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UFOの制作は中々順調だ。知らないうちに「Day Dream 1」なんていう開発コードもついていた。
なにかと「うちの孫が、うちの孫が」言う主任の話では、あと三年もすればブルーインパルスもびっくりのレベルで飛ばせるらしい。
ミラクが言うには「近いうちにまた侵略者が来てヤバイ」そうだが、それでもUFOの制作は順調だ。
中畑達が実用化に成功したオバテクを特許として売って資金ブーストを掛ける目処も立った。
だから当面の問題は工場のお友達だ。
俺が関わる以前、金が無いなりにもどうにかする必要があって、ボディペイントとしゃぶしゃぶが好きなお友達に色々頼ったことがあったらしい。
返済は済んでるらしいがそのお友達が今になってアヤをつけに来てる。
「小田ァー! 居んだろうが! 出てこいコラァ!」
「居留守通じると思ってんのか! あァ!?」
「しまいにゃ火ぃつけんぞ! 小田ァ! 聞いてんのかコラァ!」
気合いの入った三人組だ。
グラサンハゲが搬入口のシャッターをガシガシ蹴ったくって、金髪デブが横のドアを延々ガチャガチャさせ、スーツメガネがうろつきながら煙草に火を着ける。
それをみんなして事務所の二階でカーテンの隙間から見下ろしている。
なぜかやたら因縁つけられてる会計の小田君がさっきから泣きそうだ。
三馬鹿がご丁寧にもアポ要らずのやかましい黒のワンボックスで乗り付けてきたから、工場の連中は揃って新築の事務所へ逃げ込んでる。
こっちも関係社屋だと知らない馬鹿共が、音沙汰ない工場に喚き散らしている形だ。
「ガサイレ! カチコミ! はいたツバ飲まんトケ。OK?」
外の馬鹿に釣られて興奮したドミニクが、昨日見た映画のセリフで小田君を多分、励ましてる。
「Boss ミラクいない。ナカハタも」
マクスウェルは何故か俺をボスと呼ぶ。
そのマクスウェルが言うようにミラクと中畑の姿がない。
「その二人は多分工場のほうに残ってます。声かけたんスけど集中してたみたいで」
新人の園田君がずれたメガネ直しながら教えてくれる。
中畑はビビりだから良いとして、余計なことしそうなミラクが逃げ遅れてんのは面倒くせえな、とか思ってると金髪デブがガチャガチャしてるドアが勢いよく開いて中からミラクが中畑に止められながら出てくる。金髪デブが鼻打ってたたらを踏んだ。
「なんなんだよキミ達、近所迷惑考えなよ」
場違いな金髪ロリの登場に一瞬鼻白んだスーツメガネが、煙草を一息吸い、煙吐きながらニヤついて言う。
「おう、嬢ちゃん。俺らァここの人間に用があんだわ」
「今は誰もいないよ、なんでか知らないけど」
「そうかい、なら嬢ちゃんでもいいな。連れてけ」
「ッス」
「ちょっ、なんだよ、やめっ、うわっ、おい」
グラサンハゲがミラクを羽交い締めにして引きずる、金髪デブが中畑をぶん殴ってからそれを手伝い、手慣れた感じで流れるように黒のワンボックスへ放り込んだ。
大した抵抗も出来ずにミラクはあっさり拉致られた。
チンピラなめてた。展開早えよ。
「マクスウェル! 車出せ!」
「What happened?」
なんでこの状況でアニメ見ようとしてんのかプレイヤーに円盤突っ込んでるマクスウェルをネックロックして窓から一緒に飛ぶ。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
何語かで喚くマクスウェルに無理矢理受け身とらせてケツ蹴りあげて車まで走らせる。
「Let's car chase」
「OK boss」
事務所裏の駐車場には一台だけ異彩を放つ車が停まってる。
俺はよく知らんが流体力学と空力特性を突き詰めて設計されたその形は誰の目にも速く走るためのものとして映るだろう。そんなメーカーの努力の上に描かれたロリコンどもの崇める女神が微笑む姿は、見る者になんだこれはという疑問でもって世界の広さを教えてくれる。
世間体はともかく追うにはうってつけだ。
余裕で八桁万円するクーペの助手席に乗り込んだ。運転席にマクスウェル。
エンジンスタート。
特有のこもったエンジン音と共に、カーステレオからマジカルうるさいアニソンが流れ出す。
マクスウェルがハンドル握って歌いだした。
英語発音のせいでちんぷんかんぷんな歌を聴きながらドライブ。
ミラクに持たせたスマホのGPSを頼るまでもなくやかましいエンジン音を追っていくと、ターゲットのワンボックスは商店街というのも烏滸がましい通りの手前で呑気に信号待ちしていた。
ちょうどいいから前を塞いで止めるようマクスウェルに言って、マジカルステッキという名の金属バット持って降りる。助手席側から小走りで近づいてバンパーにフルスイング。いい感じに入って一発でエアバッグが膨らむ。ついでにバットの先っぽを飾ってた羽みたいなのも粉々。そのまま運転席に回り込んでロックかかってないドアを開ける。スーツメガネがよくわかってない顔で狼狽えてるから引きずり出して水月に膝をぶち込み、腹抱えたところにフロントチョーク。後部座席のスモークガラス越しに中見えないままガン飛ばすと金髪デブがのこのこ降りてきて、ナンジャコラと巻き舌でメンチ切ってくる。スーツメガネを足元に転がしてやったら中途半端に屈んで助け起こそうとする。バカが。すかさずシャイニングウィザード。でもってスタンプ連打。ついでにスーツメガネも蹴りつけてどっちも失神。
一人足りない。
「コウガ~、怖かったよ~」
ミラクが半べそかいて後部座席からダイブしてきたから受け止める。「オージョーセイヤ」と声が聞こえてそっち見るとマクスウェルがグラサンハゲと殴り合ってた。
加勢しようと後ろから近づいてもこのハゲ全然気付かないからさくっと絞め落とした。
ちょいちょい野次馬集まってるしさっさと逃げてもよかったが、このまま絡まれ続けるのも面倒くせえと思ってワンボックスの中を漁ると、用意のいいことにロープがあったから三人を縛って積み込んだ。
マクスウェルとミラクは先に帰して、俺はエアバッグ膨らんだワンボックスでドライブ。
舗装もされてない山道をちょっと行ったところで一人ずつお話すると金髪デブが簡単にゲロッた。「ただじゃ済まさねえ、能登組が黙っちゃいねえぞ」だって。俺の実家じゃねえか。
こんな奴らなんざ知らねぇが、阿呆らしくなって三馬鹿の回収頼もうと久々に後藤さんに電話したら何故か親父が出た。「今何してる」「どこにいる」「帰ってこい」と埒が明かないから用件だけ言って切った。途端にスマホが震えだして止まんなくなるから電源落とす。
この辺は熊出るらしいし三馬鹿は車に積み直しておいて、送ってやる義理もないから歩いて帰ることにした。
寂れた県道を半ばまで来たくらいで日が沈み、星が主張し始める。
遠くで蝉が鳴いてる。
暑く、ぬめるような風が肌の露出した部分を上滑りしていく。
なんか疲れた。
全てがどうでもよくなってくる。
ポツンと佇む、俺が生まれる前からずっとあるような自販機でコーラを買った。夏休みのような味がして、旨いがこれじゃないと思った。




