きまぐれ覇王9話
日が沈みかける頃、宿屋「またたびの木」の前に8人の兵士と1人と平民が現れた。
宿内の酒場もそこそこ仕事帰りの客が入り始めている。
「神獣が居るというのはここか?」
兵士が領主に神獣を発見したとの情報を持ってきた、酒の匂いのする平民の男に問いかける
「へい!黒髪の女に飼われてるようでがす!子犬程度の大きさなので隷属の首輪で捕獲できるかと!」
「それが本当なら褒美をくれてやるが、もし違うのなら牢屋にぶち込むことになる」
「ちゃんと確認しやした!ここに泊まってる女のペットだという話でがす!」
「それならいい、ではいくぞ!」
ズカズカと威圧するような態度で中に入ると、女の猫獣人が店番をしていた。
「おい!ここに黒髪の女が泊まってると聞いたんだがどこにいる?」
「・・・あんたら一体カグヤちゃんに何の用だい?」
不信な目をしながら兵士たちに問いかける
「俺達は領主様から命を受け、その女を訪ねてきたのだ!領主様に逆らうか!?」
「いや・・・逆らう気はないんだけどね、今居ないんだよ、何か用なら聞いておくけど?」
「その女のペットに用があるのだ!ペットをここに置いて出かけたりしていないのか?」
「は?ペット?」
その言葉を聞いた酒場の客と猫獣人の視線が、酒場の看板娘のエスカに向かう。
それに気づいた兵士が、ちょい脅し気味に
「おい!その女のペットについて何か知ってるのか?知ってるなら全部話せ!」
ちなみにエスカはまだカムイに会っていないのでカムイの事は知らない。
「ヒィ!えとあのその~・・・私がペットです・・・」
「あ・・・?何を言ってる?ふざけてるのか!?」
「ウヒィ!いあいあいあ、ふざけてないです!常連のお客さんにも聞いてみてください、私がカグヤさん・・・黒髪の女性のペットか?って」
そこで今日も3人で飲んでいた獣人達が口を出した。
「ああ、そこのエスカちゃんは俺達の治療の代価に黒髪の女のペットになってくれたんだ、間違いねえよ。」
「待て!?話が混乱してきた・・・治療したのはペットではなく女か?黒髪の女が治療師だという事か?」
「そうだぜ?俺達の目の前で治療してくれたよ、凄腕であっという間だったぞ」
・・・・・・・・・おいおい・・・神獣ってのはこの酔っ払いの勘違いか?・・・
「なぁ・・・確認するが、お前はその神獣とやらが治療した場面を見たんだよな?」
真っ青な顔で冷や汗流しまくる平民に優し~く穏やかに問いかけると・・・
「えとですね・・・協会のシスターがですね・・・神獣様が怪我を治したと・・・」
ブチブチブチブチブチ!・・・ピュ~!
「そいつぁ~つまり・・・見てないって事でいいのか?」
これ以上ない笑顔で少し頭から血を流しながら再度問いかけてみる・・・
「ギャース!?すぐに協会に聞いてくるでがす!」
「待てゴラァ!?ぶちのめして牢屋に叩き込んでやる!!!」
凄まじい勢いで宿屋から飛び出ていく平民・・・そして頭から血を流す兵士達の追いかけっこが始まったようです。
しばらく後の宿屋の夫婦
「ねえ、あいつ等が探してたのって多分、カムイちゃんだよね・・・?」
「間違いないな・・・神獣の血は全ての病を癒し、肉は寿命を延ばすと言う・・・強欲な領主の耳に入ったか・・・このまま勘違いで終わってくれればいいが・・・」




