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 コーラ片手に工場へ戻ってきたら搬入口前の広場になんか見たことあるアダムスキー型が停まってた。

 その黒いボディを背にして、ミラクを小学生くらいまで縮めたようなちっちゃい奴が半包囲してる工場の連中相手に「ミラクを出せ」と声をあげてる。チンピラの次は宇宙人、今日は変な来客が多い。

 ちっちゃいミラクの足下ではマクスウェルが数人がかりで押さえつけられて唸ってるし、囲んでる外側ではミラクが落ち着きなくそわそわしてる。

 なんとなく状況を察して、包囲の外側を回ってミラクに小声で訊く。


「お迎えじゃないのか」

「コウガ、戻ってたの?」

「今な、で、あいつは?」

「彼女はシエル。ボクより後に生まれた子で、ボクが蓄積したデータを受け取りに来たって言ってる」

「なら渡して一緒に帰ればいい。帰りたかったんだろ」

「スピカはー、あの黒いのだけど、一人乗りなんだ、二人で乗るとうまく飛ばない」

「じゃあ貸してもらえ」

「無理だよ。スピカとパイロットはペアリングされてるから、他人が乗るのはいいことじゃない」

「乗れない訳じゃ無いんだろ、道つけてやるから乗って帰れ」

「何する気? シエルは本当に戦うのが得意なんだ。危ないよ」

「気にすんな。お前は上見て飛んできゃいい。もう事故んなよ」


 改めて見回せば、シエルとやらはしびれを切らしたのか半ば威嚇するように「お前らじゃ話にならん。ミラクを出せ」と要求を繰り返してる。それを相手に工場のじいさん連中が「どこからきたんじゃ? お母ちゃんは?」だのと見当違いも甚だしい。だから孫にいい顔されねえんだ。


「嫌だよそんなの!」


 ミラクがいきなり叫んでシエルがこっち見た。


「どうしてコウガはそうなんだよ。なんにも訊かないで進もうとするんだ。ボクはただ帰りたい訳じゃないのに、みんなに迷惑かけるくらいならボクは帰りたくなんてないのに」


 真剣な叫びだったのだろう。ミラクは目尻に涙を溜めていた。


「そこにいたんだ、ミラク。どうして隠れてたのさ、スピカが無くて恥ずかしかったのかな?」


 シエルがゆっくりとした歩みでミラクに近づく。

 豹変したその雰囲気に圧されるように、囲んでいた連中が綺麗に道をあけた。


「君にデータは渡せないからだよ」

「おかしなこと言うなぁ。スピカを無くしたミラクには無用のものでしょ」

「それでもこれはボクのものだ。ボクだけの大切なものだ」


 今にもこぼれそうな雫を振り払ってミラクが言った。

 口喧嘩は泣いてたら負けだ。


「なに泣いてんだ」

「泣いてなんかいないよ!」


 だったら目擦ってんじゃねえよ。

 ミラクの頭に手をおいて言ってやる。


「何も訊かなかったのはお前が何者だろうと助けてやるのには関係ねえからだ。ここの連中だって迷惑だなんて思っちゃいない」


 言いながらマクスウェル押さえつけてる奴らに、タイミング合わせて解放しろ、とアイコンタクトを送った。通じたかは知らんが。

 そしてもう手を伸ばせば触れそうな距離まで近づいてきたシエルに向かって言う。


「それからシエルっていったな。そのスピカこいつに貸してやってくれねぇか? 横から口出すのもナンだが頼む」


 シエルが何か応える前に、近くにいたドミニクにダメもとで、派手なことしろ、とジェスチャーで伝えてみる。


「なに? いきなり。無理に決まって――」


 上手く伝わったのかは分からないが、ドミニクが手を打ち合わせた間から花と万国旗だしてばら蒔いた。

 出来すぎだ。

 シエルの注意がそっちに向いた瞬間、全力でマウントを取りに行く。

 ふざけた反応速度で迎撃されて咄嗟に構えた左腕が折られた。

 タイミングよく解放されたマクスウェルがシエルの後ろから鼻息荒く両手拡げて抱きつこうとする、がハイキック一発で伸された。

 その隙になりふり構わずベアハッグを仕掛ける。折れた左腕が悲鳴をあげる。知ったことか。

 体格差もあって両腕を封じる形で極りはした。腕が千切れない限り離す気はないが相対位置が微妙だ。


「行け。ミラク」


 シエルが頭突きしてくる。で思った通り肋骨がヤバイ。倒れ込んで地面とで挟む。

 唐突に頭突きが止んだ。「あ」という声と共に抵抗してた力も緩んだ。


「もう知らないから! 行ってきます!」


 ミラクの鼻声が響き、立ち上がってみればスピカとやらは跡形もなく消えていた。

 空を見上げても動く星なんてありはしない。

 すっとぼけた工場の連中は一頻り駄弁って、すぐに続きは飲み屋でと移動していく。

 そうさ、UFOなんてものがあってもなくても世はこともなく回る。

 だから泣く必要なんて何処にもない。


「お前! なんてことしてくれたんだ! 責任とれ! おい!」


 だから口調変わるほどテンパって掴み掛かってくるシエルの指を外しながら言ってやる。


「とりあえず三年待て」


 今度のヘッドバットは躱せる筈もなかった。





「ただいま。お母さん」

「お帰りなさいミラク。シエルはどうしたの?」

「いろいろあって、地球にいるんだ。ごめんなさい」

「そう。じゃあミラクが無理に帰ってきたのはどうしてかしら?」

「あのね、お母さん。ボク……好きな人ができたんだ」

「あら、おめでとう。でもそれじゃあシエルは納得しなかったでしょうし、あの子に頼んだ私のミスだったわね。」

「ううん。誰が来ててもボクは上手く言えなかったと思う。好きなんだって気づいたのはここへ帰ってくる途中だったから」

「ふふふ、じゃあシエルに取られちゃう前に早く戻らないといけないわね。でもその前にその人のことを私にも教えてくれる?」

「もちろんだよ。あ、お母さん、ボクの体十年分成長促進出来ないかな?」

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