違和感が、はっきりと形になったような気がした。

永遠さんと颯馬さん。

二人のことに関しては、まだ知らないことが多すぎる……


「永遠さん、輝! 颯馬さんが生徒会室に入りましたよ!」


紅葉の言葉に、はっと我に返った。

そうっと壁からのぞいてみると、ちょうど颯馬さんが生徒会室に入るところだった。


「で、どうするんですか。中の様子とか見たら、ばれちゃいますよ」


「こんなこともあろうかと~ジャジャーン、おいら特製盗み聞きセット~」


さっきの真剣な顔つきと打って変わって、どこからともなく紙コップを四つ取り出す。

もう、つっこむこともめんどくさいな。

しょうがないので俺も、一つ取ってドアに紙コップを当ててみた。


「かいちょ~仕事終わりましたよ~」


「うむ、ご苦労だったね。颯馬君」


「お疲れー颯馬。悪いけど、のど乾いたからお茶ついでくんね?」


「も~司先輩、自分で注いでくださいよぉ~」


「めんどくせぇんだよ~」


「じゃあ颯馬! 僕の分もお願いっ!」


「みゃーちゃんまで……しょうがないなあ」


微かに見える隙間から、見たことあるようなないような人が見える。

多分、真ん中の机に座っているのが会長なんだろうな。何回か見たことあるし。

颯馬さんと会長のほかにも、二人の男子生徒がいるように見えた。


「へぇ~あれが生徒会の先輩方。ちゃんとみたの初めてかも」


「はぁ? それマジで言ってんの? 割と有名だよ、あの三人は」


「……俺も、初めて見ました」


「輝も? 知らない人いるんだ……正直そっちにびっくりだよ」


北城さんは呆れたようにため息をつくと、小さな声で指をさしながら丁寧に教えてくれた。


「いい? まず右の机にいるのが会計の二年、白石雅しらいし みやび。ちなみに書記が颯馬ね」


北城さんが言う先にいる彼は、北城さんに負けず劣らずのかわいらしい顔で、小柄な体型な人だった。

颯馬さんと同級生とは思えないほど、少し子供っぽく見える。


「で、左であくびしてんのが副会長の秋山司あきやま つかさ。結構イケメンだから、ファンクラブがあるとか聞いたよ」


いかにも眠そうに見える司先輩に、颯馬さんがお茶を注いでいる。

確かに遠くから見ても、きれいな顔だってのが分かる。

ここの高校の先輩は、北城さんといい女子にモテる人が多いってことだろうか。


「んで、真ん中に座ってんのが会長の伊集院響いじゅういん ひびき。校長の息子で、伊集院財閥の御曹司なんだってさ」


「御曹司なんすか!? なんか、すごいっすねうちの生徒会」


紅葉が驚きを隠せないという風に、会長らをまじまじと見つめる。

正直、俺は何も言えなかった。

生徒会に、何か不穏な空気を感じたからだ。

この嫌な予感は、何なんだ……?


「そういえばこの前の祭りに君を見かけたよ。友達とでも行ったのかい?」


「いえ、遊部部員全員でです。会長もいらしてたんですか?」


「毎年うちの生徒がよく来てるというのを聞くからね。深夜徘徊をしていないか、見回りしていたんだ」


「今年もすごいきれいでしたよね~中でも、連発花火とか……」


「そういや海ん近くでお前ら見たけど、合宿でもしてたのか?」


司先輩が眠たげながらも、二人の会話の間に入る。

あくびをしている先輩に対し、颯馬さんは相変わらずの笑顔で答えていた。


「ええ、まあ。レ……北城君の家が、近くにあったものですから」


「いいなぁ、颯馬ばっかり~……でもさぁ、僕が知ってる限り、遊部のなかった気がするんだよねえ? 合宿届」


雅先輩が、挑発気味にものをいう。

先輩方のその笑みは遠くから見ていても、その怖さは痛いほど伝わってきた。


「前々から考えてはいたがやはり、決行せざるを終えないようだね」


「なにを、ですか?」


「遊部を廃部にしようと思っているんだ」


は、廃部!?


「うわあ! いい考えですね、会長!!」


「響~合宿届だしてないってだけで、廃部はまずくね? 先生とか部員とか」


「心配しなくても彼らに顧問はいないよ、随分前からね。その点も廃部にする一つの理由さ。雅君、前に頼んでおいた体育倉庫の掃除は見たのかい?」


「あんなの見るまでもないですよ~ぜ~~~んぜん終わってないんだもんっ」


「忘れてただけかもしれないじゃないですか。永遠先輩だって、何か考えが……」


「颯馬君、君はよくやった方だよ。つらい仕事を任せて悪かったね……もうこちらに戻っておいで」


全然話が見えてこない。

遊部が、廃部? こんな、急に?

どうしてこんなことに……いったい何がどうなって……


「んじゃ部員には? 確か颯馬の他に四人いたよな」


「え~そんなの勝手に決めちゃえばいいじゃないですかぁ、ねえ会長」


「心配せずとも、彼らには許可を取ってあるよ。早速手続きをしよう。雅君、颯馬君。頼んでも……」


「誰がいつ、許可したって?」


聞きなれた声がした時には、俺の後ろでのぞき込んでいたはずの永遠さんはいなかった。

気が付くと彼は静かにドアを開け、生徒会室に堂々と姿を現していたのだ。


「おやおや、部員そろってのぞき見とは……関心しないね、永遠君」


「それはこっちのセリフだ。何勝手なことしてんの」


「僕は君達の行動を冷静に分析した上での判断しただけさ。日頃の行いだろう?」


「遊部を廃部になんかさせない。あんたに縛られるのは、もうたくさんだ」


「ほう……いつもながらにたてついてくるねぇ、君は」


響先輩は不気味な微笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。

彼は永遠さんと向かい合う距離まで歩くと、お互いににらみ合いながら話を続けた。


「これを機に、決着をつけてみないかい? 永遠君」


「決着?」


「この学校の体育祭が九月末に行われるのは、知っているだろう? そこで君達遊部の面々と、生徒会で対決するのさ。君達が勝ったら遊部を続行、我々が勝ったら……遊部を廃部にさせてもらうよ」


響先輩の笑みはすごく怖く、いつも爽やかな颯馬さんとは比べ物にならないくらいだった。

状況はまだ、全部は把握できない。

分かるのはただ、遊部がなくなってしまう可能性があるということだけ。

永遠さんが俺達を見渡す。紅葉も北城さんも、彼にうなずき返す。


「いいだろう。その勝負……受けて立ってやる」


彼の凛とした強気な発言に、俺はひそかに闘志をたぎらせたのだった……


(続く・・・)

いやあ、こわいですねぇ。

読んでくれた友達全員が「響、嫌い」と言ってくれました。

こんなに嫌われるキャラを作ったのは、初めてですね。話が進んでいくうちにどんどんひどくなっていくので、皆さんもどうぞ嫌いになっちゃってください。


次回、ついに明かされる!? 遊部の謎解禁!

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